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占い師と彼女

作者: 葉沢敬一

「こんばんは、占っていかない?」

 会社から帰宅している途中、駅前で声を掛けられた。ロマンスグレイの髪に眼鏡の路上の占い師だ。別に金払うほどの悩み事を持ってなかった私は無視しようとした。

「ただで占ってあげるよ。大サービスだ」

 ふむ。それなら暇だし付き合ってあげてもいいけどと思いかけたが、昔、手相を見せてくださいと迫る新興宗教の勧誘に遭ったことを思い出した。

 正直、私は人畜無害で人の良さそうな顔をしているらしく、街を歩いていると、老人や子供達から話しかけられることが多い。外人から道を尋ねられるし、風俗のキャッチとかも多い。友達から、お前隙だらけだからなと、言われる。

 そんなことを思って、意識を向けたが最後ニコニコと笑顔の占い師に椅子を勧められ、誘蛾灯に惹かれる蛾のごとくふらふらとその椅子に腰を下ろしてしまった。

「お兄さん、悩んでるだろ」

 まあ、人並みに悩みはある。

「彼女がいないだろ」

 それは外見から判断したのかな? 確かにいないが。

「高望みをしてるんじゃないか? ドラマみたいな恋なんてそうないぞ」

 分かってる。過去の片思いを引き摺っているんだ。

「過去は過去。やり直しはできないんだよ。そんな物に囚われるくらいなら、今、近くにいる女の子誘いなさい」

 占い的にはどうなの?

「近々、いい人が現れる。もしかしたら結婚まで行くかもしれないぞ」

 確定じゃないんだ。

「未来は決まってないんだよ。占いを頼る人は、安心か絶望を求めてやって来るが、今の行動の結果が未来なんだ。『必ずこうなる』って言う占い師は三流だよ」

 そう言って、占い師は名刺を出した。

「今日はここまでだけど、本格的に相談したいならこちらへ連絡頂戴。有料だけどね」と、言ってウィンクした。

 ああ、こういう売り込み方もあるのか。まあ、何か相談したいことがあったら連絡することにしよう。私は名刺を懐に仕舞った。

 そして、2週間後、その女性と遭った。私は社会不安症で神経科に通っていて、月に一度通院している。帰りに薬局に寄って、処方された抗不安剤などを貰ってくるのだが、薬局の受付の女性が気になってしまった。眼鏡をかけた大人しそうな娘だ。

 一ヶ月、モヤモヤして、次の通院時に声を掛け、なんとか連絡先を交換した。本で読んだのだがメモを渡してここに連絡してとかやったはいけないとあった。相手任せだと連絡が来ない。会ったときに交換。これ、声を掛けるときの鉄則らしい。

 それはともかく、デートすることになって、運命は回り始めた。お礼も兼ねて、幸運を引き寄せる方法についてあの占い師に話を聞きに行くことにした。

「上手くいってるようだな、そんな顔をしている」

 占ったわけじゃないんだ。

「私は昔、いろんな占いを学んだけどどれも当たらなくてね。どんどん悪いことが起きてきてどうしようかと思ったことがある。書いてあることに頼ってたのだから当然と言えば当然だけどね」

 それは雑誌の占い欄を否定する見方だな。

「占い師に相談する場合、客観視できる。でも、自分で占う場合、見えない状態で自分に都合の良いように判断するから失敗する。占い師は自分のことは占えないんだよ」

 ほう。

「失敗を続けて、何が悪いか悟った。なんでもやってみることが幸運への近道だとわかったのだよ。成功者は失敗から学ぶ。一発で成功する奴は一発で大失敗する。宝くじに当たった人の大半は不幸になるという研究があるんだ」

 そうなの?

「そうだ。アメリカで、会社の経営者が宝くじを当てた。そこまでは良かったんだが、金遣いが荒くなり、ギャンブルに明け暮れて、会社を潰して再起不能になってしまったという例がある」

 なるほど。今後の人生の指針はどうすれば良い。

「コツコツと小さく幸せを広げて行くんだ。若いときだけ成功しても年取って苦労するよりはいい。常に成長するように心がけるんだな。人生、山登りと一緒、転げ落ちるのは一瞬で、少しずつ登っていってあるとき振り返れば遙かなる高みに達しているのに気づく」

 この前、知り合った彼女と結婚まで行くかもしれないとか言っていたけど。

「我を張り合うのが人間なんだ、それをお互い許し合えれば、結婚するかもしれないし、良い友達になるかもしれない。運命は川の流れみたいなもんで、流れる方向は決まっているけど海までたどり着くかは保証できないよ」

 占って貰っているというよりは人生論を教えて貰っているようだった。ちょっと感心したので料金を払って帰宅した。

 ネット通販経由で彼女からプレゼントが来たので開けてみたら着やすそうなパーカーが 入っていて、早速着て彼女に画像を送った。「ありがとう」というメッセージとともに。 お互い、恋愛慣れしてないので、探り探り店を回ったりしてデートしている。友人に話したら中学生のデートみたいだねと笑われたけど、それで彼女も良いらしいので。出会ってすぐにセックスとか敷居が高すぎるし、不安神経症の私には無理だ。

 最近、時々、愛ってなんだろうとか思う。彼女へ想いのように相手を大切に想う気持ちがそうなら愛しているのかもしれない。それが一方通行のものかもしれなくても。

 そんなことを思っていたのだが、彼女の部屋に行ったときに、パソコンを起動したまま台所で食事を作り始めた。手料理食べさせてもらえるのかと、ワクワクしていて、ふとパソコンのメインに使っているらしいGmailを見てしまった。

 そこにはあの占い師の宛のメールがあった。なんか悪い物を見てしまったような気分になってすぐ閉じたけど……彼女に遭ったのは偶然じゃなくて仕組まれていたことだったのか?

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気軽に読めるファンタジー短編集Ⅱ 疾風怒濤編 より

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