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心緒  作者: 宮田カヨ
49/62

その49

 夢を見た。初めてナハトと会った時の夢だ。

「こ、こんにちは。ヴォルカニックさん……」

 自身なさげで、ひどく怯えていて、手が震えていて。

「……あんた、仮にも上官でしょ? いちいち怯えないでくれる?」

 それが無性に腹が立った。ただ強いから、役に立つから。そんな理由で上層部に気に入られているナハトが嫌いだった。

「……ご、ごめんなさい」

「……それが苛つくっつってんでしょ? いいから、さっさと次行けば?」

 暇じゃないんでしょ、永遠の負け犬さん。

 シュティレがそう言えば、ナハトは泣き出しそうな顔をしながら腹部を庇うように腕で覆った。

 なぜ腹部を庇うのか。その時のシュティレはわからなかった。だが、今ならわかる。あの言葉は、ナハトが恐怖と痛みを抱いている言葉で、体に刻みつけられた言葉だから。

 とにかく、出会ってすぐのナハトはとにかく癪に触った。

 ここは今まで守られて生きてきた人間がいていい場所じゃないんだ。

「さっさとしてくれない? 負け犬さん」

「わ、わかってる……!」

 ナハトは人に指示を与えるのが下手だった。そこを補ったのがウィンチェスターだ。ウィンチェスターはナハトに対して怒りの矛先や不平不満がいくことを防いでいた。

「お前たちは私の指示に従え。ジェニングス、お前はお前が思うように行動してくれていい」

 それが特別扱いになるんだよ、だから嫌われてるんだこいつは。

 グレーゼなんて、もう露骨だった。ウィンチェスターが特別扱いする、理由はそれだけで十分。ウィンチェスターが見ていようが見ていまいが、苛烈な暴力を浴びせて酷い時はわざとナハトに標準を合わせて銃弾を打ち込んでいた。その度に、ウィンチェスターはグレーゼに対して怒りを見せていた。

「あんたさ、泣くくらいなら軍人辞めたら?」

 駐屯地の外れあたり、一人で泣いているナハトに向かってそう声をかけた。

「ここ、あんたみたいな半端者がいていい場所じゃないよ。さっさとお家に帰った方がいいんじゃない?」

 シュティレがそういえば、ナハトは立ち上がって掴みかかってきた。

「うるさい! 辞められるならとっくに辞めてる! でもできないんだよ……」

 大人しそうに見えて、意外と力強いんだなこいつ。感心しながら、今度はシュティレがナハトの胸ぐらを掴んだ。

「あっそ。でもさっさと辞めてくれる?」

 あんたがいるとうざったらしくてたまんないの、この世間知らず。

 そう言ってやれば、ナハトは泣いてどこかへと行ってしまった。泣けばなんとかなるとでも思っているのか、あの世間知らず。わざと聞こえるような舌打ちをして、ナハトの背を睨みつける。

 あの頃はナハトが本当に嫌いだった。すぐ泣いたりするところや、自分が一番不幸と思ってるあの姿勢が。

 けれど、嫌いが嫌いじゃないに変わったのはその後すぐだった。

 いつものように、ナハトが先陣を切って、その場を制圧して、兵士を捕虜とした。捕虜を捕縛している最中だった。

シュティレは自分を狙う存在に気づく事ができなかった。その男は、きっと誰でもいいから道連れにしたかったのだろう。男はシュティレに標準を合わせると、迷うことなく引き金を引いた。

「ヴォルカニック、避けろ!」

 ウィンチェスターがそれに気づき、警告してももう遅かった。腹、やられる。シュティレはくるであろう痛みと、負傷を最低限にするために体勢を変えようとした。けれど、来るはずの痛みを受け止めたのはナハトだった。

 目の前に散らばる鮮血、打たれた箇所を抑えるナハト。

「ジェニングス!」

 こいつ、俺を庇ったのか。そう気付いた時には、ナハトの体は地に倒れていて、ウィンチェスターがそばに駆け寄っていた。

 なんで庇ったんだ、こいつ。俺なんか放っておけばよかったのに、そうすれば怪我なんかしなかったのに。

 シュティレは自分を撃ち殺そうとした男に銃を向けて、引き金を引いた。

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