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91 遠征、終結する

あと三話で第二部も完了のため、本日中に三話投稿予定です。

よろしくお願いします。

 司の体に巻き付いた砕魔糸には見覚えがある。


「イリヤ!」

「ようやく見つけたけど……満月って退屈しなさそうだよね」


 しかし、次の瞬間には砕魔糸の縄がバラバラに断ち切られてしまう。


「全力だったのに、簡単に抜けられちゃうのか」

「邪魔をするな」

「ま、僕の役割は時間稼ぎだから。仕事はこなしたよ」


 今にも飛びかからんとしていた司の前に、氷柱がはえた。

 次々と氷柱が生み出され、氷の牢獄が出来上がる。


「みんな、大丈夫?」

 

 空が走ってきた。

 俺たちの姿を見て、ほっとした表情になる。


「入谷くんに話は聞いていたけど、みんな元気そうでよかった。結界が邪魔をして山に入れなくなっちゃって……遅れてごめんなさい」

「ははは、大丈夫です」


 俺はむしろ、空はあえて手を出さないんじゃないかと思っていたからな。普通に心配されていた。ごめんなさい。


「細貝くんと定岡さんは?」


 渓と不滅はまだ姿を見せていない。


「私がさっきまで一緒に行動してました。もうすぐここに来ると思いますよ」

「そっか、よかった」


 空は、焔の返答に再び安心した顔になってから、次の瞬間には厳しい顔つきになる。


「司さん、もう逃しませんよ」

「厄介な人間に見つかったな。まったく、今日は想定通りには行かない」

「その氷は中の砕魔力を遮断していますから、いくら司さんでも逃げられません」

「その分、外から砕魔力を流したら脆いんだろう?」

「さすが、砕魔力の流れを読むことにかけては天才的ですね。でも、今あなたに協力する人はいませんからね」

「ふん」


 空と司は面識があるようだ。

 司は結局何者なんだろうか。


「おーい、満月無事か!?」

「あ、渓の声ですね」


 すぐに渓が現れた。近づいてきながら、大声で話しかけてくる。


「おお、無事みたいだな!」

「心配かけて悪いな、無事だよ」

「よかった! お前がいきなり吹っ飛ばされた時は焦ったぜ。カマキリとか愚然はどうしたんだよ」

 

 ふふふ、渓よ、聞きたいか、俺の武勇伝を。


「不滅と不朽は一緒じゃなかったのか?」

 

 焔の問いかけに渓は少しだけ困った顔になった。


「ちょっと前まで一緒だったんだけどな……お、あっちから来たぜ!」


 渓は俺たちの背後を指差した。

 全員で振り向くと、確かに不滅と不朽の姿があった。


「満月、無事そう」


 不朽は喋らないが大きく手を振っている。

 

 パキン。皆が二人に気を取られていると、小さな音が響いた。

 ヤバい奴らと連戦で感覚が研ぎ澄まされていたからだろうか。何が起こっているか、想像できてしまった。

 俺は氷の牢獄に目を向ける。

 獰猛に笑う司が目に入った。次の瞬間には、空の作った氷の牢獄が、粉々に砕けてしまった。


「今日は思った以上の収穫があった。暴れてもいいが、厄介な人物がいるから止めておくか」


 少しだけ寒そうに肩をすくめてから、司は俺を睨んでくる。


「金髪、君は私の想像を超えてきた。面白いな。名前は?」


 個人情報だから、言いたくないな。どんな悪用されるか分からないし。よし、黙ってよ。


「はっはっは! 見る目があるな!」

「私たちの自慢の後輩! その名は!」

「河合満月!」


 桔梗先輩と撫子先輩が異口同音で言ってのけた。

 おおおい! フルネームバラしてんじゃねぇか!


