5 邪心の守護者
ラストダンジョンである邪心の大穴は当然難易度が高い。とはいえ、幾度も攻略し、パーティーの戦力もバッチリ上げているので、特に苦戦をするようなことはなかった。
そしてラスボス前の戦闘に突入する。
ここで、パーティーが1人ずつに分断されてしまう。分断された仲間たちに相対するのは、各々が苦手な属性の敵である。その名も邪心の守護者。見た目は、人の二倍近くの大きさを誇る巨大な鬼であり、六体それぞれで色が異なっている。
この邪心の守護者達と正面を切って戦うと、苦手な属性ということもありほぼ勝つことができない。
正しい攻略手順は、守護者の攻撃を掻い潜って仲間と合流し、それぞれの守護者を無視して、ラスボスである邪心の集合体の核となる存在を倒してしまうこと。それを知らずに守護者に立ち向かって、敗れたことが何度もある。初見殺しであるが、慣れればどうということもない。
だが、今回は守護者に挑んでみることにしていた。たとえ負けても、ボス戦の直前にあったセーブポイントからやり直しになるだけだし、今回はこれまでのプレイで一番戦力が整っている。
イベントをこなして手に入れた最強装備の刀を腰から抜いた。相対するのは白い鬼の姿の守護者。湖太郎は万能型のためか、この守護者には弱点らしい弱点もなく最も強い。
大太刀と呼ばれる長い刀を持ち、いかにも強敵の雰囲気を漂わせている。
だが、結論から言えば、守護者は思ったより弱かった。守護者が光の柱を残して消えてゆくのを横目で確認しながら納刀し、すぐに次の行動に移る。
最初に手助けするのは、風巻だ。
風巻は、本人の攻撃力も防御力も控えめなので、苦戦は免れないだろうと思っていたが、そんなことはなかった。
攻撃力が他の守護者よりもさらに高い、黒い鬼の守護者が彼女の相手であった。しかし、風巻は攻撃を的確に回避し、たとえ攻撃を受けても直撃は回避し、得意の回復技ですぐにリカバリーする。守護者に大きくダメージを与えることはないが、自らの砕魔力を高めて、効率よくダメージを与えている。
「あっ、先輩。待ってました」
その言葉と同時に、自分の砕魔力が高まるのを感じた。風巻の砕魔技で、こちらにバフがかかった。しかも、黒い守護者の攻撃をかわしながら。
「余裕だった?」
そう問いながら、高まった砕魔力を破壊の力に換え、守護者を斬りつける。
突然の大ダメージに怯む守護者に、風巻が追撃を加える。強力な自己バフをかけると、装備している御神木の枝から削り出した棒を容赦なく叩きつける。棒の殴打を数発受けると、光の柱を残して消滅してしまう守護者。
「余裕なんてないですよ。先輩が来てくれて助かりました。ありがとうございます」
「ならよかった」
ちょっと疑わしいと思ってしまう俺であった。
「他の人も助けに行きましょう」
「ああ」
「花城先生か美雨先輩を助けに行くのがいいですかね」
たしかにその二人は、攻撃性能は高いが防御面が心配だ。
などと話していたら、大きな爆発があり、守護者が消える際に残す光の柱が立ち昇るのが見えた。
「あれは先生かな」
「そうでしょうね」
だとすれば美雨の方に向かうかと考えていると、「はあああっ」と裂帛の気合を乗せた声が響き、その後に光の柱が現れた。
「皆さん余裕みたいですね……」
小さくつぶやく風巻であったが、それは風巻も変わらなかったぞ、と思った。
花城先生と美雨の二人とは、すぐに合流できた。
「二人とも、無事だったか」
「さすがコタローとクレハ。花城センセーもね」
「花城先生と小野田先輩の方がすごいですよ。私は新月先輩に協力してもらいましたから」
「謙遜しあってる場合じゃないぞ、陽と空を助けに行こう」
俺の言葉に皆が頷き、戦闘の音がする方へ向けて駆け出した。
「さむっ」
何かを殴るような音が聞こえている方へ向かうと、そこには氷柱が所狭しと立ち並んでいた。その氷柱が一帯の温度を下げており、吐く息が白くなる。
「ソラ……だよね?」
美雨が息を呑みながらつぶやいた。気持ちは分かる。
空は氷の砕魔師ではあるが、これほどの規模の氷を戦闘に使うことはなかった。小さな氷の塊を飛ばしたり、ピンポイントで氷の障壁を張って攻撃を防いだりと、効率とタイミングを重視した立ち回りをする。
赤い邪心の守護者は大きな腕を振り回して氷柱を殴りつける。かなりの威力が出ていそうだが、氷は砕けない。それどころか、大振りで体勢を崩した守護者の周りに新しい氷柱が生み出され、動きを阻害する。
「皆さん、ご無事でしたか」
氷柱の影から空が顔をのぞかせた。
「九重……砕魔力と体力は大丈夫か?」
花城先生が心配そうに尋ねた。大掛かりな力を使えば、それだけ消耗する。砕魔力は無限ではない。
「はい。大丈夫みたいです」
「それにしてもすごいね」
風巻が寒そうにしながらも感心している。美雨は、氷柱をつつきながら、「あたしなら砕けるかなー?」と呟いていた。
「あ、今終わらせちゃいますね」
空が右手を掲げると、そこに氷が集まって刃が形成された。短刀ほどの長さだが、鋭く怪しげに光を反射している。
氷柱は守護者の動きを阻害しているが、空も守護者に近づけない、と思った瞬間、空が素早く動いた。
「……」
一呼吸する間に、勝負は決していた。
空はあらかじめ、通るべきルートを開けて氷柱を生み出していたようだ。
障害などないように、林立する氷柱を通り抜けると氷の短刀を守護者に突き立てた。咆哮を残して光の柱と化す守護者。
「お待たせしました。あれ? 陽さんがいらっしゃいませんね」
「まだ戦闘中なんだろうな。陽の手助けに行こう」
その時微かに悲鳴が聞こえた。
皆表情を引き締める。
「急ぐぞ!」
「はい!」
空も加えた五人で、悲鳴の元へと急いだ。




