その51
宿舎を抜けて、役所へと向かう。裏口から建物へと入り、顔見知りの人間の元へと向かった。男は机に向き合っていて、タイプライターを叩いていた。
「ごめん、資料室入りたいんだけど」
シュティレが声をかければ、男は顔をあげる。シュティレは折り畳んだ札束を男に渡して、男はそれを受け取る。
いつの時代も、人は金に弱いもんだな。
待っててくださいね、と男は立ち上がって鍵を取る。シュティレはその間、紙に目を走らせる。
「ヴォルカニックさん、はい、鍵です」
役所の人間は、シュティレがそこにいても何も言わない。皆、一度はシュティレから金を受け取ったことがあるからだ。誰にも告げ口なんかできやしない。もし言えば、自分の破滅を招くことになるからだ。
「ありがと」
鍵を受け取って、シュティレは資料室へと向かう。普通の人間や一般の職員はそこには入れない。個人情報や機密情報、全てがそこにあるから。
鍵を開けて、その部屋に入る。ナハトの名前を探して、資料を手に取る。まずその人物を知らないと、何もできない。
「……こいつ、混血だったんだ」
座って資料を読んでいく。東の国の人間との混血、北の村出身、母親が帝国出身。だから周りと少し雰囲気が違うのか。しかも、こいつの父親って。
シュティレは父親の資料を探す。ナハトの父親は国際結婚をしている。ということは、資料は絶対にあるはずだ。
「……これか」
資料に目を通す。東の国出身の男。ああ、どこかで見たことあると思ったら。
「ミナヅキ・ムラマサ……婿養子ってことか」
ムラマサと言えば、東の国でそれなりに名を馳せている軍人の一族だ。それに、政界にもそれなりに顔を利かせていて。
「……ふーん」
シュティレは資料をしまって、資料室を出る。うまく取り込めれば、更なる地位を手に入れられそうだ。
鍵を返して、シュティレは役所を出る。都市へ行く準備をしなければ。ナハトの父親と会って話をしないと。
宿舎へと戻り、都市へ行くために休暇の申請をしようと事務室へ向かおうとした時だった。
「ヴォルカニック」
「あ、ウィンチェスターさん」
少しいいか、そう手で合図してくる。シュティレはそれに従い、紙を持ってウィンチェスターについていく。人通りの少ない廊下へつくと、声を顰めながら話を始めた。
「都市へ行くのか?」
「ええ」
「……頼みがある」
「なんです?」
「……ジェニングスも連れてやってくれないか?」
シュティレは素っ頓狂な声を出した。
「え、なんでですか?」
「……都市にある大病院にはジェニングスの父親と医大で勉学を修めている友人がいるらしい。会わせてやってくれ」
どうやらウィンチェスターもナハトの父親のことは知っていたようだ。ついでに、誰が医療費を出しているのかを聞いてみたが、そこまでは知らないと首を横に振られた。
「……ねえ、ウィンチェスターさん。気になってたんですけど」
なんでナハトのこと、側近にしないんですか。
気になっていた。いつもウィンチェスターはナハトのことを気にかけている。それなのに、どうして側近として迎え入れないのだろうか。まあ、向かい入れたら向かい入れたで、グレーゼがうるさそうだが。
「……私はあの悪趣味な規則が嫌いなんだ」
なるほどね、あなたらしいや。




