プロローグ 願いの始まり
寒い。
ただただ寒い。寒すぎる。ここはどこなんだろう?なんでこんなに寒いんだろう?そもそも私って何…?
少女は重い瞼を閉じ、意識を朧気にしながらもそう考える。
『…ンバ…0………6あ…み……らざ…き……う、……ルドスリ…プを解…します』
無機質な女性の声が少女の耳を通る。初めて聞く声なのに、どこか懐かしく感じる。まるでデジャヴのように。
女性の声が聞こえた後、呼応するように自分を閉じ込めているドア、というよりカプセルのようなものが開いた。意識を朧気にしていた少女も瞼を開き、辺りを見回す。
暗く、鍾乳洞からは水も滴り水たまりができている。ここは洞窟のようだ。カプセルの近くにはそれぐらいしかなく、水の落ちる音が反響している。
少女は子鹿のようにおぼつかない脚で、全身に当たる冷気に身体を震わせまるで道のようになっている洞窟内部を進む。
「出口ってどこかな。ていうか寒すぎるから何か着るものが欲しい…」
足音はこだまを生して響き、如何に静寂かを表している。独り言でもしないと、が狂いそうと感じただ一言だけそう発した。
しばらく進んでいくと、光が見えてきた。暖かい風がそこから吹いてきて、少女の外へ出たいという思いは強くなっていった。
坂になっており歩き慣れていない少女の脚はゆっくり、ゆっくりと1歩ずつ前へと進む。
出口に近づいてきた。あともう少しだ。あともう少しで外へ。
少女は外はどんな感じなのか少しワクワクしていた。そして遂に光のある方へ踏み出した。
「外だー!!……………………………………………え」
少女は目の前に広がった世界に絶望した。
何故なら、そこは巨大な木々で覆われ、そして蠢く花のようなものが逃げ惑う人々を襲い、各地で火災が起きているからだ。まさに混沌という言葉がふさわしい、そんな景色だった。
「うっ……割れる…………」
その景色を見たと同時に、少女は頭が痛くなった。だがそれは耳を突く悲鳴によるものではなく、走馬灯のような、何かだ。少女がかつて体験したであろう記憶(?)のようなものが断片的に脳内へ映された。しかし、それらは靄がかかったようにぼやけて見え何も分からない。それが人なのかどうか、そして今見てるこの記憶はどんな状況なのかさっぱり分からない。
「いった…………何今の…………?」
3分程経ち、ようやく頭痛が納まった。あまりにも酷かったため、少女は意識が飛びそうになったが何とか耐えた。
そして、今見たかつての自分が体験したであろう靄がかった記憶を見て、何となくだが少女は気づいた。
自分が記憶をなくしながらもこの時代に置かれた宿命、そして空白となった自分の正体を、全て明かす必要があると。
「…行こう」
少女は獣道のようになっている道無き道を進んで自分の宿命を明かし、そして、それらを断ち切る為長い旅を始めるのだった。