10話
≪大森林≫。
そこは巨大なモンスターであっても、姿を隠すには十分の領域だ。巨大なモンスターの楽園、と呼んでも良いだろう。しかも≪大森林≫の更に南部には巨大な大国が存在しており、そこでは数々の人々が狩猟や探索、採取を行っているのだ。
「おーい!そっちいったぞ!!!」
「りょーかい!」
「気を付けろよー」
わいわいと大人数の『Hunter Onlie』のプレイヤー達が、巨大なモンスターを取り囲んで狩猟をしていた。
巨大モンスターは、ランク:Eのジャイアントワームと呼ばれるミミズのモンスター。しかし、そのミミズの口はエイリアンの様に裂けており、更には鮫の様な鋭利な歯を剥き出している。
前戦で戦う者は剣や槍に鎌、ハンマー等を使って攻撃していく。中には武器なしで、己の身体のみで怒濤の連打を繰り出しているプレイヤーもいた。その中でも珍しいのは巨大な盾で防ぎつつもそのまま鈍器の様に殴り付けるプレイヤーだろうか。後援は矢や魔法に銃を使って攻撃する者もいる。ただ攻撃するだけではなく、前戦で戦うプレイヤーの体力を回復したり一時的にステータスを上げる魔法で支援をしていた。
前戦と後援を合わせて、総勢20名。既にジャイアントワームによって攻撃を受けてはいたが、リタイアした者は一人もいない。そして、ジャイアントワームも体力が限りなく少ないのか身体を鈍らせている。しかし最後の足掻きとして身体全体を使って暴れまわっていたのだ。
「あと少しです!」
「堪えろよーーー!!!」
「回復の支援が必要な方はこちらに集まってください!!!」
一手、一手確実にジャイアントワームを弱らせていく人間のプレイヤー達。プレイヤー達も既に勝負は決したと確信しているんだろう。
しかし、プレイヤー達は気付かない。気配を察知するスキルを持っていたとしてもスキルレベル自体が低い事もあり、新たな巨大モンスターがプレイヤー達を狙っていたのだ。
Dランクモンスター、『ディスガイリャス』。
カメレヨンにも見えるが、まるで翼がないドラゴンにも見えるだろう。カメレヨンには無いであろう牙と爪が存在している。しかもディスガイリャスは、ジャイアントワームを飲み込める程の大きさだ。
「よっしゃぁぁあ!!!」
「レベル2上がったぜ」
「はぁぁ……疲れたぁ」
ジャイアントワームは倒された。プレイヤー達も誰一人欠ける事なくやり遂げたのだ。全プレイヤー達は平均レベル20。そしてステータスの平均は50から80程しかない。が、これが『Hunter Onlie』のプレイヤーではそれが普通だ。そこから武器や防具で合わせるとステータスが100越えになるのである。そしてピンチになればアイテムを使えばステータスが高いモンスターでも戦えるのだ。
そして、音もなくプレイヤー達のスキルまでも掻い潜って近付いていく。ディスガイリャスの目的は只一つ。己にとっての獲物を喰らう事───。
蛇の様に顎を外して大きな口で───ジャイアントワームの身体を喰らう。その瞬間、先程まで見えなかったディスガイリャスの姿が露となってしまうのだ。その場にいたプレイヤー達は突然現れたディスガイリャスに言葉に出せずに立ち尽くしていた。
ぐしゃり、グァリッとジャイアントワームを呑込み終えたディスガイリャスに、漸くプレイヤー達は我に帰る。後援のプレイヤー達が一斉に魔法や矢、銃を撃ち放っていく。ディスガイリャスは食べ終えてゆっくりしていたのだが、まさか横から人間達による攻撃を受けたことに「グギャァ!?」と叫んでしまう。が、ジャイアントワームよりも上、Dランクモンスターにはその攻撃はそれほどダメージを受けていなかった。
「お、おい」
「全然喰らってる様子ねぇぞ」
「……Dランク。ジャイアントワームの様に、いけるか?」
プレイヤー達はディスガイリャスを倒せるかは不安だった。しかし、突然現れたモンスターに攻撃してしまうのは仕方がない。条件反射と言うべきだろう。だが、やはり今の彼等ではディスガイリャスを相手するのは力不足であった。
