表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/388

目撃者と待ち望んだ車

 「うううーー!」


 解体屋さんのガレージの奥で、悠梨はガムテープで後ろ手に縛られ、口にもガムテープが貼られていた。

 いや、縛ったのも、貼ったのも私だ。

 私らが作業を進めている、秘密の優子のGTSコンセプト(仮)を暴き出そうとした悠梨を、反射的に柚月が羽交い絞めにして捕まえた。


 「何するん……うううー」


 暴れる悠梨の口を押えた柚月が、私に向かって叫んだ


 「マイ、そこにガムテがあるから、悠梨を黙らせて、ついでに縛っちゃおう~」

 「でも、その後、どうするのよ?」

 「いいから早くーー!」


 柚月の必死の形相に、私はガムテを手に取って向かっていった。


 「……で、どうするの?」

 「秘密を知られたからには、生かして帰すわけにはいかないよ~」


 私が訊くと、柚月は肩で息をしながら言った。

 なんだよ柚月、車が見つかっただけなのに、やってる事が大袈裟じゃね?

 これじゃ、まるで拳銃の取引を見つかった組織の人間みたいだよ。


 「マイ、おじさんにさ、明日、プレスに回す車が、どれか訊いてきてよ」


 プレスって、解体車の最後の工程で、部品を取られ尽くした車が、機械でペチャンコにされちゃうあれでしょ?


 「そんなの訊いて、どうするの?」

 「悠梨を、ガムテで、ミノムシみたいに、全身ぐるぐる巻きにしてから、プレスする車のトランクの中に入れちゃうんだよ!」

 「むううううーー! ううううーー!」

 「うるさいな~、静かにしないと、口もぐるぐる巻きにするぞぉ~」


 目の据わった柚月が、ビーーっと、ガムテープを引き出しながら、悠梨に向かってゆっくり歩いて行った。

 あぁ、柚月ったら、完全に役に入り込んじゃったよ。

 だから、柚月は頭のネジが取れちゃってる人みたいに見えるんだよ。


 私は柚月の正面に回り込むと、柚月の頬を両手でパンっと挟み込んで


 「落ち着けっての!」


 と言うと、柚月の手からガムテをひったくった。

 私の背後では、悠梨が涙ボロボロ流しながら、へたりこんでいた。

 私が悠梨の方を向くと、涙で粘着力の落ちたガムテが剥がれた。


 「ぷはっ! なんで、私が殺されなくっちゃいけないんだよー!」


 悠梨が、私の方を必死に見て言った。

 あぁ~、柚月ったら、突っ走っちゃったねぇ、でも、その方が、この後の展開が楽だから良いか。

 私は柚月と、悠梨を囲んで事情を説明した。


 「そんなの、結衣に話すわけないだろー! 何考えてるんだよー」

 「いーや、コイツは結衣と一緒に私を襲って、鼻の中にこよりを入れて、ぐりぐりしたり、胸をグニグニ揉んだりした奴だからねー、信用ならないよ」


 いつの間にか、柚月からの信用度が地下に潜ってしまったみたいだよ。

 悠梨ったら、仕方ないなぁ……。


 「とにかく、優子は、あまり大騒ぎしたくないみたいなの。だから、悠梨も内緒にして欲しいの。もし、結衣にバラしたりしたら、柚月に引き渡すからね!」


 私が、優しく、そして、最後にはダメ押しの一言を付け加えて言うと、悠梨は


 「分かってるって! 大体、私が結衣とあまり仲良くないの知ってるだろー」


 と言った。

 良かった、取り敢えず何とかなったみたいだね。


 「そうか、コレが優子の車なんだねー」

 「そう、伯父さんの形見だって。もう10年以上も放置されてて、凄い状態だったんだから」

 

