その40
スプラのハロウィンフェスはトリックで参加します。
イノセンスの機嫌は良かった。不機嫌を引きずらないのは楽だな、と思いたかったが今は真夜中だ。
「起きて、ねえシューレ」
椅子に座り、眠っていたところを起こされた。子供じゃないんだから、と言いかけてやめた。イノセンスの頭の中は子供だ。
「何? どうしたの?」
「ベッドで寝ないの? 体、痛くなっちゃうよ?」
誰がきてもすぐ起きることができるようにしていたのが、インセンスにはそれが不思議に思えて仕方なかったらしい。
「平気だから、お前はさっさと寝なさい」
完全に目が覚めてしまっているのか。ベッドに戻し、寝かしつけようとしても、イノセンスは寝る気が全くない。喋りたいのか、喧しく口を開くばかりだ。
「あのね、俺さっき夢見たの! シューレが出てきたの!」
「はいはい、さっさと寝ろ」
「でね、ナートもフィーも、アールも一緒にいてね。みんな一緒にいるの、みんな笑顔だよ」
機嫌よくそう言って、イノセンスはシュティレの膝に頭を乗せた。
「ちょっと……」
「昔はこうしてくれたよね」
あれはお前の頭がまだ赤ん坊だったから。
そう言おうと思うが、思いとどまった。
「……頭乗せてていいから、早く寝なよ」
少し硬い赤毛を撫でてやれば、インセンスは満足げに目を閉じた。不機嫌にしたいわけではないし、先ほどは悪いことをした。気が済むまで好きなようにしてやろう、そう思う自分は甘いのだろうか。
「ねえ、シューレ」
「何?」
「あのね、何でグレーゼさんはフィーが嫌いなの?」
こいつに口で説明してわかるだろうか。あの人の根底にあるものが。
グレーゼは強い差別意識を持った人間だ。だが、それを助長させたのは子供の頃のグレーゼを取り巻いていた環境だ。
俺も一歩間違えてたら、ああなってたんっだろうな。
「俺もフィーと同じだけど、あの人は俺のこと嫌ってないの。俺のことちえおくれって言うけど……ねえ、ちえおくれってどういう意味なの? 悪い言葉?」
「……お前、あのこと誰にも言ってないよな? あとお前は知らなくていい言葉だよ」
「……なんで俺は知らなくていいの?」
「何でも、それよりお前……」
「……言ってないよ、だって約束したもん」
イノセンスが言葉を理解し、言葉を話せるようになってからシュティレはイノセンスに、ナハトにフィデーリタース、ベレッタにフリューリング、アーデル以外に自身の出生は絶対に他人に話すなと約束させた。それがイノセンスを守るために必要だからだ。
「……いい子」
頭を撫でてやると、イノセンスはシュティレの足に顔を押し付ける。
「……あの人たちが、俺のこと嫌ってたのって、グレーゼさんがフィーを嫌うのと同じなの? あの人たち、今でも俺に言うの……お前はクズだって、ねだんも付けられないから役立たずって」
話していて思い出したのか、グレーゼがナハトを拐いに来たときに思い出したのか。
泣き出したイノセンスを起こし、その体を抱きしめてやる。イノセンスも腕を回し、シュティレに縋る。
首や手首に見える傷跡。それは、今でもイノセンスを傷つけていた。