「くそっ!?」
「うわっ!?」
「毒のブレスかよっ」
ディスガイリャスの得意スキルは[毒ブレス]。ダメージは低いが、相手に[状態異常:毒]になってしまう。毒を解除するには魔法かスキル、或いはアイテムを使用して解毒するしかない。だが、戦っている最中にそう簡単に出来る訳がないのだ。幾ら人数が多くても敵のレベルが桁違いならば無意味。ディスガイリャスは巨大な図体には想像つかない程の素早い動きで、木の上にいた後援のプレイヤー達を体当たりや尻尾で吹き飛ばしていく。だが、攻撃力は低いらしく体力はまだ余裕はある。しかし、防御と俊敏が高いのか一撃を入れるのも一苦労。逃げようとしても、毒液を吐いて辺りを毒地にしてしまう。
逃げられぬ状態にされてしまったプレイヤーは半ば諦めてしまう。無理ゲーだの、詰んだ等と愚痴を溢すプレイヤーもちらほら出ていた。更にはカメレヨンにしては奇怪で、不気味な動きをするディスガイリャスに小さな悲鳴を上げたり、キモいを連呼する女プレイヤー達もいる。
ここで、全滅────そう思っていただろう。
だが、突然上から現れた"何か"が俊敏に動いていたディスガイリャスの背中に向けて墜落したのだ。ディスガイリャスは「ぐぇ!?」と奇声を上げて地面に伏してしまう。ピクピクっと痙攣しつつも立ち上がったディスガイリャスは唸り声を上げながら"何か"に向けて警戒していた。
「な、なんだ……?」
「白い、狼……」
「デケェ……でも」
プレイヤー達の前に乱入してきたのは、白き狼───白蓮狼であった。プレイヤー達も突然現れたモンスターである白蓮狼がNPCではなく、プレイヤーだという事は画面のアイコンから確認したのだ。しかし、数十倍も大きいディスガイリャスに白蓮狼であるヘヴィが勝てる想像が出来なかった。だが、プレイヤー達の目の前にいた筈のヘヴィが消えてしまう。
「「「……え?」」」
ズドンっ!と地響きがしたかと思うと、ディスガイリャスの胴体が切断されてしまったのだ。目の前の光景にプレイヤー達は呆然としてしまうが、ヘヴィはじーっと倒れたディスガイリャスを観察するように眺めていた。スタリスタリと物音を最低限に立てて歩くヘヴィにプレイヤー達は警戒する。幾ら同じプレイヤーでも人間とモンスター。一応敵対している設定なので、遭遇してしまえばどうなるかはわからない。殆どのプレイヤーは、モンスターが出てくれば敵。人が出てくれば敵。という考えだ。
「(……毒沼に毒霧。しかもプレイヤー達、毒か)」
ヘヴィは辺りにいるプレイヤー達と変質した場所の状況を確認した後、丁度良いスキルのレベル上げをしようと考えた。
初めて使用する浄化Lv.1を発動すると、足元から白い結界が張られていく。そしてじわじわと白に染まっていく結界は毒におかされたプレイヤー達を囲っていくのだ。
「なっ、なんだ!?」
「不味くないか!?」
「にっ、にげ───」
そんな事をつい知らず、ヘヴィによる攻撃だと勘違いしたプレイヤーは逃げてしまう。だが、大抵は詰んだと諦めたプレイヤーの方が多かった。理由としては、一瞬にして強敵だったディスガイリャスを瞬殺したのだ。明らかに格上過ぎる相手に降参するしかないだろう。しかも今の場所は変質して毒地となっているから尚更だ。
が、そんな彼等の勘違いも直ぐに解消してしまう。
白い結界内に入っていた毒状態のプレイヤーや毒地となっている場所が一瞬にして毒が消え去ってしまったのだ。呼吸をすれば肺の細胞が壊死してしまいそうな排泄物を更に溝につけて腐らせた様な気色悪い空気が、一瞬にして綺麗に澄んだ空気に文字通り浄化された。
「(ほぉ……これはなかなか……)」
