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第5話 『ヒーロー』を求めて

「茜お嬢様が非番の日に御用ってことは、目的は誠ちゃんかしらね。法術特捜ってことは法術がらみ。中でも、『近藤事件』、『バルキスタン三日戦争』で鳴らした英雄だもの。今注目の法術師としては必要とされて当然よね」 


 素早く自分のかりんとうと湯飲みを確保すると、アメリアはそう言って静かに寮の備品の安物の椅子に腰掛けた和服の茜を見つめた。


「僕ですか?僕なんかで良いんでしょうか?法術特捜が動くってことはシュツルム・パンツァーの出番は無いんですよね?僕が出来たのは乙型の『法術増幅装置』のおかげであって僕自身の手柄じゃないと思うんですけど……」


 コンプレッサーのコンセントを抜きながら誠は自信なさげにそう返事をした。確かに、『近藤事件』では『光の(つるぎ)』で巡洋艦一隻を沈めクーデターを鎮圧し、『バルキスタン三日戦争』と呼ばれた、紛争の絶えない大陸ベルルカンの独裁国家バルキスタンでは法術兵器『05式広域鎮圧砲』を用いて紛争自体を終結させた実績は十分英雄と呼ぶに値するものだった。


 しかし、どちらも05(まるご)式特戦の誠専用機である乙型に装着されている『法術増幅装置』により誠の力を増幅させて得られた戦果だった。自分が英雄と呼ばれるような存在では無い。誠はその後ろ向き思考からいつもそのように自分を見ていた。


「誠さん。それほど卑屈になることはなくってよ。貴方は十分立派な法術師です。確かに誠さんが目当てなのは確かなんですけど、それだけではないですわね。法術特捜の外部協力員全員。つまり司法局実働部隊の方々にもご協力いただく必要のあることですの。ちょっと広域捜査になりそうなので、人手が必要になりますので」 


 そう言って茜は上品に湯飲みを取り上げた。自分の作法にはこだわるが人のそれには頓着しないと言う彼女の思想を裏打ちするように、ばりばりとかりんとうを頬張ってぼろぼろかすをこぼす茜の部下のカルビナ・ラーナの姿に誠は苦笑いを浮かべた。


「それじゃあ俺等は邪魔なんじゃないですか?法術特捜の外部協力員ってアメリアさんと西園寺さんとカウラさんと神前ですよね。それじゃあ、俺とサラは失礼しますんで」 


 そう言って島田が茶を啜りながらそう言って立ち上がろうとした。隣ではサラが大きく頷いて同じようについていこうとした。


「島田、サラ。オメー等も聞いていけ。これも何かの縁だ。まあ、乗りかけた船だろ?それに良い経験にもなると思うぜ。うちの任務は何もシュツルム・パンツァーを用いての力技ばかりって訳じゃねーんだ。たまには足を使って手柄を立てるってのもいー経験になる。特に島田。オメーの腕っぷしが役に立つこともあるかも知れねー事件だ。『喧嘩最強』を自称しているテメーとしては黙っていられねーんじゃねえか?そんな事件とあったら」 


 ようやく手に入れたかりんとうをおいしそうに食べながらランがそう言った。


「クバルカ中佐!本当ですか!喧嘩ですか!どこの誰とやるんです!釘バットはアリですか?金属バットくらいなら持って行っても良いんですよね?」


 ヤンキーの闘争本能が島田にそう言わせた。『喧嘩最強』と言われたタフガイである島田にとって、整備班の任務は刺激に欠ける仕事だと思っていた。久しぶりに暴れられると言う喜びに島田は打ち震えていた。


「島田よ。何も相手が素手だとは限らねえぜ。例えばアタシみたいに常に銃を持ってる相手と喧嘩するか?やるか?今からやっても良いんだぞ。瞬時に射殺してやる。釘バットでも金属バットでも持ってこい」


 死んだような目に変わった戦闘モードのかなめに呼び止められて島田の顔色が青ざめていった。


「そうですよね……敵さん銃とか武器とか持ってる可能性大ですよね……しかも、神前の野郎みたいに光の剣とか使う法術師かもしれないんでしたよね……失礼しました」


 さすがの島田も相手が素手ならどうにかできるが、武装しているとなると話にならない。それどころか法術特捜が動くと言うことは誠を超えるクラスの法術師を相手にすることも考えられた。『バルキスタン三日戦争』では発火能力者であるパイロキネシストに誠は命を助けられたと言う事実もあった。島田もいきなりパイロキネシストの発火能力で火だるまにされては手も足も出ない。


「かなめお姉さま、そんなに島田さんを怯えさせること無いじゃないですの。今回はそんな物騒な事件になる前に私達の足でそれを阻止するお仕事です。その為には、島田さん、グリファンさんのお力が必要になりますの」


 茜は微笑みながら中腰のまま怯えている島田に語り掛けた。その言葉に納得できないような表情を浮かべながら島田は座り直すとかりんとうを口に運んだ。



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