 悠梨は、降ろしたエンジンや、作業中の室内をまじまじと見ながら、言った。


 「コレって、どこまで進んだの?」

 「この間の土日で、エンジンの積み替えが終わったところ。今週は、足回りのアームからブレーキにかけての作業かな」


 私が答えると、ニヤッとして言った。


 「じゃあさ、土曜日からの作業に、私も入れてよ」

 「ええっ!?」


 私と柚月が同時に答えると、悠梨は


 「いいじゃん。そうすれば、私が裏切り者じゃないって事が分かるじゃん! それとも、土日も私の行動を監視できるのか~?」


 と言ってきた。

 確かに、この場合は、下手に突っ張るよりも、悠梨の言う通りにした方が良いような気がする。……優子にどう説明するかが問題だけどね。


◇◆◇◆◇


 翌日

 まったく昨日は、色々あって、本当に参ったよ。

 あの後、優子に顛末をLINEしたんだけどね。優子からは、優子本人が悠梨に返事をするからって、返答になってて、YESかNOかが書かれてないんだよ。

 これじゃ、私が悠梨に訊かれた時に、なんて答えればいいのかが、全く分からないじゃん……。


 なんか学校に来たら、既に優子と悠梨が来ていて、2人で何処からか戻ってきたところだったよ。

 柚月が後から来て


 「例の件、どうだったの~?」


 って、訊かれたけど


 「私の方が、知りたいんだけど」


 って、言っちゃったよ。

 優子って、結構秘密主義だからね。

 2限が終わって、結衣と悠梨がトイレに立った後で、優子から


 「今週から、作業に悠梨にも来て貰うから」


 と言われて、ようやく、結果が分かったんだけどね。

 悠梨の狙いも分からなければ、そうなると結衣だけが仲間外れみたいになっちゃってるね。

 ただ、今までの経緯から、結衣には、最後まで黙って突っ走るしかないよね。


 「ところで、昨日の車ってどうなったの?」


 優子に訊かれて、思い出した。今日の放課後に、やって来るんだ。新しい部車、そして、1度乗ってみたかった車が。


 「今日の予定だよ。部活には間に合うんじゃないかな」


 と言った。


◇◆◇◆◇


 放課後になって、みんなが部活へと向かう中、私と柚月だけは、職員室に水野を訪ねた。

 例の車の状況を聞こうと思ったのだけど、廊下で、こちらに向かって走ってくる水野と出くわした。

 水野ったらさ、躓いて、私らの前で、豪快にすっ転んでさぁ、もう、マジウケるんですけどー。

 私さ、先生に


 「廊下は走っちゃダメですよ」


 って、注意したのなんて、初めての体験だよ。

 水野は、すっくと立ちあがると、鼻を押さえながら


 「すまない。連絡があって、今校門に到着したそうだ」


 と言うので、私たちも、後について行った。

 校門のところには、お馴染みの、解体屋さんのレッカー車があり、新たな部車も降ろされていた。


 「昨日はお世話になりました。ありがとうございまーす」


 私が挨拶すると、おじさんが言った。


 「あぁ、そうそう。それね、書類が出てきたんだって、だから入れてあるし、一応書類アリだから、念のため後ろのシートもサービスしといたよぉ」

 「いつもありがとー、おじさーん」


 柚月が言うと、私の運転で、ガレージに向かった。

 私は柚月に訊いた。


 「さっきの、おじさんの言ってる意味が分からなかったんだけどさ」

 「書類ってのは、一時抹消の謄本だね~。これが無いと、ナンバー登録ができないんだよ~。部のタイプMとかは無いんだと思うよ~」

 「ってことは、ナンバー登録が可能だから、一応後ろのシートもつけてくれたってことね」

 「そう、車検取る時に、後ろのシートが無いと、定員変更かけないといけなくなるからね~」


 そうなのか、後ろに転がっているシートには、そういう意味があったんだね。

 それにしても、R32もだけど、この車も、校内を走ってると、みんなの視線が集まるねぇ。

 色違いになってる、外観のボロさというのもあるんだろうけど、それ以上に好意的な視線に感じるのは、こういう車を見る機会が、減っているからなんだろうなぁ……と、思ってしまう。


 ガレージに到着すると、全部員の視線が、一斉に私たちの乗る車に注がれたよ。

 やっぱり、待ち望まれてたんだね。今まではR32ばっかりだったもんね。贅沢な悩みだけどさ。

 私と柚月は、車を降りると、みんなが一斉に、こちらへとやって来た。

 私は、大きい声で


 「みんな~、待望の新しい部車、シルビアK'sが来たよ~!」


 と言うと、瞬間、みんなから“おおっ!”という歓声が上がった。

 そう、遂に私が1度乗ってみたかった、シルビアがやって来たんだ。

 

 お読み頂きありがとうございます。


 『シルビアK'sって、どんな車?』『解体屋さんから回って来るって、程度は大丈夫なの?』など、少しでも気になりましたら【評価、ブックマーク】頂けますと、モチベーションアップに繋がります。よろしくお願いします。


 次回は

 遂にやって来たシルビアを、舞華たちがコンディションチェックします。

 お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