ヘヴィはスキル浄化Lv.1を使用した感想として、これが実際に現実で使えたならばどれだけいいだろうと思っていた。これがあれば一瞬にして室内と空気を綺麗にする事が出来るし、お風呂の残り湯を綺麗にしてそのまま洗濯出来るのだ。そうすれば水道代が安くなる。生活するのに水に関しては安心できるのだ。が、残念ながら現実ではそうほいほいと簡単に出来る訳がない。けれども何れこの世の中に必要になっていくだろう。
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【ヘヴィ:♂】
【種族:白蓮狼[ランク:C]】
Lv.24
HP:109/620
MP:77/300
攻撃:310
防御:295
俊敏:347
【EXスキル】
・自己再生Lv.1(HPとMP、身体の欠損を全て全回復させる)使用回数:残り一回(1日1回)
【スキル】
・遠吠えLv.6(広範囲に自身の攻撃の10分の1のダメージを与える)使用回数:残り4回(1日4回)
・浄化Lv.1(広範囲にあらゆる全ての状態異常を完治させる)使用回数:残り29回(1日30回)
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「(ここら辺は『Hunter Onlie』の初心者向けフィールド。なら、俺が生れたて渓谷は『Moster Onlie』向けっていうことか)」
それぞれ『Moster Onlie』と『Hunter Onlie』は始まる場所はある程度決まっている。だが、『Moster Onlie』の場合はモンスターなので仲間同士で協力する事も集まる場所もない。だが、『Hunter Onlie』は国という集う場があるので集団で行動しやすいのだ。
「(そう言えば職業で"召喚士"っていうのがあるらしいが……契約を結べるのはモンスターのプレイヤーも同じって本当か?)」
実は『Hunter Onlie』の公式サイトで"召喚士"というテイマーの様な職業が人間にはある。しかも召喚する際にモンスターと契約するのだが、それは『Moster Onlie』のモンスターであるプレイヤーにも契約可能らしい。だが、そういう事が出来るがやり方までは知らないヘヴィであった。
続けてヘヴィはこれが最後と言わんばかり浄化を全て使いきったのだ。途中、もうやらなくてもいいんじゃないかと思うだろうが一応スキルレベルを上げる為である。
「(……よし)」
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【ヘヴィ:♂】
【種族:白蓮狼[ランク:C]】
Lv.24
HP:109/620
MP:77/300
攻撃:310
防御:295
俊敏:347
【EXスキル】
・自己再生Lv.1(HPとMP、身体の欠損を全て全回復させる)使用回数:残り一回(1日1回)
【スキル】
・遠吠えLv.6(広範囲に自身の攻撃の10分の1のダメージを与える)使用回数:残り4回(1日4回)
・浄化Lv.2(広範囲にあらゆる全ての状態異常を完治させる)使用回数:残り0回(1日30回)
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無事に[浄化Lv.2]となった事に満足げなヘヴィは警戒しているプレイヤー達を他所にここから立ち去ってしまう。プレイヤー達もマイクを使って何度かヘヴィに声を掛けたが、反応するだけでほぼ無視である。何せヘヴィ自身がマイクを持っていないので、声を掛けられても返答が出来ないからだ。
「(……さて、≪氷結の神殿≫に戻ってセーブしよう。流石に疲れた)」
ヘヴィは自慢のその俊敏さで元のフィールドに帰ってしまう。その様子を見ていたプレイヤー達は、一体ヘヴィというプレイヤーが何をしにきたのかも不明。更にはモンスターの中でもかなり強力だ。
この一件があってからか謎の狼モンスター、ヘヴィの噂はここからSNS等ネットで拡散されていく。そして知らず知らずの内に人々によって面白可笑しく都市伝説として広まっていくのであった。




