1/37
0.死にたくない、ただそれだけ
毎日19時更新。
完結まで大体10万文字前後を予定しています。
よろしくお願いします。
前世の記憶が戻ってから、二ヶ月。
その後、社交界デビューを無事に果たした十八歳の夏から、二ヶ月。
グレイス・ターナーはずっと、ある人物から逃げ続けてきた。
花、花、花。ひたすらに壁の花を演じ、目立たない。
そして殿方と極力話さない、関わらない、存在感を消す。
この三点を心がけ、今まで影のようにしてなんとか逃れてきたつもりだ。
それなのに。
「グレイス嬢。あなたは何故、わたしのことをこんなにも避け続けるのですか?」
その、避けに避け続けた行動が、逆に聖人公爵――リアム・クレスウェルの目に留まる理由になるなんて、一体誰が想像できただろうか。
夜会が開かれている宮廷、そのテラスの端にまで追い詰められ、完全に逃げ場をなくしたグレイスは、愛想笑いを浮かべながら心の中で叫ぶ。
(それは……ラスボス予定のあなたから逃げて、自分の死亡フラグをへし折るためですよーーー!!!)
しかしその切実な叫びは誰の耳にも届くことなく、きらめく星空へと溶けていったのだ――