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16.自己保身のためのダル絡み

 そう切り出し、コンラッドはとつとつと語った。


「アリアは、両親が亡くなった後に身を寄せた孤児院で、ひどい扱いを受けていました。しかし正義感が強かった彼女はそれでも、周りの子どもたちを庇っていたのです」

「……そうだったのですね」

「はい。しかしある日、大切な仲間たちが売られたり虐待されたりするのに耐え切れなくなったアリアは、魔力を発現させました。強いストレスを受け続けた魔術師が時折引き起こしてしまう、魔力の暴走というものです。それにより、悪事を働いていた大人たちの罪が暴かれました。ですが同時に、アリアは仲間だと思っていた子どもたちからも『化け物』だと呼ばれてしまったのです」


 その話を、グレイスは小説で知っていた。しかし文字で追うのと、コンラッドの口から聞くのとでは、重みが全然違う。それもあり、胸によどんだ気持ちが広がった。

 黙って聞く姿勢に入ったグレイスに、コンラッドはなおも続ける。


「守りたかった存在にそのような言葉を投げかけられれば、心は歪みます。それでも子供たちを恨めなかったアリアは、すべての元凶である貴族を恨むようになりました。幾らわたくしがそういう貴族ばかりではないと言って聞かせようが、そればかりは難しく……ですが、いつか絶対に、その偏った考えで取り返しのつかない事態になることは、分かっていました。ですからその前に、アリア自身が過ちに気づければ、と思っていたのです。その要因として、リアム様の婚約者様でしたら最適ではないかと考えました」


 グレイスは、そこで思考を停止させた。


(…………いやいやいやいや。何故そこで、『リアム様の婚約者だったら最適』、っていう考えになるの!?)


 確かにリアムの婚約者ならば善良かもしれないが、それはあくまで『かもしれない』でしかない。それなのにコンラッドがここまではっきりと『善良である』と確信している理由が気になった。

 なので、話が進んでしまう前に、とグレイスは手を上げる。


「あの……そのお話を聞く限りですと、リアム様の婚約者が善良であるという確信があるような感じなのですが……どうしてでしょう……?」

「……え? それはその……皇族の方の伴侶は皆、彼の方々の影響を受けず、尚且つ善良な人間だと決まっておりますので……」

「……決まって、いる?」

「はい。夫婦神が、そのように定められたのです。ですので皇族の方は本能的に、そのような伴侶を追い求められます。重大な秘密ですので、これを知っているのはごくわずかですが……そういえばリアム様は、伴侶という存在そのものにご興味がありませんでしたから、存じ上げないかもしれませんね」


(…………いやいやいや。待ってって。そんないきなり……小説にない重要設定を打ち明けられても困るのですが……!)


 同時に、色々な疑問が浮かび上がってきたが、今はまったく必要ない上に応えてくれる相手はいないため、そっと胸の奥底に押し込んだ。


(ひとまず、大司教様が私を信じた理由を知れたから良し! 良しとします!)


 そう無理やり自分を納得させ、グレイスはふうっと息を吐き出した。そして、ぺこりと頭を下げる。


「教えてくださり、誠にありがとうございました。大司教様の誠実なご対応に感謝いたします」

「こちらこそ、アリアに寛大な心で接してくださり、ありがとうございました。次はわたくしだけでお教えさせていただきますので……」

「え? 是非これからも、アリアさんと一緒に学ばせてください」

「……それ、は……どうしてでしょう?」

「だってそのほうが、効率も良いですし。何より私も、競争相手がおりますとやる気が湧きます。なので、是非」


 そんなことを言ったが、グレイスの考えはただ一つだ。

 そう。自身の死亡フラグをへし折ることだ。


(そして、こうして関わってしまった以上、アリアちゃんは小説通りのエピソードで後悔し、努力するようにはならないはず……。なら、思わず飛び級をしたくなるくらい勉学に勤しんでもらうには、嫌味だけど事情が事情なだけに文句が言えない女がそばにいたほうが良いでしょ)


 原作を変えてしまったのはグレイスなのだから、必要であれば最後まできっちりケアをするのが当然だろう。

 というわけで、グレイスが教会でやることは決まった。


(アリアちゃんへの、ダル絡みだ!)



