表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砕魔学園にかける青春  作者: 木々 杯
砕魔学園にかける青春
8/127

8 エンディング?

 轟音。衝撃。熱と痛み。最後の守護者が起こした爆発によって、一瞬意識が途切れた。ゲームオーバーになったかと思ったが、全身の鈍い痛みがそれを否定している。ゲームで感じた中では一番の痛みかもしれない。耐えられないほどではないが、こんなに痛みを感じることもあるのかと驚いた。

「みんなは平気か……?」

 光の柱に一番近かったのは俺だ。大丈夫だと思いたいが、目も耳も爆発にやられて、しばらく確認する術がない。手には爆発の直前に取り出した鏡が握られていた。あの爆発でも手放さずに済んだようだ。そのおかげでゲームオーバーにならずに済んだのかもしれない。


 異法・満月鏡は、湖太郎が最後に覚える砕魔技である。鏡の世界を生み出し、鏡に映した対象を閉じ込めることができる。意思を持つ生物には効果がないが、割となんでも閉じ込められる。鏡の世界には時間の概念がないようで、閉じ込めたモノは元の状態で保存される。任意に解放することも可能だ。

 ものすごく便利そうな能力ではあるが……実はあまり使用機会はない。そもそもサイガクではアイテムを無尽蔵に持てるアイテムボックスのような機能があるし、満月鏡を使用すると、前回閉じこめたモノが全て解放される。細かいものを多数持ち運ぶような用途には向いていない。強力な式神を封じ込めておくために利用するのが一般的だ。

 しかし、咄嗟にその満月鏡を利用して爆発を閉じこめた。全てを鏡に映すことはできなかったので、余波でも大きなダメージを負ったが、ギリギリ上手くいったようだ。

 とあるイベントをこなして封じ込めていた最強の式神は、満月鏡を使用したと同時に解放され、消し飛んでしまったことだろう。

「湖太郎!」

「せんぱい……」

 なんとか耳が回復してきたようだ。

「みんな離れて。癒しの御手!」

 風巻の砕魔技によって、痛みが引いていく。閃光によってやられた目もだいぶ回復した。

「あー、びっくりした」

 上半身を起こすと、空が飛びついてきた。

「せんぱい! 心配したんですからね」

「新月、お前はまた無茶をして。だが、おかげでみんな無事だ。助かったよ」

「いたた、空いたい、ちょっと控えめに頼む」

「空ちゃん、まだ治りきってないから。先輩、もう一回行っときます?」

 風巻がわきわきと手を動かした。本人曰く、癒しの御手のポーズらしい。

「相変わらずの変なポーズだな。十分回復したから、もう大丈夫」

 変なポーズってなんですかもう、とむくれている風巻を見ていると、気が抜けてしまう。

 立ち上がると、陽と目があった。

「湖太郎、無理してない?」

「大丈夫だ。みんなが無事でよかった」

「これから――」

 陽が何かを言いかけた時に、美雨が鼻をひくつかせた。

「コタロー! みんな! 何か来るよ。……すごく匂う」

 美雨は特殊な嗅覚を持っていて、魔の持つ気配を嗅ぎ取ることができる。その魔が強ければ強いほど、その匂いも強くなっていくらしい。

 美雨の表情は固く険しい。よほどの匂いのようだ。

 ということは、休憩する間もなくラスボスの登場ということだろう。

 ラスボスは、邪心の集合体。人々の邪な心が集まったものであり、広範囲にわたる(もや)ような存在である。その中央に核となる依代が存在しており、その依代を倒せば晴れてゲームクリアとなる。通常は日本中に散らばる邪心の靄の中を依代は自由に移動できるため、倒すことができない。しかし、今は砕魔学園の体育館に張られた結界のお陰で、靄も依代もこの場所から逃げることができなくなっている。

 邪心の集合体を倒せばエンディングだ。俺は気合を入れる。

「みんな気を引き締めろ! これで最後だ!」

 あれ? 結局俺の刀はどこいった?


 靄が立ち込める。

 邪心の集合体のお出ましだ。しかし、いつもなら広がってゆくはずの靄が一箇所に収束してゆく。

 その靄がやがて人の形になった。

 一瞬靄が激しく光り、その光が消えたのち、そこにいたのは瞳を閉じた少女だった。

 俺――つまり湖太郎の肩より少し低いくらいの身長に、長く真っ直ぐな黒髪。肌は瑞々しく滑らかで、日を浴びたことがないかのように白い。

 とてもゲームとは思えない作り込みで、息を呑むほど美しかった。

 しかしなによりも、その姿はとある人物によく似ている。

「……陽?」

 そう、現れた少女は、髪型や日焼け具合こそ違えど、サイガクのメインヒロイン、斎賀 陽にそっくりなのだ。

 その、陽にそっくりな少女はパチリと大きな瞳を開いた。神秘的な雰囲気に、誰も言葉を発せない。

 少女が美雨にビシリと人差し指を突きつけた。

「貴様、誰が臭いだと!?」

 少女の神秘的な雰囲気は一瞬にして消えてしまった。


「ええっ? 臭いなんて言ってないよ〜。あたしは匂うって言っただけ」

 指を突きつけられた美雨は、気圧されながらもしっかりと反論している。

「匂うということは臭いということだろうが!」

「うーん、ちょっとニュアンスが違うかな。強い匂いなのは確かだけど……」

「強い匂い!? どんな!?」

「うーん、そんな嫌な匂いじゃないよ。陽ちゃんの香りに似てるなぁ。そこにワイルドさとスパイシーさをひとつまみって感じ」

 わからん……。

「わからん!」

 突然現れた少女もそう答える。

 だよな。

 陽を見ると、彼女は顔を青ざめさせて立ち尽くしている。大丈夫か声をかけようとしたが、それより早く小さくつぶやいた。

(えい)

