11話
少しゲームをし過ぎた事で非常に眠気があるものの、何時も通りお嬢と一緒に学校へ向かった。が、やはり眠いものは眠い。流石にお嬢にも寝不足だと気付かれてしまったので、次回から自重せねば……。
「……」
で、今朝から何やら視線を感じて気になる俺です。しかも何処から見られているかも不明なのだ。どうやらお嬢ではなく、俺に対してらしいが……もしや、お嬢の前に護衛である俺を消そうとしているのか!?
もし、仕掛けてきたら始末するしかない。
……で、授業が終わり生徒会役員の一人(一応)として新入生に校内で活動している部活動の見学を一緒に回っている。無論説明をしているのが我等がお嬢、夜桜麗華です。新入生達も魅了されてますなぁ、流石はお嬢。
で、俺は後ろからただ立って見ているだけ。万が一、お嬢に不埒な事をすれば即締め上げる。だが、お嬢自身も気になる殿方がいるなら大人しく暖かい目で見守ろう。
「太田、顔怖いわ」
「……そうか」
お嬢、許してくれ。この顔は生まれつきなんだ。それに周りの新入生、何お嬢の後ろで脅えてやがる。そんなに怖いか、そんなに恐ろしいか俺の顔が……っ!
くそぅ!
この悲しみを、我が天使の弟に癒されたい。けれども、残念ながら班は分かれてしまったのだ……ちきしょうっ!
さて、文系と室内の部活の見学は終わった。次は外のグランド場だな。何も起こればいいんだけど……。
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夜桜麗華先輩。
京都天之川高校生徒会書記であり、校内だけではなく他校にも人気のある女性だ。ファンクラブもあると聞いていたが、意外にもファンクラブのメンバー達は目立った動きが出来ないらしい。その理由として、夜桜麗華先輩が嫌だと公言したこと。そして、これが一番ファンクラブの抑止力となっているのが、高校生とは見えない程の背の高さと顔は整っているみたいだけど、人を殺せるのではないかと感じさせる鋭い眼光を持つ太田太先輩の存在。
ねーちゃんからの情報では、太田先輩が夜桜先輩をガードしている為か他の男を寄り付かせないのだ。最初は恋人同士なのか、と夜桜先輩に聞いたらしいがそうではないらしい。噂ではご令嬢の夜桜先輩の使用人の一人ではないか……だとか。
おれ、椎名陸翔は横にいる太田先輩を横目にしながら確かに強そうな人だと判断する。同じ男として憧れる肉体ではあるが、おれはというと……ねーちゃんによくからかわれる程に背は低くねーちゃんとそう変わらない身体と容姿。小学校の頃から女男と呼ばれてたっけ……。
「あぶないっ!」
「避けろ!!!」
……え?
おれは振り返ると、目の前にサッカーボールが迫ってきていた。多分、サッカー部のボールが運悪くおれの方にやってきたんだ。そしてこのままだと、顔面を強打してしまう。
元々運動神経も良くは無かったんだ。危ない、と思っても身体は動かせず目を瞑る事しか出来ない。自分でもよくわかる。己の身も守れない、女のような男だと。見た目だけではなく、自分自身の無力さを。
「大丈夫だ」
だが、痛みはなく低くも優しい声がおれを安心させてくれた。その声に恐る恐る瞼を開けてみると、目の前に大きな手がサッカーボールを掴んでいたのだ。おれはその手の人、太田先輩の姿を無意識に焼き付けていた。
「次からは気をつけろ」
「「「すいませんでしたっ!!!」」」
サッカー部の人に謝罪されつつ、太田先輩はボールを投げ返していた。しかし、その表情に変わり無い。よく見てみるとサッカー部員の人達もかなり怯えている様にも見えてしまう。
「太田!」
「問題ない」
「……そう」
夜桜先輩が太田先輩の元に駆け寄るがそれを制止させてしまう。当然の様な事をしたつもりなんだ。けれども、それを当たり前の様に躊躇なく実行してしまう先輩に、おれは────。
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「弟子にさせてください!!!」
……はァ?
確か……新入生代表だった椎名陸翔だっけ。部活見学を終えてお嬢の元に来てみればこの子がやってきて……何事?
弟子?
弟子ですって。
なにゆえに?
