7 刀を無くしました
「空!」
援護しようにも、俺の手には刀がない。武器を持たない湖太郎に攻撃の術はない。新月の夜を使って接敵したとしても、俺が氷のハンマーに巻き込まれるだけだろう。
一際大きく、澄んだ音を残してハンマーは粉々に砕けた。
その瞬間、守護者がニヤリと笑ったような気がした。
「くそっ!」
何か援護をしなくてはと焦り、刀がなくとも俺は空へと駆け寄ろうとした。
「ありがとう、氷を砕いてくれて」
空の声が響き、粉々になって舞う氷片が空中に静止した。
「これで、終わり」
静止していた氷の破片が、四方八方から守護者へと襲いかかる。ハンマーを砕き、勝利を確信したであろう守護者は、反応が一瞬遅れた。花城先生の炎の拘束も守護者の動きを鈍らせた。一つのつぶてが守護者に当たるとそこが凍りつく。凍りつけばつくほど、守護者の動きは鈍くなり、やがて守護者を閉じ込めた氷柱が出来上がった。
「抉り穿ち」
陽の目にも止まらぬ突きで、氷にぽっかりと穴が開いた。その穴は守護者の心臓のあたりを抉っている。
「動かない相手なら、簡単に攻撃が当たるわね。空、ありがとう」
「流石ですね、陽先輩」
大技を使って疲れたのだろう。空は大きく息を吐き出した。
「よいしょ」
空は普段使うサイズのハンマーを作り出すと、氷塊に叩きつけた。ビシリと音を立てて、氷に大きな亀裂が入る。
「美雨先輩、花城先生、よろしくお願いします」
「おっまかせー! やぁっ!」
美雨の掌打で亀裂が広がり、氷の全体に細かいひびが入った。
「トドメだ!」
花城先生の巨大な火球で、氷は砕けた。
氷漬けにされていた守護者も、氷と一緒に砕かれてしまったようだ。あたりに散らばるのは氷の破片だけだった。
「すご」
「骨の髄まで凍らせましたからね」
空は、微かにドヤ顔をした。普段から彼女のことをよく見ていなければ気がつかないほどの微かなドヤ顔。かわいい。
なんて、見惚れている場合ではなかった。ラスボス戦に向けて、刀を回収しなければ。
「まさか一緒に砕けてないよな…」
そうなったらラスボスと素手で戦わなければならない。まぁ、サイガクに武器の耐久値システムはないので多分大丈夫だとは思う。武器の説明に、日本の守護霊獣の加護を受け〜とか書いてあったし。まさか、そんな武器が壊れるということはあるまい。
周りは氷の塊が散らばっていて、すぐには刀が見つけられない。
「コタロー、なにやってるの?」
「ちょっと刀探してて……。みんなは休んでて」
想像以上に守護者との戦いで消耗してしまった。少しの休憩も貴重な時間だ。
「センパイ、私も探しますよ」
「空も――」
ゆっくりしててと言おうとした瞬間、背筋が凍るような感覚を覚えた。全身の汗が吹き出し、心臓が鼓動を早める。何かを考える前に、身体が自然と動いていた。
アイテムボックスから取り出したのは、拳大くらいの丸い鏡である。縁には精密な紋様の装飾が施され、普段使い用ではなく、儀式用の鏡だ。
「みんな伏せろ!」
粉々に砕けた氷片が光る。守護者を討伐した際に放つ光の柱であると気付いたのは後になってからだった。
「異法、満月鏡!」
光の柱が立ち上り、大爆発が起きた。