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力の差

 焼うどんとドットに教えてもらった道をまっすぐ走る。

 苦戦している味方を助ける為に、ひたすら走る。

 優曇家の言葉を思い出す。


『力と武術は己の正義の為に扱え』


 正義がなんなのかとか、そういうことはよくわからない。

 それでも、一緒に食事をする日常の風景を壊す存在を許すわけにはいかない。

 まだ、そんなに見知ってもいない存在の為に力を発揮できるかはわからない。

 それでも、おいしいうどんを食べられる日々が失われるのはあってはいけない。

 だから、私は走る。

 私が正しいと思ったことの為に。


「……あそこかッ!」


 狐の耳をした少女と、サンバイザーとスーツを付けた男性。

 あれがきっと、五味と六味だろう。

 二人は手が麺で出来た魔物に追い込まれている。

 数はざっと数えられないほど。三十ほどの敵はいるかもしれない。

 助け出す。

 大きく飛んで、狙いを定める。


「薙ぎ払うッ」


 衝撃が二人に届かないような位置を起点に、飛び蹴りを行う。

 四味の技、足から発せられる衝撃波だ。


「うどどッ!」


 聞き覚えのある声が響き渡り敵の何体かは消滅する。

 救出対象の二人は無事だ。


「大丈夫か」


 念の為に確認を取る。


「妾は平気じゃ。しかし、まさか戦うべきじゃった相手に助けてもらえるとはの」


「まぁいいじゃあないか。巨悪を倒すことが最優先事項だったのだから!」


 狐耳の方はやれやれといった様子で、サンバイザーの男はポーズを決めながら返答した。

 この調子なら酷い痛手があったということはなさそうだ。


「妾はきつねうどん。まぁ五味じゃな。今できることといえば……」


 指を鳴らして、彼女の目の前に大きな狐が現れる。


「魔力が足りなくなってきておるが、こうして敵を吹き飛ばすくらいじゃ」


 巨大な尻尾で敵を打ち払うと、すぐに狐が消えていった。


「そして俺はカレーうどん! 得意技はッ!」


 両手を合わせて、敵が纏まっている空間へと狙いを定める。


「加レイビームッ!」


 一瞬の貯め。

 両腕から収束し、放たれた光が直線の敵を消し飛ばした。

 強力な威力だ。


「本来は妾達のうどんも食べさせたのちに決戦に挑みたかったのじゃが、敵が待ってくれなかったのじゃ」


「繰り返し倒しても蘇る敵を処理するのに手間がかかってしまってな!」


「かれこれもう4時間ほどは戦っておる」


 三十体ほどいた敵を蹴散らして、余裕ができたタイミングで話を進める。


「これで全部じゃないのか?」


「違う違う、この後すぐにやってくる。ほれ」


 指を向けた方向から再び、腕が麺の敵が現れた。

 まるで捻じれた次元からやってくるように不可解な現れかたをしている。


「無限の援軍か」


「この防衛ラインを抜けられたら危険だから俺たちは戦っているというわけだ!」


 防衛ライン。

 今いる場所を確認する。

 山の入り口付近に位置する場所。

 この場所の後ろには一般人も暮らしている村がある。

 なるほど、通せないというわけだ。


「ここ以外は守らなくていいのか」


「この場所に霊力が集まってるのを感じるのでな」


「霊力?」


「単純な話、邪気じゃ」


「邪な気配と」


「あぁ、この山にこの世界を脅かす悪霊がいるようでな……」


 話をしている最中だった。

 空間の歪みから現れ、私に向かってくる影があった。


「……伏せろッ!」


「なっ」


 号令をかけ、その影の攻撃を右手で迎え撃つ。

 三味の力、腕の衝撃波を発動しながら。


「何者だッ!」

「うどうどうど……」


 右、左、右と攻撃を仕掛けるが対処される。

 同じ方向にパンチを返してきて、謎の生物は衝撃を緩和。

 そのまま、バク転して一定の距離を保ってきた。


「この顔、忘れたとは言わせねえよ?」


 影を払い、正体を現してきた。

 あいつは知っている。

 あの顔は。


「……きゅうりうどんかッ!」


 麺を台無しにするような攻撃を繰り返す腹立たしい相手。

 七味のように立ち振る舞って嘘で固められた存在。

 私がこの世界で初めて戦った奴がそこにいた。


「そう、お前の知っているきゅうりうどんだ。だが、今の我はひと味違うがね」


「どういうことだ」


「ふん、混沌様から力を貰ったんだよ。この山の主……いや、この世界の混沌からなッ!」


 腕を構えて、何かを企む。

 ……変身するつもりか!


