3 空
ケヤキの木の前にはいくつかベンチがある。その一つに腰掛け、ステータスや装備、アイテムの確認をする。
十周もしているため、レベルは他のキャラクターに比べて段違いに高い。主人公は強さを引き継げるようになっている。
さらに、キャラクターごとのイベントもしっかりこなしたので、どのキャラもかなりの強さになっている。
「お待たせしました、せんぱい」
「全然待ってないよ」
普段通りの制服だが、いつもの二割り増しで可愛い空がやってきた。
「今の会話、その、恋人同士みたいですね」
空はそう言って照れている。
「そうかも。……空、今日はいつにも増してかわいいな」
ちょっとイケメン風にそう言うと、空は白い肌を真っ赤にしてしまった。
「もう。もう、もう、せんぱい。いつも私をからかうんですから」
「牛? いや、かわいいっていうのは本心だけどね」
ゲームの中ならあっさり言える。現実では無理だけど。
空は俺の隣に腰掛けた。
「先輩、緊張をほぐそうとしてくれてありがとうございます」
「うん」
可愛い反応を見たかったというのもあるけど、今は黙っておく。
「あの、せんぱいが私のことをどう思っているか、邪心の集合体を倒した後に聞かせてもらえますか?」
「うん、もちろん」
「その時に私の気持ちも伝えます」
なんとなくフラグのような発言だが、そのフラグはバキバキにへし折らさせてもらおう。ちなみに邪心の集合体とは、これから挑むラスボスの名前である。
顔を赤くして照れていた空が、ふっと真剣な表情になった。
「せんぱいは不安じゃないですか?」
「正直不安はある。でも、仲間がいるからきっと乗り切れるんじゃないかなって思う」
空がジッとこっちを見つめている。
「それに、空がいるから。頼りにしてる」
「せんぱい」
「邪心の集合体がどれだけ強くとも、みんなで乗り越えよう」
「はい」
「じゃあ、行こうか空」
「はい」
勢いよくベンチから立ち上がる。空も立ち上がり、ちょこんと俺の制服の袖を掴んできた。
なにそれめちゃくちゃかわいいいい!
「……じゃあ、行こうか」
「えへへ、せんぱいを照れさせることができました」
照れてるのばれてた。
邪心の集合体を倒した後のエンディングが楽しみで仕方がない。