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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第二十八章 払わされるツケ

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第141話 結末としての死

 周りの手入れがされずに朽ちるに任せるようなビル群。そんな町並みを見ながら誠がカウラの『スカイラインGTR』から降りたときに耳に響いた銃声に自然と胸の銃に手をやっていた。


「神前!」 


 警告するようにカウラが叫んだ。そして後部座席から飛び出してきたかなめの一撃で誠は転がった。


「ちんたらやってんじゃねーぞ!西園寺!」 


 前を走っていた茜の車から降りたランは銃を抜いていた。かなめは冷たい視線で誠を一瞥して目的地の重要参考人志村三郎の事務所に上がる階段を駆け上がっていった。今は時間が無かった。恐らく厚生局にとってあの化け物の敗北によって必要なくなった三郎は消される。その事実だけは消しようが無かった。


「神前、法術を使用している形跡は?厚生局にも法術師は居るはずだ。もし敵の中に混じっていたら厄介なことになるぞ」 


 冷静に後部のハッチを開き、カウラは誠に誠のサブマシンガンを手渡した。


「感じませんけど……とりあえず今のところは法術の反応は有りません」 


 誠には銃声の後、静まった空間が逆に恐ろしく思えた。カウラもライフルにマガジンを刺し、ボルトを下げて装弾する。駆け上がっていったかなめ達だが、銃声は聞こえなかった。


「私達も行くぞ!」 


 そう言ってカウラはエレベータルームに走った。だがしばらく走ったところで誠は強烈な違和感を感じて立ち止まった。


「どうした!」 


 立ち止まった誠を怒鳴りつけるカウラだが、誠の表情が次第に青ざめていくのを見て異変を感じた。そして誠の法術をターミナルとした精神感応式通信が使用できなくなっていることに気づいた。


「何が起きた!」 


 今度は歩み寄ってカウラが誠の肩を掴む。誠はただわけも分からず恐怖に震えていた。


 初めての経験だった。明らかに強力な意思が誠達の侵入を拒んでいるように感じた。直接、誠の精神を縛り付ける感覚が意識を引っ張るような感覚が支配した。そして恐怖の文字が誠の脳裏に叩きつけられた。


「カウラさん。西園寺さん達が……」 


 そう言いかけたときビルの三階で銃声が響いた。そして誠の上空でガラス窓が破られ一人の男の姿が空中に舞い、そして銀色の鏡のような平面へと消えた。誠はそれを見て恐怖の源が上空で消えた男の放ったものであることに気づいた。


「神前!神前!」 


 しばらくして自分が震えながらカウラの胸の中で倒れていることに誠は気づいた。


「ああ、カウラさん」 


 どれほどの時間だったのか、そもそも先ほどの空中に消える人影を見たのが現実なのかさえ分からない。意識の混濁、脳裏の焼きつく痛みのような恐怖が誠の心を支配していた。


「どうする?休むか?」 


 カウラが優しくそう言ってくれるが誠は自分の体が動くことを確認すると彼女の手を借りながら立ち上がった。


「大丈夫ですよ。それより西園寺さん達は?」 


 カウラの目は三階の先ほど男が飛び出した窓から顔を出しているランを見上げていた。


「じゃあ行きましょう」 


 誠はそう言いながらゆっくりとエレベータルームへと歩き出した。ろくに管理もされていないエレベータは汚れが目立つがとりあえず動くらしいことは分かった。


「ここってそんなに金にならないことをしていたんですか?」 


 あまりの貧相さに誠は隣のカウラにそう尋ねるが、明らかに呆れているカウラは答えなかった。ドアが開き、二人は乗り込む。銃を構えながら通路を進んだ。目的のドアの前で立ち止まる二人。そしてしばらくの沈黙。二人の前で静かにドアが開いた。


