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騎士も来た!

 その時、喫茶室の扉を大きな音を立てて開いた一団がいた。

 全員、ピカピカの鎧とヘルムを着て、先がラッパになった長い銃を抱えている。

「総員、構え!」

 がしゃがしゃと音がして、かけつけた全員が片膝をつき、射撃の体勢をとる。

「おわっ、待て!」

 さすがの熊さんも泡を喰って変な動きになっている。

 私も、マスケット銃が放つ殺気に気圧されて何をすることも出来ない。

「狙え!」

 銃口が熊さん、もとい伊藤専任部長を狙う。

「うてー!」

 バン! パン! パン!

 喫茶室は火薬の白煙に包まれた。


 そして、たくさんの紙吹雪とテープが飛び散った。

 パンパカパーン!

 射手の後ろではファンファーレが鳴り響く。

「お誕生日、おめでとー!」

 ひときわ輝く金色の甲冑を着た男が進み出た。そして、腰をぬかした伊藤専任部長に手を差し出した。

「帰国、おめでとー!」

「生還、おめでとー!」

 甲冑の連中が次々に熊さんと握手する。熊さんは、呆然としてなされるままだ。

「なんなんですか、これ」

 私は、カナさんにきいた。

「知らないわよ、こんなの聞いてない!」

 瞳孔が開ききっている。

「アリサのヤツ、これ知ってて逃げやがったな!」

 真子が、ふだんかぶっている猫を脱ぎ捨てて、ぶち切れていた。

「とにかく。ここはお茶子ギルドの管轄です。ここで騒ぎを起こす方には出て行っていただきます」

 ようやくカナが蚊の鳴くような声を絞り出した。

「聞こえたかてめーら。警備部も、探検部も、すぐに出ていきやがれ! あとできっちりナシつけてもらうからな」

 真子が吠えた。


 そして、数時間後。

 喫茶室は臨時休業の札を裏返して通常営業に復帰した。

 全ての割れ物は片付けられ、細かな破片も回収された。もちろん、クラッカーの噴出物も。

 消臭と強制排気を経てからの午後の営業はいたって平和だった。

 国内、国外の営業さんが打ち合わせをし、サンドイッチやクッキーをつまむ。

 そして夕方。

 あの見覚えのあるシルエットが磨りガラス越しに巨体をのぞかせた。

「よろしいかな」

 おどおどと入ってきたのは伊藤専任部長だった。

 見れば、すっかり髭を剃り落として、灰色の髪の毛も整えている。

 そして何より、あの熊皮のコートではなく、いたって普通の(いや、厚い胸板はそのままだったが)スーツ姿になっていた。軽くコロンの匂いすらただよっている。

「は、はい。どうぞ」

 元はと言えば、悪臭紛々たるそのいでたちがトラブルになったのだ。

 きっちりとしたビジネスマンの姿をしていれば、問題はなかったのだ。

 カナ真子コンビも早とちりはしなかっただろう。

 そして、一番悪かったのは警備部の若手の初動と、その上にいる古参連中の悪乗りだった。

「今朝は大変失礼しました。芝麻醤(チーマージャン)のシュガーサンドと祁門紅茶(キームンティー)をお願いします」

 ……メイドたちが凍りついた。

 〈チーマージャンのシュガーサンド、ですと!?〉

 それは、厨房の掲示板の隅っこに貼られた、変色したメモに記された裏メニューのレシピだった。そして、それは絶対に外してはならないとされた最重要メモだった。

「お茶子ギルドよりエランドギルドに特別発注です。芝麻醤(チーマージャン)を一つ、調達願います」

 カナさんが、壁の電話にとびつく。一方で、真子さんがいやいやそうに「祁門」と書かれた缶をあけて茶葉をポットに入れた。真子さんは、綺麗になった熊さんが嫌いなようだ。

 裏のエレベーターから、ホテルマンのようなエランドの制服に身を包んだ従業員(みうち)があらわれ、紙袋を手渡す。

 レシピは簡単、コック帽の形をしたパンの薄切りに芝麻醤(チーマージャン)を塗って、グラニュー糖を全面にかけて上下を炙るのだ。

 ……しかし、どうしてこれが特別メニュー(スペシャリテ)になったのだろう?

 熊さんは、運ばれてきたシュガーサンドと紅茶のセットに目を細めると、嬉しそうにほうばった。


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