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けんちんうどんとの死闘ッ!

 翌日の朝もうどんだった。

 お願いしたつけ汁うどんだ。

 ドットは連続でうどんなんて本当にうどん好きなんだねと言葉にしていたが、私は気にしていない。

 じっくりと味わうように食べる。

 朝にうどんというのはなかなか経験することがないので斬新ではあるが、悪い触感ではない。

 つけ汁うどんの汁はしっとりとした味わいで、麺との相性はとてもいい。

 しっかり完成した汁にうどんを入れて食べるというのが特徴でもあるので、他の具材を楽しみながら食事を味わうといった印象が強くなる。

 多く食べる時は、汁の交換があるとつけ汁ならではの食感を長い期間楽しめるからおすすめである。

 具を食べる量については適宜バランスを取って味わうといい。

 汁のおいしさとうどんのおいしさ、どちらも新鮮に味わえるのがつけ汁うどんの強みなのだから。


「ごちそうさまでした」


 両手を合わせて、挨拶を行う。

 準備万端。

 気合十分だ。

 ぶっかけうどんからは勢いある気迫を貰い、つけ汁うどんからは強い安定感を貰えた実感がある。


「今日の相手は特別な相手になりそうかも」


「どういうことだ?」


「それはね……」


 ドットが説明しようとした瞬間だった。


「失礼する」


 ドットの家に謎の人物が現れた。

 仮面を被った男性なのだろうか。

 侍のような衣装を身についていて、銀色の髪をしている。

 ひとつ手にしている刀が強者の貫禄を感じさせる。


「あぁ、もう来ちゃったんだ。早いね」


 ドットの知り合いだったようで、彼女が先に反応した。


「次の相手は彼。七味『けんちんうどん』だね」


「五味と六味は現在諸事情により欠席中故、俺が勝負することとなった」


「……どういうことだ?」


 直接会いに来たというのも謎であれば、五味と六味が不在という事実も疑問を覚えた。

 そもそも、ドットと彼の間にはどのような関係があるかもわからない。


「知りたければ勝負に勝つことだ。俺は家の裏にある広場で待つ」


 そういうと振り向いて、どうどうと去っていった。


「わからないことばかりだ」


 自分だけが取り残されている感覚。

 未知数なことに振り回されているようだった。


「後々説明はしていくつもりだけど、今は彼と戦うことに専念してほしいかな」


「ドットも隠し事があると?」


「んー、騙すつもりはないけど、ややこしい事情でね。今は話せないかな」


 話すのもいいけれど、その前に力を示せといった様子。

 彼女は嘘を付いていない気がする。


「やれることはしてみよう」


 そう言って私はけんちんうどんの後を追った。

 眼前に迫る問題を解決することを優先するべきと考えて。





 ドットの家の裏には大きな空間が広がっている。

 戦ってばかりで外を見回る余裕がそんなになかったので、知ることはなかったが空間に余裕を持って戦うことができそうだ。

 裏に向かうとすでにけんちんうどんが刀を携えて待っていた。


「これまでの戦いで、お前は強力な力を得たであろう」


「一味、二味に……三味、四味の力か」


「その通りだ。その力を俺に示し、みごと勝利してみせよ」


「勝利したらお前たちの事情を聴いても構わないんだな」


「無論」


 戦闘態勢に移る。

 姿勢を整え、万全の状態で挑む。


「では、始めるとしようか」


「本気でいこう」


 一瞬の沈黙。

 先手を切ったのは私が先だった。


「三味の力を……ッ!」


 ぶっかけうどんから習得した力。

 制圧を兼ねた重い一撃を乗せた拳で距離を詰めようとする。

 一打目、距離は遠いが、衝撃を飛ばす。

 二打目、距離を縮めながら、まっすぐ衝撃の正拳突きを行う。


「ぬるいな」


 それに対しけんちんうどんは刀を横に振るった。


「なッ……!」


 刀の一振り。たったそれだけですべての衝撃が横に逸れた。

 真正面から圧を掛ける戦術が、効かない。


「猪突猛進は隙を産むだけだぞ」


 動揺の隙を付かれ、敵からの斬撃が襲い掛かる。

 鋭い刀の一閃。

 その、剣圧。


「……それでもッ!」


 四味の力、地面への衝撃波。

 思いきり地面を足で叩きつけることによって、衝撃への疑似的なバリアとして扱う。

 その影響で剣圧から身を守りぬく。

 ……なんとかしのげたか。

 上がった砂煙から脱出しようとした瞬間だった。


「姉妹の技は力が強く、有効打になりやすい。だが」


 側面からけんちんうどんが襲い掛かってきた。

 刀を手に、一撃で屠りに。


「それゆえ、先読みされやすい」


 刀が振り下ろされる。

 まともに当たっては即死だ。

 そう感じ取り、身体をのけぞらせる。

 しかし……


「ぐッ……!」


 達人の技は私の身体を捉えていた。

 うまく避けたつもりだったが、右腕を大きく怪我させてしまった。

 真っ二つにならなかっただけマシではあるが、出血が激しい。

 傷薬を使い、痛みを和らげようが、その痛みが身体全体に響き渡る。


「ほう、今の一撃を避けたか。並大抵の存在はこれで脱落はするのだが」


「これでも鍛えているものでな……!」


「女神の加護のみではあり得ぬ闘志よ。……彼女が託したのも頷ける」


 また知らない話をしてきた。

 しかし、今はそれが問題ではない。

 眼前の達人を撃退するのが重要だ。

 だが、勝てるのか。

 ひとつひとつの行動に対応してくるこいつに。


「ここで負けるようでは転生の意味などなかったことになるであろう」


 刀を構えてくる。

 あれは、制圧の構えだ。


「無駄に命を散らせぬよう、俺がこの場で選別してやろう」


 走って向かってくる。

 刀の間合いに入った瞬間斬られるのは容易に想像できる。

 ならば、こちらの対処方はこれしかない。

 二味の力。


「おおおおおおッ!」


 くの文字を描くように正面からではなく、側面から接近を行う。

 二味の力による爆発力を使って勝負に出る。

 二秒後に七味けんちんうどんの下へと追いつく計算。

 二秒。

 一秒……!


