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秘密の通路とヘッドライト

 「失礼します」


 職員室に入った私たちは、水野の席の所へと行くと、水野は私たちが来たことに気がついて、こちらを向くと話し始めた。


 「すまないね。話というのは2つだ。1つ目は、そろそろ大会のエントリーをしなければならないんだ。軽の方は、耐久なので3年生全員で、出場にしておくが、ジムカーナに関しては、選抜しなければならないので、月内一杯に決定して欲しい」


 水野は、水を一口飲むと、続けた。


 「そして、唐突だが、また部車を仕入れる事になった」

 「それはどういう経緯で、ですか?」


 私が尋ねると、水野は苦笑いを浮かべて


 「付き合い、というやつだな。確かに捨てるには忍びない」


 あぁ、出所はいつもの解体屋さんか。

 あのおじさんは、色々な部品を、私たちに『学割』と称して、格安で売ってくれたり、車を回してくれたりして、商売は大丈夫なんだろうか? たまに心配になってしまうが、水野が言うには、きちんと、やる事はやっている上でのサイドビジネスなので、心配はいらないらしい。


 「それは、どういう車が来るんですか?」


 私と柚月は、水野の話を訊いて、とても乗ってみたい、という欲求が、強くわいた反面、思わず口を突いて出た言葉が


 「また、後輪駆動なんですね」


 だった。

 水野も、それは思っていたようで、苦笑しながら言った。


 「一応、4駆に関しても、頼んではいるんだが、なかなか適当なのが出て来なくてな」


 まぁ、仕方ないよね。

 ウチの部って、まだ創部直後で、部費の支給が極小だから、今までの部車も、ほぼタダとかで貰ってきてると思うんだよね。

 解体屋さんのコネクションを使って、車を処分しようとしてる人に、アプローチかけて、よく言えば、困ってる人同士の架け橋ってやつで、ゲットしてるんだよね。


 今回の部車だって、まともに買えば、結構な金額になるのは知ってるんだよ。それが、すんなりやって来るんだから、こんな有難い話は無い訳だよ。

 

 「それから、話は変わるが、入部希望者が、1年生3人、2年生2人ほど来ているので、明日の活動で、説明を頼みたいんだ。ちなみに、また全員女子だ」


 とも、言われた。

 じゃぁ、その新しい部車の件も含めて、解体屋さんに顔出さなきゃな。

 そして、この部も大所帯になってきたなぁ、それというのも柚月の協力のおかげなんだけど、しかし、またしても入部希望者が女子だけかぁ……。


 普通、自動車部ってのは、男子の比率が高いものなんじゃないの? と思うわけなんだけど、こと、ウチに関しては、全員女子だね。

 なんか、こうなったら『女子自動車部』とかにした方が良くね? と思っちゃうよ。きっとさ、男子で興味持っても、今更入部する勇気は湧かないと思うよ。これだけ、女子だけになっちゃってると。


 部に戻った私と柚月は、3年生を集合させて、さっきの水野の話を伝えると、やはりというかの反応だった。


 「面白そうなのが入ってきたね」


 という結衣の言葉に、みんなの思いが集約されてるかなぁ……。


 「それで、これから確認に行ってくる。ホントは悠梨にも来て貰いたいんだけど……」


 と私が言うと、悠梨は


 「任せとけ! じゃぁ、さっき言ったような感じで、頼むぜぃ」


 と、2年生のリーダーの娘に指示を出すと、1、2年生が一斉に動き出した。


 「よし! じゃぁ、私も」


 と結衣が、調子よく言ったが、そこは私がぴしゃりと抑えた。


 「それで、さっき水野から、『私の所への連絡と、渉外担当は、これから、部長の舞華君と、三島君の固定で頼むよ』って言われたんで、これからは、外への用事は私と柚月の担当ね。同時に柚月が副部長になったから」

 「なんで柚月なんだよー! 私の方が適任だろ。それに、水野は名前間違えてるから、柚月じゃない可能性だってあるだろー」


 結衣が噛みついたが、私は強い口調で言った。


 「結衣がいけないんだよ。さっき言った時、速攻拒否ったからだよ。さっき職員室行った時、他の先生から『自動車部は、いつも違う奴が来てるな』って、水野が嫌味言われて、部長と副部長が基本だって、決めなきゃならなくなったんだから」

 「う……」


 結衣は黙ってしまった。

 だから、さっき面倒だと思っても、私と行けば良かったんだよ。

 面倒ごとを人に押し付けてるから、そういう目に遭うんだって。

 最近、結衣は、面倒な校内や、渉外の活動には参加しないで、作業とか、練習とかの、楽しい活動だけをやろうとする、ズルいところが見えてきてるから、下級生の前で、1度ピシャっと、締めておかないとね。


 私は、柚月と悠梨を連れて自分の車に乗ると、解体屋さんへと向かった。

 到着すると、いつものおじさんが待っていてくれた。


 「おぉーっ! 良いところに来たねぇ、例の車は、ここにあるからさ」


 おじさんの案内で、私たちは、事務所の裏へやって来た。


 「コイツだよ。うん、まぁ取り敢えず、部品取り車だったから、左前周りを取られちゃってるのと、後部席がないから、街乗りできないんだけどさ、バッチリ走るからさ、勿体ないんだよ!」


 おじさんは、状況の説明と、おじさん個人の思いをごっちゃにして、一気に話してくれた。

 おじさんの話では、取られた部品は、既に他の廃車から取ってあるので、外装は揃うけど、色違いになってしまうとのことだった。

 この車は、本来は濃いグリーンに見えるブルーなんだけど、無くなってる部分は、黒の車体の部品で代用することになってるらしい。


 「どう? 悠梨、やれそう?」


 私が訊くと、柚月とボンネットの中を確認していた悠梨は、へへんと、鼻を鳴らしながら言った。


 「別に歪んでる訳じゃないからね。部品を組み込んじゃえば、余裕でしょ。ただ、元の色を生かすのは、難しいから、他の色を考えるとか、後ろだけ元色を残して、前は違う色にするとかだね」


