第二話 過去の記憶
「空、早く起きて、もう朝だよ」
シルクのような、なめらかな音は、ピアニストが弾いた音のようで、その声は優しくて、迫力があり、温かい春風が耳元を撫でていくようだ。
まるで周りのすべてが 明るくなってきた。もしその声を聞いたら、きっとその心地よい音が忘れられずに、何度も心に響くのだろう。
銀白色のふわふわした髪は、絵のようで、その独特の色が彼女の顔に神秘的な魅力を加えていく。
元々美人だから、その白いの髪は彼女のために独特の味を加えて、まるで何かの隠密な魅力だ。雪女とでも言えるだろう。
その白い髪は雪のように細くしなやかで、 頭の曲線に沿って自然に垂れ下がる。彼女の髪は陽射しを受けて銀色の光沢を呈し、幾筋かの白髪が風のおかげで揺れている。
美人なのに顔には幾つかの傷がついてしまってる、理由はわからないけど、見てるだけで痛々しい。
「おはようございます、母さん」
僕は明るい声を出して、丁寧に挨拶をした。
僕の名前は望月空。まだ十歳の普通な男の子。
そして今起こしたのは僕のお母さん、望月鏡音。まるで鏡のようにとても美しい名前で、お母さんに似合ってる名前だと思う。
お母さんはとても優れた人だ。僕が落ち込んでる時や泣いてる時はいつも側にいてくれる。
例えば前テストの得点がよくなくて、僕自身にも破れかぶれをしてる時、ただ「今日は何も考えないで、海辺に行って遊ぼう」というただの一言で、僕は救われた気がする。
もちろんそれでけではなく、僕が好きな剣道もいろいろ教えてくれた。最初はお母さんそれ得意なので教えたのかな、と思ったけど、実はお母さんも初心者。ただ僕のためにいっぱい学んだだけ。
お母さんはいつも自分には才能がないと言ってるけど、その努力もお母さんの才能だと僕は思う。
やっぱり何より、僕は今みたいに自然の朝が大好きだ。
でも僕は夜が嫌い。なぜなら名前も知らないお父さんが帰って来るから。
毎夜帰った後、僕は庭に行けと命令され、そしていつもドアを閉じてお母さんを大声で叱る。僕にはそのことをする理由がわからない。
もちろんそういう時は止めたいだけど、ドアに小さな穴を作って覗くと、気づけば僕の目から川のように涙が流れている。
そしてお母さんは僕を気づき、庭で僕を慰める。
「ね、お母さん、なぜ離婚しないの?」
ある日、僕は質問してしまった。それは僕の心の中にいつも隠してる問題だけど、言う勇気がなくてずっと言えなかった。
正直本心は今日も言いたくなかったけど、なぜかその言葉が自然に口から出てしまった。一体なぜなんだろう、でも今のそのことを考える場合じゃない。
僕の言葉を聞いて、お母さんは珍しく顔を下向きにして、そしてわざわざと顔を隠してるように体育座りをした。
「大人になったらわかるんだよ、今の空は知らなくてもいいから…」
口振りはいつも通りだけど、僕が座ってる場所が近いから、お母さんの些細な震えが感じる。しかし今の僕じゃ理由がわからないので、お母さんのために何もできないだろう。
なぜ?と言いたい所だけど、お母さんはそう言ったから実は関わるなと同じなので、僕はこれ以上問い掛けなかった。
深い空に、明るい月が浮かんでいる。月の光は雲を突き抜けて大地に降り注ぎ、静かな大地に暖かさと感情を添えている。この月の光の下で、まるで植物の生命力と力も感じることができるようだ。
燦然たる珠のような月に、周囲の星々がそれをくっきりと浮かび上がらせている。その独特な銀色の光 は、まるで妖精の衣裳のようで、誰でもこの素晴らしい夜の中に陶酔させてしまう。
それなのにお母さんが顔を上げて「帰ろか、明日も学校があるんじゃない?」っと帰ろうとした時、見間違いなのか、なぜか目から涙が出ているような気がする。
もしかしたら、お母さんはいつも強がってるのかもしれない、ふと僕はそう思った。
