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明かされる真実

 次に目を覚ましたのはドットの家のベッドだった。

 上体を起こそうとしても身体がひりひりと痛む。

 無理していたのが直に伝わるほどに。


「やっと目を覚ましたね」


 ドットが心配そうに顔を覗かせてくる。


「事情は話してくれる気には」


「既になってるけど、安静にした方がいいと思うんで、話すのは後にする。うどん、食べるよね?」


「うどんは食べれる」


「だと思った。けんちんうどん、ちょっと薬草を加えて用意しとくね」


「ありがとう」


 そう言って彼女は部屋の外に出た。

 おそらくキッチンを使うつもりだろう。

 今の時間はお昼時。

 それなりに眠っていたが、数日意識がなかったというわけではなかったから安心だ。


「……七味を倒すことはできたが」


 これで何かが解決したとは到底思えない。

 そもそもうどんモンスターとはなんなのか、魔王は何者なのか。

 諸事情でいないと言われていた五味に六味の存在。

 七味とドットが知り合っているということ。

 様々なことがこんがらがっている。


「あぁ、らしくないな」


 うどんはしっかりした噛み応えが大切だというのに。

 今の私はふやけた麺のようだ。

 このままでは、勝てる勝負も勝てなくなってしまう。

 戦う準備はうどんと共にある。

 せめて、食べて復活しようと思った。





「できたよー」


 お昼に出来立てのけんちんうどんが運ばれてきた。

 色とりどりの具材や肉が、うどんの上にあって、うどんが見えない。

 ボリュームがある、うどんだ。


「言いたいことも、気になることもいっぱいあると思うけど、まずは食べてもらえると嬉しいかな。大丈夫、毒とか持ってないから」


「ありがとう」


 両手を合わせて、いただきますと言葉にして、けんちんうどんを味わう。

 汁の重い味が効いている。

 けんちんうどんは、うどんの麺と同時にけんちん汁を味わうというわかりやすい料理ではあるが、その分、うどんに負けない味付けが重要となってくる。味噌や醤油による味付けは強めにしないと、うどんの味に負けてしまう。具材も淡泊な味へと変貌してしまうので、なるべく味は濃いほうが個人的な好みとなる。

 具材の味を確認する。……悪くない。

 肉から出るアクをいい具合に取っているからか、油っぽい重さをさほど感じない。それでいて、けんちん汁としても堪能できそうなほどしっかりした味わいのニンジンやゴボウといった具材の味が引き出されている。

 両方の味を堪能した後は、ついにうどんを食す。けんちんうどんの具の盛りつけ方によっては、麺に到達するまでが遠いと感じることもある。が、けんちん汁としての具材を少し取り入れた後に、うどんを食べるとしっかりとした主食の感覚が伝わってきてより美味しいと思えるのだ。

 うどんそのもの、麺の味を確認する。


「……これはッ」


 経験したことのないような味だった。

 薬草を練りこんだ麺を使ったというのは聞いていた。

 しかし、それを食する機会など当然なかったので新鮮な味わいだ。

 まず、一口加えてみると、丁寧なうどんのコシを感じた。

 もちもちした感触の中に、どこか薬味のような味わいを覚える。

 ……そうだ、この感覚は七味唐辛子に似ている。

 少しピリッとした食感。

 けんちん汁に合う七味唐辛子は当然のように、けんちんうどんにも味として合致している。少し辛みを帯びた食感を麺に与えて、少々の刺激を堪能させる。

 薬草は回復手段として効果的であるのはゲームなどで有名な話ではあるが、まさかこのような使い方があるとは想定できなかった。

 あぁ、このうどんの味は良いものだ!

 食が進む。

 気力が湧いてくる。

 迷う気持ちをうどんが晴らしてくれる。


「……ごちそうさまでしたッ!」


 トン、と美味しく味わったうどんに箸を置いて、両手を合わせて挨拶する。

 極めて美味。素晴らしいうどんだった。


「そんなに美味しそうに食べてもらえたら、料理人の冥利に尽きるよね」


「美味しいものは素直に美味しいと言いたい。言葉だけではなく、じっくり、そして堪能して食べることで見えるものもあるからな」


 何が美味しいか。

 どういうところに魅力を感じたか。

 自己分析を行うことによって、磨かれるものがある。

 それは、戦いも料理も、味わうことですら同じことだ。


「なるほどね、流石じゃない?」


「なにがだ?」


「前進思考というか、分析をしていく姿みたいなのかな。そういうの」


「いや、普段から行ってるだけだが」


「だよね、達人とかはそういうことを言う」


「……どういうことだ」


 もったいぶった言い方が繰り返され、疑問が重なる。


「だって、優曇家のご令嬢さんなんでしょ? 貴女って」


 そして、開いた口からは信じられない言葉を耳にした。

 私の家柄を知っている。


「……どこで知った」


 名前を他人に明かすことは好ましくないとされ、禁じられていた。

 そう、私は確かに優曇家の人間だ。

 ありとあらゆる武術を習得し、主に諸手による格闘を得意とする技術を確かに伝授してもらっている。

 だが、何故?