「なんだ」
「1-1の椎名陸翔です!」
あ、うん知ってる。
そんな事を聞きたくは無いんだよ。
「おれ、太田先輩みたいに強い男になりたいんです!」
「強い、男?」
……え、誰それ。
強い男って、そんなのさ。
「何故俺だ?」
「だから、太田先輩みたいに───」
「俺以外にも強い奴はいる」
「───え?」
「他の武道経験者に頼め」
「……」
さぁ、生徒会室に戻りましょうぜ。とお嬢に目で合図するのだが、お嬢は何故か椎名陸翔の元へ。おん?お嬢の好みの男だったか。まあ、いいんじゃないだろうか。高校生から身長は伸びるだろうし希望はあるさ。
「椎名陸翔君」
「……はい」
「貴方、生徒会役員にならないかしら?」
「え?」
……お、お嬢。
何言ってんですか。
「毎年、新入生代表は生徒会役員へ勧誘するんです。昨日、副会長から勧誘があったと思いますが……」
「……あ、そういえば(断っちゃった……)」
「どうします?ここにいる太田も生徒会の雑用として働いています。貴方が太田の事を知りたいなら、間近な方がいいと思いますが……」
「生徒会、入ります!」
嘘、だろ……?
……いや、お嬢の事だ。会長から頼まれていたのだろうな。椎名陸翔を生徒会に勧誘してくれないか、と。しかも俺を出汁にして……流石はお嬢。お嬢の為になるならば、仕方がないだろう。
それに、何時も俺を見ていればこの一年の謎な憧れ?とか失望に変わるだろう。或いは飽きるかな?
「太田、いいですね?」
「……承知した」
「ありがとうございます!」
そんなこんなで、生徒会役員に椎名陸翔が新たに加入するのであった。そもそもお嬢には逆らえないし。あぁ、ちょっと面倒な事になったのかも……。
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生徒会役員として椎名陸翔が俺と同じ雑用として加入した。生徒会役員になる一年はイレギュラーを除き雑用から始まる。雑用と言っても会長や副会長、会計に書記等の手足となって動き回るのだ。雑用でも、会長や副会長の右腕という肩書きで活動している。……はい、そこ。厨二病だとか言わない。
「仕事については太田から教わりなさい」
「よろしくお願いします、先輩」
「……ああ」
「恐いわよ、太田」
だって、教育係が俺とか何の嫌がらせですか。コミュニケーション能力については、壊滅的なのわかってますかお嬢!?しかも推薦したのはお嬢ですよね!?
「基本太田は怖い顔をしてるけど、それが普通なの」
「そうなんですね!」
おお、流石はお嬢。
俺のことわかってらっしゃる。去年くらいに俺の顔を見て危険だと言って襲ってきた執事がいたな……。目の敵の様に。あれはあれでお嬢の事を思っての事だったんだろう。何か勝負とか挑まれて、結局は勝ったんだが。で、その執事は「次は勝つ!」とか何とか抜かして執事養成学校に行ったんだとか。
……今思えば、あの時めちゃカオスだった。
「(太田)」
「(はっ)」
とりあえず、お嬢から差し出された鞄をお持ちする。別に小声でなくてもいいが、お嬢の口の動きで察しするのは慣れてきた。
「あの、先輩」
「……なんだ」
「先輩って、夜桜先輩とどんな関係なんですか?」
「主従関係」
「太田は私の使用人ですよ」
「……へ?」
事実だからな。
別に主従関係をバラすなとかそういう命は受けていない。ただ俺はお嬢の学生生活の邪魔はしないと動いているだけ。俺自身も自覚しているが、怖い顔の俺が近くにいたら他の人が近寄って来ないだろう。
……自分で言ってて何か悲しくなってきた。
「考えてみて下さい。これでも私は夜桜家のご令嬢ですから……護衛の一人もいないのはおかしいでしょう?」
「なるほど」
普通に考えてみれば、そうなんだよ。
一応四六時中、外から。そして市民に紛れて監視しているからね。無論、俺以外にも生徒として一人紛れているらしいが多分……。
「太田、今日はどうしたのです。何か気にしている様子でしたが」
「いえ」
言える訳がないよな、誰かに見られてるって。お嬢に余計な心配をかけさせる訳にはいかない。俺を見ている相手は、お嬢を狙っている可能性は十分ある。しかし……今日見られていて感じたのは素人の動き。暗殺者、にしては気配が疎らすぎるのだ。心配する要素は無い……が、明日釘を打っておくか。