「させるかァ!」


 先手で動いたのはカレーうどんだった。

 指先からビームを放ち、仕留める目論みか。

 しかし。


「無駄だ」


 当たるはずのビームは敵の目の前で消滅した。

 まるで最初から何もなかったかのように。


「だったら……ッ!」


 衝撃波を飛ばし、怯ませようとする。


「無力よ」


 それも、無駄であった。

 理不尽なほど、なにも起きない。


「空間湾曲か……随分な力を得たとみる」


 きつねうどんは冷静に分析を行う。

 ねじ曲がった空間には攻撃が通らないという理屈だろうか。

 ならば今、対処するすべが存在しない。


「賢いなぁ。あぁ、賢いよ。生命すべてが独活の大木かと思ったらそんなこともなかったらしいなぁ」


 余裕ぶった態度で、敵が嘲る。


「では、君たちに絶望というものを見せてやろう」


 ねじ曲がった空間が敵の身体に収束していく。

 歪に捻じ曲がり、敵を新たな姿へと変貌させていく。

 悪魔のような角。

 歪に曲がった爪。

 もはや麺としての原型を咎めていない気味の悪い手。

 竜のように大地を踏む両足。

 これが、敵の本当の姿。


「これが真の姿、奇有利混沌……もっとも独活の大木に見せるにはいささかもったいない姿ではあるかね?」


 嘲笑と共に煽ってくる。

 まるで、相手にもならないといいたそうに。


「さぁ、地獄へ旅立たせてあげよう」


「言わせておけば……ッ!」


 気迫に負けてはいけない。

 そう思い、拳による接近戦を仕掛ける。

 だが。


「本気の我に届く拳があるとでも?」


 気味の悪い麺の手を収束させて、拳の形にしてきた。

 振り向くこともなく。


「なッ」


 その動作ひとつで、私の拳が止まった。

 まるで、造作もないといった態度で。


「……加レイビームッ!」


 隙を晒したと感じたのか、再びカレーうどんの攻撃が続く。


「懲りぬ男よ」


 それをもろともしないように、もう片方の手で弾き返した。


「ぐはっ」


 跳ね返されたビームに当たり、カレーうどんが吹き飛ぶ。


「……よくもッ!」


 狐の力を借りて次はきつねうどんが仕掛ける。

 飛び掛かる、一撃。


「……むゥんッ!」


「きゃあっ」


 だがその攻撃も無意味とかした。

 顔を一回横に振るう。それだけの動作で生じる衝撃波が、薙ぎ払ったのだ。

 ……今までの敵とは違いすぎる。

 攻撃が通る未来が見えない……!


「ほう、絶望しているな? あの、偉そうに説教した若造が、我を見て、敗北を知ろうとしているな?」


「そんなことは……ッ!」


 残された左手で風の刃を精製し、拘束してくる敵の手を裂こうとする。


「麺を切るように、我の手が斬れるとでも思ったのかね?」


 それも無意味だった。

 びくともしなかった。


「お前に託して力を宿らせたらしいが、どうやら無意味に終わりそうだなぁ」


 左手も相手の手によって拘束され、両腕が仕えなくなった。


「まだだ……ッ!」


 足の衝撃波で繰り返し攻撃を行う。

 その攻撃すら効果がなかった。


「弱い犬程よく吠え、独活は大木になると無駄になる。お前はしょせんその程度に人間だったというわけよ」


 歪な口が近づいてくる。

 ここで終わるのか。

 終わっていいのか。

 あってはならない。

 二味の力を使って全力で蹴る。


「ぐぅ…っ! 抵抗するなァ!」


 両腕の拘束が酷くなる。

 なにかが軋む音がする。

 痛い。

 だが、抵抗を繰り返す。

 なにか手段を見つけるまで。

 蹴る。

 繰り返し、蹴る。

 全力で、蹴る。

 それが何回も繰り返されたのち、ついに限界が訪れた。

 二味の力が使えない。

 気力切れ。


「ふんっ、しょせんは屑だったというわけだ。どれ、我が喰らってやろう」


 異形の顔が近づく。

 あぁ、もう終わりか。

 せめてもう少しうどんを食べたい人生だった。

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