「ほう。良く覚えておくよ」

「逃がさない!」


 空が再び氷を出すが、一瞬早く司が消える。


「犠牲を望まないなら引くべきだ」

「くっ」


 司に対して、俺たちが足手まといになる。人質にでも取られれば、空には手出しができなくなる。

 そういうことか。


「ああ、満月君。(えい)によろしく――」


 そう言い残して、司の気配が消えた。


 ふぅ、と空が小さくため息をついた。


「みんな無事でよかった。ごめんね、来るのが遅れて。まさかあの規模の結界を張られるなんて……」

「よくわからんが、無事で良かったな」

「結界を消したのは私たちだ!」


 今度は深いため息をつく空。


「漆間さん、なんであなた達がここにいるのか、まずはそれから聞かせてもらっていいかな? 二人の担当の先生が探していたよ」


 どこか恐ろしい空の笑顔。

 それが分かったのだろう、二人の先輩は表情をひきつらせた。


「あはは、それは、ねぇ、撫子?」

「うん、そうね、桔梗?」

「ふーん。ちょっと詳しく聞きましょうか」


「満月」


 そっと、右手が包み込まれた。焔が両手で握ったためだ。


「本当に心配した。よかった、元気そうで」


 うぐ。悲しそうな表情が罪悪感を掻き立てる。


「いつも焔と修行してたから、なんとか乗り切れたよ」

「最後のアイツ、司って呼ばれてたけどかなり強いやつだったな。正直、逃げてくれてホッとしてる」


 焔ですら、戦わずに済んで安心するレベルの相手か……。


「おい満月、イチャイチャしてないで助けろ」

「九重先生が厳しいよ」

「イチャイチャって……うう」


 頬を染める焔は俺の右手を離してしまった。残念。


「二人とも、ちゃんと聞いてる?」

「はい、もちろんです」

「もちろんです、はい」


 しばらく桔梗先輩と撫子先輩は放っておこう。


「イリヤ、渓、不滅、不朽、みんな無事でよかった」

「うん、こっちはまぁなんとかなったよ。それよりも、満月はどうだったのさ」


 仕方ない、俺の武勇伝を聞かせてしんぜよう。


「暴風蟷螂の暴風で飛ばされた俺は、なんとか砕魔力を込めて着地のダメージを軽減した。……しかし!」

「語りに入った」

「まぁ、聞いてやろうぜ。話したくって仕方ないって顔してるし」

「元気そうだね。私は疲れた」


 暴風蟷螂との戦い、愚然との戦いを語る。イリヤと焔が盛り上がっていた。俺が司にボコボコにされているシーンでは、渓が青い顔をしていた。君そんなキャラだっけ? 不滅と不朽は安定の無表情。

 漆間先輩達の参戦、焔の一撃、イリヤ達の到着まで話せば、あとは皆も知るところだ。


 結局、司はどうやって氷の檻を壊したのだろうか。空の話では、中から檻を壊すことは難しいみたいだったけど。

 とはいえ、司のあの強さを見れば、それくらいやってのけそうな気もする。

 檻から抜け出した後に攻撃されなくて良かった。


「さてと、じゃあみんな戻ろうか。今日はお寺に泊まって、明日体調に問題なさそうなら学園に帰るよ」


 長かった遠征も、ついに終わるのか。

 すでに一月くらいここにいる。

 最後に、集落の人達やオババに挨拶に行かないとな。

 今日はゆっくり休みたいが、明日は忙しくなりそうだ。


 ゾロゾロと連なって山を降りる。

 最初は空にお説教をされてしぼんでいた桔梗先輩と撫子先輩だが、次第に元気を取り戻してゆき、元々一年四組第四班にいたかのような馴染み具合になっていた。


「二人と焔は昔からの知り合いなんですか」

「そうだよ。家が近かったからね」

「焔の家は豪邸。漆間家は一般庶民」

「いやいや、漆間家はなかなか……インパクトがあるよ」

 

 あの山の手に家を持っているくらいだから、お金持ちなんだろうな。


「イリヤと渓と不滅はどこに住んでるんだ?」


 先輩と班員は雑談しながら山を下る。

 

「僕は寮です。実家は県内なんですけど、サイガクに通うにはちょっと不便な場所で」

「俺と不滅も寮だぞ」

「私と渓は同郷」


 なるほど。だから仲良さそうなのか。


 周囲は徐々に暗くなり始めていた。

 魔の山は清浄な空気を取り戻しつつある。

 しばらくは、最初にここに来た時のような、魔であふれた状態にはならないだろう。


 寺へ戻って、食事をして、風呂に入った。お湯がヒリヒリ傷にしみたが、それくらいで済んだ。つまりは、ほとんど治りかけているということだ。

 砕魔力の循環にも慣れてきたな。

 ジャッキの時は、寺に戻るなりバタンキューだったことを考えると、体力もついてきたと実感できる。


 得るものの多い遠征だった。


 なにより、彼女ができたからな!

 遠征、最高!

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