 じゃぁ、外装は問題なしだね。

 次は機関だけど、見た感じは問題なさそうだし、そんなに汚い訳でもない。おじさんの話だと、引き取りに行った時も、トラックに自走して乗せたので、走らないわけではなさそうだね。


 オイルの注入口を覗いていた柚月からも、汚れたり、焼き付いたりはしてないって言われたから、大丈夫そうだね。

 見た感じ、エンジンのヘッドからオイルが漏れた跡はなかったし、見た目で分かるほどの致命的な不調はなさそうだね。


 よし、タイヤを外してブレーキを見てみよう。

 覗いてみたところ、パッドも残ってるし、その内側にあるローター? って、円盤も、ヒビが入ったりはしてないね。

 柚月がローターを手で撫でてみてから


 「ローターも、ガタガタじゃないね~」


 と言ってたから、大丈夫だね。

 ちなみに、ローターは、長く乗ってると、ブレーキパッドの減った断面に沿って縁にムラが出てくるから、ガタガタになり過ぎてる場合は、研磨するか、新品に交換するんだって。

 そういえば、部車のタイプMも最初に水野が新品にしてたね。あれは、ブレーキがなかったからね。


 「最近は、社外品のローターが安いから、研磨より交換の方が手っ取り早いよ~」


 柚月が言った。ふーん、そういうものなんだね。

 ブレーキで思い出したけど、この車のブレーキも対向4ポッドキャリパーなんだね。

 え? そりゃぁ、タイプMのブレーキ作業もやったし、GTS25のブレーキ点検もしたからね。違いくらいはしっかり分かるよ。……だから、柚月、頭を撫でるんじゃない!


 あ、おじさんが来た。フロントの部品、持って来てくれたんだ。

 折角だから、3人でつけちゃおうよ。おじさんの手を煩わすまでもないでしょ。私ら、軽音楽部……じゃなかった、自動車部だよ。


 左フェンダーと、左ライトと、バンパーだね。

 どれからつけるのが効率的なんだろ? え? やっぱりフェンダーからつけるのが、良いんじゃないかって? そうか、バンパーをつけるにも、フェンダー側に止まってたりするもんね。よし、おじさんは止めるボルトまで持って来てくれたんだ。タイヤカバーも取り付けて……完了っと。

 柚月のバンパーも、完了したから、あとはライトだね……って、この車のライトって、脇から留めてるんだね。

 骨格に空いてる穴に、ライトから出てる2本の突起を入れて、ナットで留めて、今度はライトの逆サイドから出てる受けの2ヶ所にフロントグリルを挿しこむと、完了だね。

 あと、ライトが軽いと思ったら、レンズが樹脂になってるんだね。そうか、この車くらいから、樹脂のライトに切り替わってくるんだね。R32のはガラスだもんね。

 でも、樹脂のライトは黄ばんだり、曇ったりしやすいから、良し悪しだって。そういうものなのか。


 外装は取り敢えず完了したね。

 今度は、遂にエンジンをかけてみようよ

 ”クシュンシュンシュンシュンシュン……ヴオオオオオオ”

 なんか、キーを捻った時の音が、スカイラインのと違うね。なんか、軽いっていうか、マイルドっていうか、高級感があるっていうか……何と形容したらいいんだろ。

 なんか全体的に、軽い印象を受けるよね。スカイラインが、古くて重いだけなのかな? 


 音を聞く限り、バラついてもないし、アイドリングも安定してるし、1気筒死んでる感じもないし、エンジンの調子は良さそうだね。

 ゴメン柚月、ちょっと動かしてみるよ。……数センチだけ前後に動かした感じ、きちんと止まるし、問題はなさそうだね。クラッチもシフトも引っかかったり、変な癖もなさそうだし、問題なく走りそうだよ。

 どう柚月? 下回りもオイルや水が漏ってる感じは、今のところないみたいだって。

 じゃぁ、今度は柚月の番ね。おぉ、結構吹かすね。え? 高回転まで回さないと出てこない不調もあるんだって? そうなのか。 動かしてみた感じも、問題ないでしょ? クラッチも残ってそうだしね。


 よし、これで問題なしだから、おじさんに、いつ持って来てもらえるか訊いてみよう。……って、柚月、さっきから思うんだけど、悠梨、どこ行っちゃったの?

 あ、おじさんがいた。すみませーん!


 明日には来られるって、良かったね。そうすると、明日にはお披露目とテスト走行ができるね。

 それと悠梨は、トイレの場所を聞いてたみたいだから、きっと事務所にいるんじゃないかなぁ……って、言ってたよ。


 あれ? トイレに誰もいない。

 悠梨のやつ、車に戻ったのかなぁ……って、洗面台の脇のドアが開いてるよ。悠梨のやつ、出口と間違えたんじゃね? 

 ……あれ? このドアって、ガレージに繋がってるんだ。知らなかったね。七不思議ってやつだね。


 ドアを出た私と柚月が目にしたのは、作業中の優子のR32の室内を覗き込む悠梨の姿だった……。

 お読み頂きありがとうございます。

 『新しい部車って、一体何なの?』『解体屋さんって、一体何者なの?』など、少しでも気になりましたら【評価、ブックマーク】頂けますと、モチベーションアップに繋がります。よろしくお願いします。


 次回は

 優子の秘密のマシンを見つけてしまった悠梨。

 それを見つけた舞華と柚月は……。

 お楽しみに。

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