「やられたよ。完全に先を越されちまった」 


 開いたドアの前に立っていたのは拳銃を手にしたランだった。その手にした小型拳銃PSMを手に事務所の入り口のドアを示す。カウラと誠は導かれるままに事務所へと入った。


 室内は外装の忘れられたような廊下の汚さの影もなくかなり落ち着いた事務所のような体をしていた。そしてその中央の豪華な応接セットのところでかなめが腹を押さえて倒れこんでいる瀕死の紫色のスーツを着たヤクザ者を支えていた。赤い染みが広がっていく。その腹に複数の刺し傷。恐らく致命傷であと数分と言う命だろう。誠は思わず目を背けた。


「あの兄ちゃん……やっぱり姐御の今のこれか?へへへ、昔の男と今の男。どっちがいい男かな?え?サオリさん」 


 力ない笑いを浮かべて一度親指を上げた後、誠を見つめた男、瀕死の志村三郎は拳銃を置いて右手の親指を挙げて見せた。青ざめた顔に強がりの笑みが浮かんでいた。


「馬鹿言ってんじゃねえよ!なあ、言えよ!なんとか!」 


 誠は初めてうろたえているかなめを目にした。生体パーツの複合品と自虐的に語っていたかなめの目から涙が流れている。それを受けながら致命傷を負った男は静かに笑みを浮かべていた。


「ありゃあ……優柔不断の相だ。泥棒猫には注意した方がいいですぜ……」 


 そう言って志村三郎は口から流れた血を拭って見せる。


「馬鹿野郎!そんなこと今はどうでもいいんだよ!アタシだって義体で何とか生きてるんだ!話せよ!お前が知ってることは全部!」 


 かなめの叫び声がむなしく事務所に響く。カウラはゆっくりとかなめの肩に手を乗せた。


「許さねえぞ!アタシを抱いた時の金だって貰ってねえんだからな!なんだよ!その目は!神様気取りか!仏様でも気取るのか!おい!」 


 そこまで言ったところでランがつかつかと志村三郎を支えているかなめの顔を引っ張り思い切り平手を打った。


「おい!目を覚ませよ。これも仕事だ」 


 ランの一言でかなめの目に悲しみ以外の感情が戻ってくる。その有様を見ていた志村は腕の中でニヤニヤと笑ってみせた。


「昔振った野郎が一人……あの世に旅立つくらいで……うろたえるなんて……。姐御……あんたらしくも……無いじゃないですか……『甲武の山犬』の二つ名が泣きますぜ……」 


 その言葉と共に三郎は手にしていた通信端末を落とした。目は開かれているが口から最期の息が漏れた。


「蘇生技術がある東都警察の医療班はあと十分かかるそうだ。間に合わないな」 


 カウラの一言にかなめは怒りに燃えた目でキッとカウラをにらみつける。いつに無い殺意がそこにこもっていた。しかし、思い出したようにかなめは三郎が最期まで握り締めていた携帯端末に手を伸ばした。


「そいつはテメーの手柄だ」 


 静かにそう言ってランはかなめの肩を叩いた。誠は何も言えずに誠の知らない顔のかなめを見つめていた。


「この糞餓鬼……テメエ……この状況下でよくそんな口が利けるな」 


 いつものどこか感情を殺したようなそれとは違う鋭いかなめの視線がそこにあった。だがそれを向けられてもランはひるむ様子も無かった。


「アタシ等は自業自得でくたばった容疑者に同情する暇はねーな。それより……」 


 ランがそこまで言った所でかなめの空いていた左手がランの襟首に伸びそうになるが途中で止めた。


「そうだな。アンタの言うとおりだよ」 


 そう言ってかなめは目を志村に移した。安堵した表情でかなめを見つめている志村の顔色が次第に青ざめていく。そしてその瞳はただ呆然と立ち尽くしている誠に向けられた。


「俺の分も……楽しめよ……ぼっちゃん」 


 そこまで口にすると志村は再び訪れた痛みに顔をしかめて苦しむ。その様をかなめ達はただ眺めるだけだった。


 そしてかなめの腕の中で志村三郎は息絶えた。



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