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砕魔学園にかける青春  作者: 木々 杯
砕魔学園にかける青春
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9 エンディングなのかバグなのか


 光が収まると、そこには変わらぬ姿の(えい)がいた。いや、姿形は同じだが、どこか雰囲気が違う。

「やれやれ、まさか滑り込みでもう一人適応者が現れるとはな」

 コキコキと首を回す影。先程までの雰囲気に比べ、大分やさぐれた感じが出ている。

「誰だ、あんた」

「ラスボス様だ」

 俺は慌てて刀を構えようとした。しかしすぐに、刀が手元にないことを思い出した。やっぱり満月鏡の中に吸い込まれたんだろうなぁ。他に使えそうな武器もない。どうしよう。

「ふふふ。冗談だよ。私は(えい)だ。もう少し正しく言うなら、(えい)(かげ)と言うところかな」

 そう言って、影の姿をした何者かはぐるりと周囲を見回した。

「やれやれ、雑なバトルをしたな。まぁ、ある意味では現実に近いとも言えるが」

「はあ?」

 影の独り言は、少しも理解できない。仕方なく影に習って周囲を見回すと、他のキャラ達は表情を失って佇んでいた。突然の出来事にも、何も反応していない。

「空、どうした」

 近くにいる空の肩を揺すってみたが、返答はない。それどころか、なんの反応もなかった。

「刀も失ったか。あれは、国の宝と言うべき業物なのだがな。やれやれ、おかしなところで史実通りというわけか」

 何言ってんだ? 大丈夫かな、この人。というか、これはサイガクのエンディングとは違うような気がする。バグったのか、それとも俺が夢でもみているのか。生気を失って立ち尽くすみんなは、少しホラーな雰囲気になっている。

 自分のほっぺたをつねってみたが、微かな痛みしかなかった。さては夢か! と思ったが、そもそもゲーム内では痛覚の大部分はカットされる。

「何をしてる? 言っておくがこれは夢ではないぞ」

「じゃあ、バグ?」

「違う」

 まぁ、バグも「私はバグです」とは言わないだろうけどな。

「私の力は残り少ない。というか、お前で最後になるだろうな」

 バグ影さんは、相変わらず俺には分からないことをぶつぶつと呟いている。

「しかし、なんとなく頼りないな。本当に大丈夫か?」

 いや、知らんがな。

 突然のことに様子を伺ってしまったが、そろそろリセットしたほうがいいかもしれない。サイガクはフルダイブVRゲームという特性上、どこでも強制リセットが可能になっている。そうしないと、ゲームから出れないなんてことになりかねないからだ。データがセーブされていないのは惜しいが、ロードしてもう一度プレイしよう。守護者を倒すと、またこのよく分からないルートに入るのかも気になる。

 しかし、バグ影さんとのやりとりなんかよりも、今は空のエンディングが見たい。

「いくつか質問させてもらうぞ」

「んー」

 あれ、リセットできない。そもそもステータスウインドが開けない。ならば、コマンドリセットだ。

「コマンド入力、リセット」

 そう言えばリセットされるはず。

 ……何も起きないな。

「まぁ焦るな。私の話を少し聞いていけ。その前に質問だ」

 仕方なく、バグ影さんの方を向く。

「名は?」

「新月湖太郎」

「本名だ」

「えっ。河合満月(かわいまんげつ)だけど……」

 あ、個人情報をポロッと漏らしてしまった。

「家族はいるか?」

「何その質問……地元に両親がいるけど、最近は会ってないな」

「今の生活に満足しているか?」

「どうかな。まぁ、サイガクをプレイしてる時は満足してるかな」

「望みはあるか?」

「……変な宗教とかじゃないよな? 今の望みは、そうだなぁ、大人の空に会うことかな」

 空エンドでは、大人になった空が登場するらしい。かなり楽しみだ。そのためにもまずはリセットをしたいのだが。

「ふむ。文句を言うわりに素直に答えるのだな。しかし決め手にかけるな」

 またもブツブツモードに入ってしまうバグ影さん。

「リセットしたいんだけどどうすればいいか知ってる?」

「こんな状況でも肝が据わっているのか、何も考えてないのか。まぁよい。リセットはできぬ。すぐ済むから少し待ってろ」

 リセットできない? なんでだ? 少しくらいのバグなら無視しようと思ったが、これはメーカーに報告しておいたほうがいいかもしれない。

「あまねくたゆたう魔よ、我がことのはに応じて神威を示せ」

 バグ影さん改めブツブツ影さんがブツブツ言っている。

「ちっ、足りないか。仕方あるまい」

 ブツ(えい)さんがこっちを見た。その眼力に気圧されてしまう。

「何が起こっているのか分からないと思うが、説明している暇もない。すまんな。お主は我々の問題に巻き込まれただけだ。恨んでくれても構わない。だが、頼む。我々の世界をどうか救ってくれ」

 苦しげな表情と瞳に浮かぶ贖罪の色で、彼女が真面目な話をしていることが分かる。それは分かるが、言っていることは何一つ分からない。

 世界を救う? 今まさにサイガクの世界を救ったところのはずだ。まるで、ゲームのオープニングのようなことを言う。

「別れの時間だ」

 俺の周りから光が立ち昇った。俺はその光に包まれている。光は、守護者を倒した後に出現した光の柱にそっくりだった。

「あっ、ちょっとなにこれ」

「まぁ落ち着け。痛みはない。すぐ済む」

 もはや光が強すぎてなにも見えなくなってしまった。いつの間にか、そばにいた空や他の仲間達もいなくなっている。

「あれ、ちょっと空とのエンディングは?」

「この状況でも気になるのはそこか? 不安だな」

「不安なのはこっちですけど!?」

「エンディングは、見れぬ。すまんな」

「見れねぇのかよおおお!」

 涙がこぼれた。これが悲しみの涙なのか、光に眼がやられてこぼれてきたものなのか、自分でもよく分からない。

「言い残すことはあるか?」

「……」

 俺は死ぬのか? なんかそんな雰囲気が出ている。勘弁してくれ。

「なければそれでもいいが」

「ありますあります、ちょっと待って」

 どうせならなんかかっこいい辞世の句でも残すべきか。よし。……よし。

「なんも思いつかねぇ」

「なんなのだお前は。では行くぞ」

「あっちょっ、ちょっと待って!」

 目をつぶっていても分かるぐらい、さらに光が強くなった。

「空の、空のエンドが見たかったよおおおお」

 俺の意識は途切れた。



「やれやれ、人選に失敗したか?」

 光の柱が新月湖太郎――いや、河合満月と言った方が正しいか――を飲み込み消し去ったのち、その空間に残ったのは(えい)だけであった。

「だが、私に与えられた力もそろそろ尽きる頃だったから仕方あるまい。おっと」

 どうにも独り言が多くなっていることを自覚している影は苦笑いを浮かべた。

「元々の私にはそんな癖はなかったはずだが……。これも個性というやつか?」

 苦笑いを自嘲の笑みに変え肩をすくめる。

「長いようで短かった私の役目もこれで終わりだ。帰るとしようか」

 影の呟きに呼応するように、彼女の姿を光が包んだ。

 光が消えるとそこに影はいない。邪心の集合体とのバトルフィールドには誰もいなくなった。やがて、暗闇がおとずれ、その世界は消滅した。

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