決着
「奥義、『剣沈雨曇』ッ!」
私が戦線離脱したのち、継続戦闘をしていたのはけんちんうどんだった。
ひとつひとつ雨の如き斬撃をぶつけ、奇有利混沌の動きを封じ込めている。
現状は、彼一人の状態。他の三人は既に退避済みのようだった。
彼の攻撃は留まることはないが、決定的な打点には至らない。
むしろ、徐々に追い込まれている。
「……確実に終わらせる策はこれで問題ないな?」
行動を共にしていた二味、三味、四味に確認を取る。
「またお前が危険な橋を渡りそうだがな!」
「二度目の失敗はない」
「全力で、頑張ります」
「よろしく頼む」
「では、私も真剣に取り掛かって揚げましょう」
「確実に行こう」
けんちんうどんがついに敵の攻撃によってはじかれた。
そう、この瞬間から行動は開始される。
「頼んだッ!」
「はいよッ!」
三味ぶっかけうどんの力で私と四味つけ汁うどんを上空に飛ばしてもらう。
「ぶっとべぇ!」
はるか上空、高度は雲ほどの高さ。
「一緒に行きましょうっ!」
「あぁッ!」
狙いの的は奇有利混沌。
二人で同時に攻撃を行う。
敵の背面から、直接……
「当たれぇえええええ!」
二人の一撃を加える!
「ぐおおお!?」
高度を利用した二重の衝撃波は敵の防御を貫通し、そのまま大きく敵の仰け反らせる。
「続けろ!」
「ガッテンッ!」
次は三味の両腕の衝撃波を正面からぶつけていく。
一打、二打、三打。
私の時は聞かなかった技が今は通っていく。
「ぐ、こ、小癪なッ!」
「飛ばすぜぇっ!」
四打目の衝撃波で打ち上げて、それを二味かき揚げうどんが拾っていく。
「本気でいきましょうッ!」
「ぐわあああッ!」
人間の大きさの10倍ほどの大きさのかき揚げのようなものを召喚し、それでぶん殴った。
油が走り、敵に大きな火傷を負わせる。迸る一撃だ。
速攻の連携。
これで、どうにか追い詰められたか。
「……くっ、くっ、くっ」
それでも、不敵な笑いをしながら奇有利混沌は立ち上がってきた。
「我の防御を付き崩したことは認めよう。しかし……」
膨大な力を解放して、構えてくる。
「我は不死身ッ! 決して倒れることなどないわッ!」
威圧するような態度。
高圧的な、敵を排除したい声。
……どこか敵の焦りを感じ取った。
「おい、どうする。同じ手は効かねぇぞ」
「……問題ない」
みんなより前に立ち上がる。
「勝てる戦いだ」
連携の中で通った技があった。
一人では届かない力もあった。
そして、忘れてはいけない原点を見つけた。
もう、負けるすべが見当たらない。
「ほざくかぁッ!」
真正面から、敵が襲い掛かってくる。
「一つの拳は願いを守る為にあり」
迷いなく、胴体に一撃を加える。
余計な感情に流されぬように。
「がッ」
「二つの拳は燃える情熱を宿す」
二味の力。
加速した一撃を加える。
「三つの拳は折れることなき魂を源にし……」
繰り返す、両腕の衝撃波。
「四つの拳を支えし力に繋がる」
両足の衝撃波で蹴り上げ、敵を打ち上げる。
「調子に乗るなァ!」
「五つ目の拳は……」
敵の攻撃をいなし、一打を加える。
「人知れず戦う心強さを示し」
両腕を構えて、彼のように動く。
「六つ目の拳は戦い続ける覚悟を望む」
光線は出せずとも、それくらいの速度の拳なら放てる。
「七つ目の拳は……ッ!」
ゼロ距離を取って、もう一度、胴体に鋭い一撃を加える。
「ぐ、あぁ」
「全てを守る意思として心を繋ぐッ!」
これが、七味の力。
繋ぎとめる心。
彼らの魂の繋がり。
「……私は、まだ彼らのことを十分に知り尽くしていない。だが、彼ら一人一人が情熱を持っていることははっきりとわかった。だから……!」
「なんだッ!」
「お前が一味を名乗る資格なんてなかったんだッ!」
掌底による衝撃波。
それによって敵を吹き飛ばす。
……うどんモンスターなんて馬鹿げた名前を気取って、うどんの名前を汚して、うどんそのものもすらも汚した。
奇有利混沌という存在は邪悪そのものだ。
許すわけにはいかないッ……!
「……邪魔だったのだよ、この世界の『七味』の軍団がッ!」
まだ立ち上がり、敵が言葉を繋いできた。
忌々しいと言わんばかりの態度で。
「なんだと?」
「うどんを好んで食べる集団が強いと聞いて、我は煩わしく感じた。だから、風評被害を飛ばしたのさ。うどんモンスターで、うどんへの忌避感情を上げる為になァ!」
「罪のないうどんに罪を着せたというのか……ッ!」
「あぁそうとも。いずれは『七味』も乗っ取ろうとしていた。だが、貴様が来て真っ先に潰されて計画はパーになったんだ。貴様さえいなければよかったものをッ!」
「……ふざけるなッ!」
「我の計画をつぶした報いを受けろやああ!」
怒りをぶつけてくる敵の一撃。
だが、それがどうした。
「何が計画だ……ッ!」
風の刃が伸びる。
両腕で展開して、奇有利混沌の両手を引き裂く。
「なにィ!?」
「お前が落としたきゅうりのうどんは確かに美味しかったというのにッ!」
全身を引き裂く。
「お前はッ!」
何回も。
「お前自身はッ!」
怒りと共に、切り裂く。
「なぜそこまで性根が腐っているんだッ!」
怒りと共に奇有利混沌を吹き飛ばす。
それでも、私の怒りは収まるわけがない。
「来い、終わらせてやる」
両手を構えて集中する。
次で決着を付ける。
「我は、この世界を支配する為に……ッ! 混沌から姿を現したのだぁあああ!」
真正面から襲いかかる。
構え。
いや、再生した麺のようなものが口に迫ってくる。
「喉を突き刺さられて死ぬがいいッ! 泥にまみれた屈辱の麺を舐めながらなァ!」
……なんとも、言わせるなッ!
うどんは、舐めるもんじゃねえだろッ!
泥をかぶった麺を齧り、そのまま歯を食いしばる。
「わ、我の麺を喰っただと……ッ!?」
そのまま右手をまっすぐ伸ばす。
いつもの正拳突きではない。
最高の、あの自分自身のうどんを食べた時の感覚を思い出して。
無心に、殴る。
そして……弾き飛ばす。
あのゲテモノの腕の麺など食い破った。
泥の味がしたが、食えぬものではなかった。
「ば、馬鹿なッ! 我が! この混沌が敗れるだと!? 我があぁぁぁぁぁぁ!!!」
空に浮かんだ敵は、大量の光を纏い、破裂した。
……私を異世界に送ったあの強烈な爆発をぶつけたのだ。
無駄に丈夫だった奇有利混沌もこれで完全に消滅しただろう。
「……あえて、もう一度だけ言葉にするぞ」
聞こえるようにはっきりと言う。
「うどんを、舐めんな」
死力を尽くした戦いがついに終わり、私はそのまま横たわった。




