8話
絶対なる王者の様に、咆哮を上げる氷晶竜リオッタルス。その咆哮と振る舞いは、明らかに己がこの戦いは己の勝利だと言わんばかり。だが、そうなっても仕方がない。相手は格下、レベルが倍以上の差。油断、傲慢になってもおかしくはないのだ。そういうことは人間だけではなく、動物でも───同じ、か。
「来るぞ!!!」
「「「「!」」」」
「(ブレス───しかも、氷の!?)」
氷のブレス。確かにステータスにあったが、こんなの一瞬で凍り付かされるぞ!?回避しようにも、打つ手が───。
「俺が盾になる!」
≪真神の眷属≫のリーダーが前に出たかと思うと、大きな雪の結晶の壁の如き盾が現れたのだ。その雪の盾はリオッタルスのブレスを防ぐ。しかし、相手のブレスの方が威力が高いのか雪の盾に罅が入ってしまう。
「兄弟!!!今だぁあ!!!」
「「「「おう!!!」」」」
「(壁を張ってくれている間に攻撃するのか)」
攻撃方法が決まっているのか。しかも攻撃出来るのは仲間が盾が張ってくれている間のみ。その間に何れだけのダメージを与えられるかが、肝となっていく。特に俺は壁張りなんざ、全く出来ない。だからこそ、ダメージを与えるのが仕事だな!!!
「(いくぞっ!)」
自分より大きな相手ならば、足元を狙うのが鉄則である。ゲームではどんな感じになるかはわからんが、とりあえず突進と引っ掻く。他の仲間達も同じだ。流石に狼五匹に噛み付き・突進等をされれば幾ら天下のドラゴンとは言え何度もやっていれば怯んでよろけてしまう。その瞬間、ブレスも止まってしまい同時にリーダーの雪の盾も壊れてしまうな。
「怯んだ!」
「「「「いくぜぇぇぇえ!!!」」」」
「(全員、何か体育会系だな……)」
しかも全員女性の声っていう……性別は♂だけど。多分、少年風の中性的な声。声優さんって凄いよなぁ……前もこんな話した気がするな、うん。ハスキーボイス、俺は好きだぜ。
「(っ!?尻尾───)」
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【ヘヴィ:♂】
【種族:ワーグ[ランク:D]】
Lv.32
HP:101/136
MP:74/74
攻撃:90
防御:89
俊敏:104
【スキル】
・遠吠えLv.6(広範囲に自身の攻撃の10分の1のダメージを与える)使用回数:残り4回(1日4回)
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HPが35も削られたのが、リオッタルスの尻尾による攻撃だと思いました?残念、かすっただけです。より最悪に表現するなら、触れただけでです。ぶつかったらやべぇなおい!下手すれば即死……じゃね?
しかし、何度も何度もリーダーが盾を張って攻撃し、怯んだら相手の攻撃を回避しつつ攻撃っていうのを続けているが……倒せる、か?だが、リオッタルスの身体は確実に傷付けている。それでも、決定的な致命傷は与えられていない可能性も、あるか?
「(何度もやっていれば、その内HPを尽きて倒れる───筈!)」
塵も積もれば山となる、とはことことだぜ!
おっっっとぉ!?!?
リオッタルスさん、膝を着いたぜ!だが、このまま飛ばれてしまえば不味い。なら、ば!俺は翼を狙っていく!!!せめて片方だけでもボロボロにしてしまえば、飛べなくなる筈……だが、これはゲームなのでどう判定されるのか。個人的にはこのゲーム、細かな部分も力入れているから大丈夫だと、信じたい!!!
「よくやったぞ、新人!!!右翼の膜を破いたか!!!」
うしっ!
何とか破けた。しかもその台詞って飛べないって考えていいんですよね?いいんですか、信じます。しかし、ギリギリを保ちながら回避して攻撃するのはイチイチヒヤヒヤしてしまう。あ、やべっ!と思う瞬間何度でもあるからな。HPが無くなりそうになればリーダーさんに「近くに生えている≪氷薬草≫を食え!」だってさ!大体10から20位しか回復しないが、回避しながらなら何とかなるのさ!
「よしっ!このまま───」
だが、やはり相手が格上を簡単には倒す事は容易い事ではない。むしろ格上だからこそ、倒せるとか確信は持ってはならないのだ。
その油断と慢心、そして希望を見出だした瞬間が───最も危険なのだ。
「(───なに!?)」
氷晶竜リオッタルスの身体が───再生されていく。≪真神の眷属≫達と協力して与えたダメージが全て修復されていくのだ。恐らくこのスキルは……自己再生。だが、効果はわからない。単に欠けた身体を修復するだけなのか、それとも身体の修復と共にHPも回復してしまうのか───。
完全に元通りとなった氷晶竜リオッタルスは俺達を翼を使い、吹き飛ばしたのだ。特に俺は一番軽いか、弱いのか一番よく吹き飛ばされる。しかもダメージ量もえげつない。
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【ヘヴィ:♂】
【種族:ワーグ[ランク:D]】
Lv.32
HP:12/136
MP:74/74
攻撃:90
防御:89
俊敏:104
【スキル】
・遠吠えLv.6(広範囲に自身の攻撃の10分の1のダメージを与える)使用回数:残り4回(1日4回)
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吹き飛ばされて、死にかけとか……キッツイ。
やべぇ……しかも、身体が動かん。
今までこれ程体力が減らされた事が無いので気付かなかったが、体力の残量によって動きも鈍くなるのか……。そこまで忠実に再現するのは凄いが、今の現状では恨むぞ。
ヤバい、他の仲間達も大ダメージを受けて身動きが取れないみたいだ。……流石は、難易度:Bか。しかもリオッタルスさん……上空に飛んで、そのまま真下倒れ伏している俺達に向けて氷のブレスをぶちこもうとしてやがる!!!