 美雨と言い合っていた少女は、くるりと陽の方を向いた。

「やあ、姉上。久しぶり」

「あなた……本当に影なの?」

「そうだよ。もっとも、姉上の知っている私とはちょっと違うかもしれないけどね。ひ弱で泣き虫だった、あの頃の私じゃないよ」

「斎賀、知り合いなのか? 妹がいるとは聞いたことがないが」

 花城先生の言葉に、一同が頷いた。しかも、影と呼ばれた少女は俺たちと同い年くらいに見える。同じ年頃の妹がいれば、話題に上がらない方が不自然だろう。

「やあ、みんな。この世界では初めまして。私は、斎賀 陽の死んだはずの双子の妹、斎賀 影だよ」

 この世界では? 死んだはずの?

「姉上が私のことを話していなくても仕方ない。私は死んだはず――というか、ある意味本当に一度死んでいるからね」

 ニッコリと笑う影。口にしている内容とは裏腹に、その笑顔はどこまでも楽しげである。

 今までサイガクをプレイしていて、こんな展開になったことはない。攻略サイトやSNSでも、この展開については話題に上がっていなかったと思う。

 隠しルートに入ったのだろうか? だとしたらこれは大発見かもしれない。

「本来であれば、私は邪心の集合体に取り込まれ、その依代となって、肉体はともかく、精神的には消え去るところだった。だが、邪心にとって依代が大切だということもあって、やつらは私を本気で攻撃してくることはなかった。その間に、逆に私が邪心の力を一部だけど取り込むことができた」

 影は、陽に近づいた。

「とはいえ、自力で自分を解放することもできなかった。なぜなら、邪心の守護者達が強力な力を持っていたからな。だが、姉上達が守護者を倒してくれたおかげで、ようやく解放されたんだ。助けてくれてありがとう。おっと」

 陽が膝から崩れ落ちそうになり、影が優しく受け止めた。

「あの日、あなたが魔に呑まれた日から、あなたを助けなきゃって思ってた」

 陽がポツリとつぶやく。

「でも手がかりはないし、家族もあなたのことは初めからいなかったように振る舞った」

「まぁ、いずれ誰かが犠牲にならなければいけなかったからね」

「そんなことは関係ない。あなたは私にとってのたった一人の妹だから」

「ふふ、ありがとう姉上」

「まさかこんなところで会えるなんて。……また影に会えて本当に嬉しい」

「うん、私もだよ」

 陽の体が小さく震えた。多分、影の体も。二人の目元から小さな雫が溢れた。俺たちは少しの間見て見ぬ振りをした。

 二人はしばらくして涙を拭うと、表情を引き締めた。

「姉妹の感動の再会を見守ってくれてありがとう。さて、色々聞きたいことがあるんじゃないかな?」

 俺、美雨、風巻、花城先生、空に向けて影が問いかける。風巻が小さく手を上げた。

「あなたが邪心の集合体の依代となっていたけれど、六体の守護者を倒したことでその封印が解けた。そして、あなたは幼い頃に生き別れた陽先輩の双子の妹、って事でいいのよね?」

「うん、おおむねその通り。理解が早いね」

 なるほど。風巻がまとめてくれたことで、ようやく目の前の存在についてなんとなく分かってきた。

 しかし、彼女が依代だったのか。今まで陽の妹だということなんか考えもせずに、ラスボス戦では攻撃してしまっていた。まぁ、向こうも物凄い形相で襲ってきていたから許してほしい。

「あなたの封印が解けたことで、邪心の集合体はどうなったの?」

「うん、アレは依代を失ったことで散ったよ。依代としては最高の素質を持っていた私がいなければ、当分の間は復活することはないだろうね」

「消滅……はさせられなかったのか?」

 花城先生の質問に影は肩をすくめた。

「残念ながらね。そもそもアレは、消滅させられるような類のものじゃない」

 ――人が邪心を抱く限りはね。と、影はポツリと呟いた。

「うーん、じゃあもうとりあえず解決! ってことでいいのかな?」

 美雨が首を傾げている。

「ああ、そうだよ。大団円さ」

 影が拍手をした。

 ラスボス戦がなかったことで少しモヤモヤするが、これでクリアだというならまぁいいか。空との個別エンドが見られれば問題はない。しかし、こんな展開があったのか。後で攻略情報を少し調べてみよう。

「せんぱい、やりましたね」

 空が優しく俺の手を握った。突然のことに驚いたが、顔を赤くしている空を見て思わず微笑んでしまう。かわいい。

「空が大技決めたからな。すごかったな〜」

「せんぱいが隙を作ってくれたからです」

「そうだったっけ?」

 ただただ会話をしているだけで楽しい。この時間が続けばいいのにな。まぁ、エンディングも見たいから、ずっと続かれても困るけど。

 本来の展開なら、邪心の集合体を倒したらすぐに場面が切り替わって学園に戻り、皆に(ねぎら)われたら個別のエンディングに突入するのだが、今回はなかなか場面が切り替わらない。

「あー、イチャイチャしているところ悪いが、そろそろ()()()()()()()()()。覚悟はいいか?」

「へ?」

 影の問いかけに間抜けな声が漏れてしまった。

 振り向くと光が(えい)を包んだ。

「はっ?」

 一体何が? 無事にゲームクリアじゃないの? ていうかこのゲーム、光に包まれることが多くない?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓ ランキングに参加しています。よろしくお願いします。↓

小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