もちろん大嫌いで辛い夜だけど、今の僕はそんな辛い夜でももう一度愛してみたい。
「母さん、今日はお買い物だよね、僕も一緒に行きたい」
相変わらずの朝、そして相変わらずのお母さんと僕。
昨日のことを経て、僕は少しでもお母さんの力になりたい子供になった。
できることといえば…まずは買い物と洗濯からしようと僕は思った。正直恥ずかしいけど、それを考えて一夜も眠れなかった。
「へぇ、珍しいね」
微笑みながらお母さんはそう答えた、そして帽子をかぶって、僕の手を繋いだ。
普段はお母さんの手を繋いだことがなくてわからないけど、きっと美しい手だなと思った。実は、ざらざらした手だ。でもなぜか温かく 、重さを満載した船のように、ずっしりとした優しさと情感が含まっている。
僕たちが住んでいる大分県の街はそこまでにぎやかな街ではない、むしろというと静かな方だ。
随分と古い街なので、青い石畳の道は歳月を経て、ますますと滑らかになり、両側の木造楼閣は昔話を語っているように、古風な雰囲気を漂わせている。
古いのは当然だけど、決して汚いというわけいじゃない。店のおばさんとおじさんは毎日頑張って掃除してるので、結構綺麗だ。
そして僕もこの街が大好き、この古いだけど静かな街が大好きだ。
「やっぱ何度来ても最高ですね」
言いながらお母さんは小さく笑った。
「そうだね、僕も大好き!」
あれ…?なんか…?
気づけば僕が大好きな街が見えなくなった。そういう時は落ち着くべきなのに、お母さんのことを思い出せばなぜか落ち着かない。
深呼吸してそして目を開ければ、そこにはお母さんの姿がいた。
やっぱりそうだ、僕は死んでない、と些細な期待をしてるとき、お母さんの一言で僕は希望を失ってしまった。
「空を殺さないで、その代わりに私を殺して!!」
それは大地も震える、お母さんが出したことのないデカい声だ。もちろん僕の心もこの言葉のせいで震え始めてしまった。
「空ちゃん、もう朝だよ、安芸にも無事に辿ったし、起きましょう」
お母さんのと違って、それは子供の言葉だ。優しいというよりは明るい、活発な言葉は跳ねる音符のように、雰囲気を明るくしている。雲雀の歌声ように軽やかで、いつまでも元気な声だ。
その声を答えるため、僕は早速起きた。おはようございます、と言い出そう瞬間に、風の中で揺れている白い髪に目が奪われた。その髪が風のメロディに乗って、自由自在にゆれていて、まるで無言の詩のようだ。そして、まるで…
「ちょっと、泣いてるけど大丈夫?」
「あれ…?」
日向さんのおかげで、僕はやっと頬から静かに流れている涙を気づいた。淡く銀色に輝いている。その涙 の温度は、まるで初雪が溶けるように、 冷たくもない暖かくもない、私の目を、そして心を湿らす。
日向、という苗字は有名すぎて地味な僕でも知っている。
手が無理矢理繋ぎられた時の暖かさと、その後彼女が言った言葉も僕は誰かと似ているだと思った。
僕に希望をくれた誰かと。
「おはようございます、晴」
それは普段の僕には言い出そうのない言葉だ。敬語はともかく、そもそも人の名前を呼ぶわけがない。だけどなぜか、その言葉を言った後、心が暖かくなった。
「お、おはよう…」
日向さんも流石に驚いたので、ちょっと詰まってしまった。そしてこの後に続く「空ちゃん、もしかして病気?」と、僕はそう問われた。
なんと言うか、彼女らしい発言だ。僕も大体そういうこと聞かれるだろうと予想した。もちろん病気なんかないので「いえいえ、そんなのはありません。」っと手を振りながら、正直に答えた。
日向晴。本当に不思議な人だ。最初はわがままで、言うこと聞かないただのガキだと思った。でも今は少しでも彼女と一緒にいろんな所を行きたくなった。
もしかしたら人生が迷ったとき、今みたいに自由なことをするのもいいかな、と僕は思う。