 どうして無縁の世界にいるはずのドットがそれを知っている?


「……貴女が来る前に教えてもらったの」


「まさか」


「そう、貴女をこの世界に送ってくれた女神からね」


 あのいい加減な女神が教えてくれたと。

 適当に、私をこの世界に連行した存在が。


「納得できないな」


「無理もないと思うね。私だってそういうことをされたらボイコットしそうだし」


「そもそもお前はなんで女神のことを知っている?」


「え? それを答えるのは簡単だよ?」


 あっけらかんとした表情で、彼女が言葉にする。


「魔王ドット・タンプリング。私が魔王なんだもん」


 あっさりと、笑顔を振りまきながらそう言い切った。

 私にうどんを提供してくれていた彼女が魔王。


「女神の言い分だと、お前を倒さないといけないことになるが」


 拳を握りしめ、臨戦態勢を取る。


「待って待ってストップストップ。あれ、めんどくさがりやな女神が言ったほら話。私よりも倒してほしい存在みたいなのがいるからっ」


 手を振って自分は敵じゃないというのを表現した。

 彼女の様子からは嘘は感じ取れなかった。


「倒してほしい存在?」


 臨戦態勢をほどいて、話を聞く態度を取る。


「異世界ドン・ウドゥンはいま、異形の魔物によって危機的状況にあるの」


「異形の魔物?」


「おおよそ人間とは考えられないようないびつな存在。人を襲って世界を混沌に陥れる権化だね」


「……きゅうりうどんみたいな奴か」


「へっ? きゅうりうどん?」


「一味はあからさまに魔物じみたきゅうりうどんだったが」


 『うどうどうど』という特徴的な笑い方をした手が麺になっていて身体がきゅうりになっているあからさまな魔物だ。

 何故か、知らない様子をしていた。


「ちょっと待って? なんかおかしいから」


「いや、教えてくれないと困る」


「……そうだった」


 自分の中で話を展開されてもわからなくなるだけだ。

 情報の共有がしたくなる。


「んっと、まずね、実のところ『七味』の皆は私の配下みたいなところにあって、修行を兼ねてユーちゃんと戦わせてたの」


「ほう」


「で、私も配下の動きは把握してたんだけどね。一味の焼うどんくんが、きゅうりうどんって急に名乗って驚いちゃったけど、まぁいいかーって思ってたの」


「なるほど」


「で、きゅうりうどんを持って帰ってきたから……こう、元焼うどんくんを倒したのかなって思って」


「ひとつ質問していいか」


「いいけど」


「焼うどんは人間か?」


「もちろん」


「手が麺で出来ているとか」


「ありえないけど」


「……すり替わっていたんだな」


 そう話が纏まってきた瞬間だった。


「ドット……! 今、戻ったぞ……!」


 ボロボロになった赤い髪の少年が部屋に入り込んできた。


「焼きうどんくん!」


 慌てて駆け寄り、傷薬を塗る。

 意識が朦朧としているわけではないが、酷い傷だ。


「よう、お前がユーって勇者だろ?」


 身体を支えられて一味焼うどんが話しかけてくる。


「確かに私だが」


「俺たちを助けてくれねぇか……? 森で、皆が戦ってんだ」


「皆とはなんだ」


「五味……きつねうどんと、六味……カレーうどんだ。七味の兄貴を打ち破ったっていうお前ならば戦局を大きく変えられるはずだ」


「見ず知らずの勇者に頼んでいいのか」


「……俺たち七味は兄弟だ。みんなで帰って、食卓を囲んだ一日を過ごすのが幸福なんだよ……!」


 日常のひと時を夢見て力を託すというのか。

 私に力を与えてまで、変えたい世界があるというのか。

 託された私は、前に進みたいと強く願った。


「……貸し借りはなしだ」


「いいのか」


「美味しいうどんさえ用意してくれれば、構わない」


「ありがてぇ……」


「無理せず休め。倒してしまった仲間の分まで私が動いてみせよう」


 外に向かって歩いていく。

 怪我についてはもう問題ない。

 けんちんうどんの力で回復した。

 新たな戦いだ。

 迷うことなく突き進む。


「ユーちゃんっ!」


 ドットから声を掛けられて振り向く。


「今までの戦ったみんなにも声をかけてみる! あとで助けられるように、回復も急ぐからっ!」


 どこから取り出したのか、魔法の杖みたいなものを持ってドットが回復の呪文を唱えていった。

 一度拳を交えたら、もう敵ではないということか。

 それとも、共通の敵の為になら死力を尽くせるということか。

 どちらかはわからない。

 だが。


「ありがとう」


 そう、言葉にはできた。

 今まで貰ったうどんの分。

 そして、これから未来に味わううどんの為にも私は負けるわけにはいかないのだ。

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