くそ……ここで、ゲームオーバーか……。
「兄弟達!!!」
「「「「おう!!!」」」」
「(!?)」
何を……やっている。
何やってんだよ、お前ら。
≪真神の眷属≫達が、俺の前に立って盾を張っていたのだ。明らかに俺を守ろうとしている。しかし、全員体力が4分の1まで減っているのだ。幾らNPCとはいえ……何だよコイツら。
「兄弟よ!!!死んでも新人を守るぞ!!!」
「「「「おうさ!!!」」」」
いやまてまてまて!!!幾ら何でも弱っている状況に氷のブレスなど耐えられる筈がない。これ、巻き込まれG.ENDか。
氷晶竜リオッタルスは問答無用に氷のブレスを俺達に向けて撃ち放つ。まるで、光線の様に放たれるそのブレスは空気中の水分が凍っていく。しかもその光景は空間そのものを凍らしている様な錯覚を見えるだろう。例えるなら目の前に広がる景色がガラス越しに見ている様なもの。そんなブレスを受ければ確実に死────。
「耐えろぉぉお!!!」
「「「「ぬぉぉぉお!!!」」」」
氷のブレスは≪真神の眷属≫達による盾で防がれていく。しかし、亀裂が直ぐに走っていくのだ。このブレスはあの氷晶竜リオッタルスにとって最大の一撃なのだろう。正直、≪真神の眷属≫達の盾が心許ないのが事実。何かしたいが、身体が動かせない。無力だ。
≪真神の眷属≫達の叫びは、徐々に苦痛の声に変わってしまう。亀裂から出てきた光線が≪真神の眷属≫達の身体を貫いていく。俺を放っとけばいいものを、俺を庇うようにして犠牲となっていくのだ。ブレスが触れた部分から、凍っていく様に水晶が生まれていく。そしてその内の一匹、俺を身体全身で庇った為に水晶の氷になってしまった。その中で絶命したその様子は、氷河期に発見された生々しいもの……。
そして、一人……また一人と絶命していく。ステータスを見てもHPが0となってた。あぁ、何だろうか。
ゲームなのに、こいつらはNPCの筈なのに。凍ったままオブジェクトとして俺の盾となって氷晶竜リオッタルスの氷ブレスを防いでいる。……あぁ、胸糞悪い。俺がもっと強ければ死ぬことは無かったんだろう。それに、この氷ブレスを防いでも次はどうする?
身体が動けない状態なら、何も出来ない。
詰みだ。完全に摘んだんだ。
やるべきことはやった。
本当は、スキル[遠吠え]を使えばよかったがそんな暇もない。そもそも広範囲にダメージを与えるのは敵だけじゃなく、味方もダメージを受けてしまう可能性もあったのだ。試しに使わなかった俺の判断が甘かったせい。
……多分、神殿からやり直すんだろうな。
やるだけのことは、やった。それはわかっているが無力な己に後悔しつつも氷晶竜リオッタルスとの戦闘は敗北は確実だと諦めていた。まあいい。所詮はゲームなんだと、己に言い聞かせて───。
「───!」
……声?
「────死にさらせや、ボケぇ!!!」
突如、氷ブレスが止まってしまう。何事かと声が聞こえる上空を見ると、そこにはこのフィールドの支配者《真神》が氷晶竜リオッタルスの喉笛を食らい付いていた瞬間であった。氷晶竜リオッタルスは悲鳴を上げて、≪真神≫と共に墜落していく。
大きな地響きが起こり、大きなクレーターが出来てしまう。そしてそのクレーターの中心には≪真神≫が地面に押さえ付けて氷晶竜リオッタルスの首を食いちぎったのだ。
……そうか、応援か。
何故かは不明だが、勝負は一瞬にして決した。
あんなバケモノを一撃で倒すとは、≪真神≫恐るべし。
しかし、罪悪感がある……。
「大丈夫なんか、ヘヴィ」
ほんと、すまん。お前の眷属達が……。
≪真神≫は俺の近くに凍って絶命した≪真神の眷属≫達を目視すると、少し悲しそうにしつつ目を閉じていた。そりゃぁ、自分の仲間が死んだんだ。悲しくなるに決まっている。
「……あんたが無事でよかったわ。この子達も……ようやった」
≪真神≫……。
「何れ生きていれば死ぬもんや。それが速いか遅いかの話……けどな。かっこよかったろ、うちの仲間達は」
ああ、こんな弱い俺を守ってくれたんだ。
「この子達の事を、忘れんとってな……」
勿論だ。
例え、NPCとは言え……俺を助けてくれた。これがストーリーで決まっていたとしても、助けてくれた事には変わり無い。
応援を呼んでいた他の≪真神の眷属≫達も遅れてぞろぞろとやってくる。そして死んだ氷晶竜リオッタルスの亡骸と、凍り絶命した仲間達を回収していた。
……これで依頼は達成、か。
「神殿に、戻ろっか」
≪真神≫と≪真神の眷属≫達と共に俺は《氷結の神殿》へ帰還する。俺は戻る道中、絶景な景色には目も暮れずただ俺を守り絶命したリーダー達の姿を見ながら己の無力さを痛感してしまうのであった。