 *



 それからグレイスは教会へ向かうたびに、コンラッドに体の検査を受けつつ、アリアと一緒に神術を学んだ後、彼女に絡む、というのを繰り返していた。


 初めのうちは神術の学びの時間が終わるとすぐに出て行こうとしていたアリアだった。が、出て行ってからどんなに無視しても絡まれることに嫌気が差してきたのか、五回目のダル絡みでとうとう白旗を上げる。


「~~~~~っ! あー分かりました、分かりましたよ! わたしが悪かったです、これでいいでしょう!? なのでもう、わたしに関わるのはやめてください!」


 半ばやけ、というかまったく謝罪の意味を成していない謝罪に、グレイスはほのぼのする。


(天才とはいえ、こういうところはまだまだ子どもね)


 こういうところにイラっとしないと言えば嘘になるが、しかしアリアは天才少女として作中で描かれていたのこともあり、イライラよりはほのぼのとした気持ちが強い。

 何より、精神的に優位に立てている気がして、少し嬉しくなった。その辺り、グレイスもまだまだ子どもである。


 ただ別に、謝罪をして欲しくてダル絡みをしていたわけではないので、再び訂正を入れる。


「あ。私別に、アリアさんに謝ってもらいたくて付きまとっていたわけではないから」

「は?」

「私、ぼっちなので、友達になりたいなと思って、絡んでいただけよ」

「………………馬鹿なんですか?」


 そうしたらなぜか、理解できないものを見るような目で見られてしまった。


(ひどい、本音なのに)


「ええーひどいわ。本当なのに」


 そう泣きまねをしながら言えば、なおのこと気持ち悪いものを見る目を向けられた。


「そういうのはもう間に合っているので、結構です」

「え、間に合っているって何……?」

「……ここの司教様が、いかにもな目でわたしに接してくるんですよ。それだけです」


(司教?)


 グレイスは首を傾げた。

 この中央教会においてのみだが、一番偉いのは大司教である(大司教がいるのは中央教会のみなので)。

 次に偉いのが司教、その次が司祭、最後に神官という形だ。神官の中にも序列はあるらしいが、まあ大まかな序列はこれだけ覚えておけばいいだろう。


 つまり、司教というのは本来、教会のトップなわけだ。

 なのでそういう意味で、今後の成長を期待できるアリアに対して親切にしているのでは? と思ったが、何やら引っかかるものがあり、グレイスは考え込む。


 そして思い出した。


(あ、そうだわ。ここの司教、貴族たちにすり寄って悪事を働いていて、アリアちゃんが宮廷勤めになって初めに裁かれることになる人じゃなかったっけ)


 名前は確か、マルコム・フィッツだったか。

 しかも、確か幼女や少女といった若い女性のことが好きで、大司教であるコンラッドが亡くなってから教会の子供たちに手を出す下種野郎だ。

 幸いというべきか、アリアはコンラッドが存命中に全寮制魔術学園に通い始めるため、難を逃れたとかだった気がする。


 なのでアリアのこともおそらく、そういった嫌らしい目で見ているのだろう。

 それを察知するとはさすがと言うべきか。


「……いや、待って? 私もその司教様と同じ枠なのっ?」

「……あなたのはなんていうか……まるで我が子を見るような、慈愛に満ちた目、というか……」

「え、ならなおさら、なんで間に合っているの!?」

「……歳不相応で、不気味なんです。どういう意図か分からず気味が悪いという意味で、司教様と同類です」


(なおのことひどい)


 その発言には、ちょっとだけ傷ついたグレイスだった。

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