「速攻は戦術として有効ではあるが……」


 ぞっとするような冷淡な目でこちらを見つめてきた。

 手遅れか。

 読んでいたという瞳だ。

 どうする。

 どうする……!


「ただ得た力を振る舞うのは蛮勇ということを知るべきだろう」


 刀を振るう音。

 このままでは間に合わない。

 回避行動は取れない。

 勢いも殺せない。

 このままでは切られて終わりだ。

 負ける。

 無駄な行動をとらない刀術に敗北を期す。

 ……一手も及ばないくらいなら。


「一味の力ッ!」


 刀に対して対応すればいい。

 心が望むままに、身体が反応していた。

 一味の力。風の刃。

 思うがままに具材を切り込む信念と情熱の刃。

 それが、相手の刀とぶつかりあった。


「なんだと……!」


 予期せぬ事態だったのか、余裕を持っていた態度が一変して、焦りを感じさせる表情へと変わった。

 この瞬間は逃してはいけない。


「決して負けるわけにはいかないんだ、うどんを食べるその為にッ!」


 執念と意地で相手の刃を押し返す。

 そして、風の衝撃で、ついにけんちんうどんを突き返した。


「ぐあッ」


 弾き飛ばされた彼は、姿勢を立て直して衝撃を緩和した。

 まだ戦える様子だ。

 いままでの敵とは勝手が違う。

 ひとつひとつの攻撃が危険。

 油断すると一瞬で持ってかれる。


「先程の技は知らない技だった……一味があのような技を持っていたかは正直知らなかったが……」


 服の汚れを払い、立ち上がる。


「二度目は通用しないと思え」


 目が死んでいない。

 むしろ、明確な好敵手と判断したような鋭い目つきへと変化していた。

 次の一撃は全力のものになる。

 そう、容易に想像できるくらいに。


「……これまでの戦闘に耐えたお前には敬意を持とう。だが、俺の最強の技を持って沈めてやる。……覚悟はいいか」


 刀を構え、強烈な眼光を向けてくる。

 決着を付けるつもりだ。


「……まだ、多くのことを知りえていない。だから私は調理されるわけにはいかないんだ。ここで死んだら、私が今ここにいる理由すらわからなくなってしまうからな……! だから、受けて立つッ!」


 風の刃を構えて負けないように構える。


「ふっ、いい答えだ。……行くぞ!」


 真正面からけんちんうどんが襲い掛かってくる。

 絶対に折れないという意思を持ちながら、まっすぐに。

 逃れるべきか。

 いや、間に合わない。

 あっという間に彼は私の目の前まで襲ってきた。

 剣道の『面』のような姿勢で、刀が振り下ろされる。


「奥義……『剣沈雨曇』ッ!」


 振り下ろされた刀に対して、風の刃でつばぜり合いを図ろうとする。

 しかし、攻撃を抑えようとした瞬間には、既に次の手が襲い掛かってくる。


「ぐ、う……ッ!」


 繰り返す『面』の一撃の連続。

 現実離れした速攻に腕全体が悲鳴を上げる。

 ひとつひとつが豪雨のように降りかかってくる。

 重く鋭い刃の一撃。

 受け流せなければ、待っているのは敗北。

 切り返せ、切り返せ、切り返せ。

 重い衝撃を耐えて、待ち望んだ反撃の好機を探り当てる。

 土砂降りの雨をしのいでいる感覚。

 けんちんうどんから、うどんを引っ張り上げる感覚に似ている。

 ……けんちんうどんから、うどんを引っ張り上げる感覚。

 そうだ、これがあった。


「弱点が分かった……ッ!」


 わざと声に出して、相手の動揺を誘う。


「だが、お前の体力ももう限界だろう!」


 動揺はしてくれない。

 しかし、相手が思っていることを教えてくれた。

 『私の体力は限界である』っと思っていると。

 つけ入る隙になる……!


「確かにこのままだと限界だろう」


「なら諦めるがいい!」


「だが、悪あがきはできるんだよッ!」


 二味の力を使い、身体能力を向上させる。

 この試合に決着を付ける為に、後を考えない動きで。

 それにより、ほんの少しだけ、打ち返す速度が上がった。


「二味の力を使ったか! だか、それだけでは勝てんぞ!」


「わかっているさッ! だから……!」


 三味、四味の力も解放する。

 体中が悲鳴を上げる。

 苦しい、苦しいと。

 それでも、勝つ為に歯を食いしばる。

 三味の力は風の刃に衝撃を加える。

 四味の力で、足元へ衝撃を加えることによって、堅実な守りを実現させる。


「けんちんうどんから麺を拾い上げるように、私は勝利をつかみ取ってやるッ!」


 衝撃を加えた風の剣が一刀の火力を受け流していく。

 一回、二回、三回と受ける度にこちらが優勢になる。


「ぐッ……!」


 打ち合いが七回に応じた時、けんちんうどんの刀が宙を舞った。


「……そこだッ!」


 いま、この瞬間に決着を付ける。

 思いっきり風の刃を叩きつけた。


「ぐああああッ!」


 衝撃をのせた風の一撃がけんちんうどんを吹き飛ばした。

 ……なんとか、押し返せた。

 身体から力が抜け落ちた瞬間、意識が遠のいていった。

 確かな勝利の実感を噛みしめながら。

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