12話
屋敷に到着した俺は、執事服で椎名陸翔をもてなしていた。てか、何ゆえに。まあ、お嬢は「後輩にカッコいい所を見せるのも先輩としての務めです」と要らん一言。やめれぇ……。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
恐縮するわな、当然。
だって、貴族らしいお茶をしているからな。アフタヌーンティーには丁度良い場所。隅々まで行き届いた広いガーデニングが見えるバルコニーは、まるでリゾートに来たような感じなのだろう。白い円卓の机にはスコーンやクッキー、プチケーキ等が三段スタンドに飾られている。プチケーキに関しては様々な種類があるので見映えや味は飽きないだろう。
何時もはアフタヌーンティーは休日にしかしないが、今日は後輩である椎名が来たのでその歓迎として行っている。まあ希に生徒会役員の方々もいらっしゃる場合もあるからな。別に緊張も糞もない。むしろ、練習になるからむしろいいのだ。
「リアル執事……」
「初めてでしたか?」
「はい。……ねーちゃ、いや姉さんが喜びそうだな、っと」
「確か……椎名蓮奈さんでしたね。風紀委員の」
……風紀委員、しかも委員長様ですね。
厳しいんですよ、あの人。いや、俺は注意されたことはないよ。だって校則守るし。もし違反とかしたらお嬢に迷惑かけちゃうじゃん。
「実は……ドのついたアニメやゲームヲタクなんです」
「それが何か問題で?」
「いえ……おれも好きなんでいいんですけど、その……何事にも限度というのが……」
「というと?」
「……その、俗に言う腐女子というものでして」
腐女子……なるほど、男と男のアレね。
そう言えば弟も女子達にそういう標的にされたって嘆いていたな。その時は荒れた荒れた。我が天使の弟が、堕天使に堕ちたかの様に初めて毒を吐いていたぞ。めちゃ怖かったな……。
「別に腐女子が悪いとかそういうんじゃないんです。でも、弟であるおれを他の男と、そのカップリング?とかして絵や妄想を吐くのが嫌で……」
毒姉か。
そりゃ嫌だろうよ。
「そうなんですか。なら私が貴方のお姉さんに────」
「何でおれが攻めなんですか!?この容姿からして普通受けじゃないんですか!?」
「───」
ん……あ───うん。
そっちね?
何だろう、この後輩。絶対変なやつだ。
しかも変態、か?
「そう思いませんか、先輩!」
「興味ない」
「そんなぁ……」
俺に同意を求めるな。そしてこっち向くな。
何だよ、確かに女の子みたいな奴だがまさかこいつ自身が"腐"のオーラを持っているとはな!!!止めてくれよ……コイツ自身の恋愛対象が男とか。てか、お嬢絶句して停止している……意外とレアだな。
────いや、お嬢に悪影響するかもしれん。
消すか、この野郎を。
「~~~っ!?!?」
……あ、我に返ったっぽい。多分今まで溜まっていたものが吐き出されてしまった感じか?ストレス溜まってたっぽい、仕方がない許そう。
「はっ!?」
お嬢もふっかーつ。
知識としてはあったらしいが、それでも刺激が強かったらしい。うむ、後でお着替え担当の使用人にフォローしてもらうように頼んでおこう。
「お嬢様、こちらを」
「あ、ありがとう」
紅茶でも飲んで落ち着いてもらいましょうか。椎名も椎名で己自身で反省しているみたいなので許そうね。さて……どうしたことか。
「仲が悪いのか?」
「いや、一緒にゲームすることはありますけど」
仲良いのね。
……すまん、お嬢。これ以上話を続けるのムズいですわ。てか、むしろ助けて?
「太田」
「はっ」
「ゲームで思い出しましたが、私『Moster Onlie』を始めたのですが」
「!」
お……おおおおぉ?
まさか、お嬢が……げぇむ!?
しかも、『Moster Onlie』……意外だ。
「あ、おれもやってます!」
なんと!
まさか、ここに『Moster Onlie』のプレイヤーがいたとは……。なにそれ、チョーうれぴぃっ!
「では、フレンド登録しましょう」
「はいっ!」
「御意」
と、いうことで俺はお嬢と椎名のフレンド登録をするのであった。だがフレンド登録するには実際にゲームの世界に行ってその中で会わなければならないのだ。つまり、今日21:00にフィールド≪渓谷≫の"目覚めの岩戸"と呼ばれる回復エリアに集合する約束をするのであった。
因みに、マイクが無いと言ったらお嬢がくれました。
ありがとうございます。
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何処かの都会の高層オフィスビルの最上階。
そこはここ数十年人気タイトルを世に出しているゲーム会社である。そんなゲーム会社の高層ビルの地下。そこは最上階の様な輝かしいものではなく、むしろ外からの光もない薄暗く陰湿な研究施設の様な場所であった。
研究室の中央。そこは巨大な防弾硝子等よりも強固な透明な壁が何かを中心に取り囲んでいた。それは巨大なカプセルの様な容れ物。容器の中身には赤い液体が隙間なく埋まっていた。
「反応は」
「あれからはありません」
「そうか」
その容器の中身にある"何か"にスーツを着た男は周りにいる研究者達の代表である女性に確認をしていた。スーツを着た男は眼鏡をしており、容器の中にある"何か"を眺めている。その周りにいる研究者達はPCや電子機器を操作しながら随時記録やレポート等を取っている。
「まさか、この『虚空記録片』が反応するとはな」
「はい。この『虚空記録片』───"Type:Eclipse"は中々反応がありませんでしたから」
「他の『虚空記録片』も同様だがな。我々が持ち合わせているのは"Type:Eclipse"ともうひとつ……あぁ、長かった」
「土御門さん。貴方の仮説が正しかったと───」
「いや、まだわからない」
眼鏡の男、土御門宇正は容器の中にある『虚空記録片』の一つ、"Type:Eclipse"と称される隕石の欠片の可能性を願っていた。だが、まだ不明な点がある為に確実に己の仮説が正しいとは言い切れない。
その"Type:Eclipse"には液体の中に設置されているが、それに幾つものケーブル線等が敷き詰められる様に繋げられていた。まるで、その隕石の欠片が"何かの核"の様にも見えてしまうかもしれない。
「私がの仮説はまだ始まったばかりだ。これは単なる序章でしかない」
そう言いながら容器に触れていた土御門はその手を離して近くにある近くのPCの画面に近付いて確認する。その画面に映し出されていたのは、つい先日発売された『Moster Onlie』のプレイヤーの名前一覧だ。
その一覧の中で、赤い文字が一つ。
土御門はそのプレイヤー『へヴィ』の名前をクリックし、その詳細をスクロールしながら確認していく。驚いたことにこの『へヴィ』というプレイヤーは既に三回進化しており、ゲーム内上位に食い込むのか確実の実績を積んでいたのだ。
「へヴィ、か。君には期待しているよ」
そして何時か君と出会うだろう、と確信を抱きながら怪しく笑うのであった。




