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心緒  作者: 宮田カヨ
40/62

その40

スプラのハロウィンフェスはトリックで参加します。

 イノセンスの機嫌は良かった。不機嫌を引きずらないのは楽だな、と思いたかったが今は真夜中だ。

「起きて、ねえシューレ」

 椅子に座り、眠っていたところを起こされた。子供じゃないんだから、と言いかけてやめた。イノセンスの頭の中は子供だ。

「何? どうしたの?」

「ベッドで寝ないの? 体、痛くなっちゃうよ?」

 誰がきてもすぐ起きることができるようにしていたのが、インセンスにはそれが不思議に思えて仕方なかったらしい。

「平気だから、お前はさっさと寝なさい」

 完全に目が覚めてしまっているのか。ベッドに戻し、寝かしつけようとしても、イノセンスは寝る気が全くない。喋りたいのか、喧しく口を開くばかりだ。

「あのね、俺さっき夢見たの! シューレが出てきたの!」

「はいはい、さっさと寝ろ」

「でね、ナートもフィーも、アールも一緒にいてね。みんな一緒にいるの、みんな笑顔だよ」

 機嫌よくそう言って、イノセンスはシュティレの膝に頭を乗せた。

「ちょっと……」

「昔はこうしてくれたよね」

 あれはお前の頭がまだ赤ん坊だったから。

 そう言おうと思うが、思いとどまった。

「……頭乗せてていいから、早く寝なよ」

 少し硬い赤毛を撫でてやれば、インセンスは満足げに目を閉じた。不機嫌にしたいわけではないし、先ほどは悪いことをした。気が済むまで好きなようにしてやろう、そう思う自分は甘いのだろうか。

「ねえ、シューレ」

「何?」

「あのね、何でグレーゼさんはフィーが嫌いなの?」

 こいつに口で説明してわかるだろうか。あの人の根底にあるものが。

グレーゼは強い差別意識を持った人間だ。だが、それを助長させたのは子供の頃のグレーゼを取り巻いていた環境だ。

俺も一歩間違えてたら、ああなってたんっだろうな。

「俺もフィーと同じだけど、あの人は俺のこと嫌ってないの。俺のことちえおくれって言うけど……ねえ、ちえおくれってどういう意味なの? 悪い言葉?」

「……お前、あのこと誰にも言ってないよな? あとお前は知らなくていい言葉だよ」

「……なんで俺は知らなくていいの?」

「何でも、それよりお前……」

「……言ってないよ、だって約束したもん」

 イノセンスが言葉を理解し、言葉を話せるようになってからシュティレはイノセンスに、ナハトにフィデーリタース、ベレッタにフリューリング、アーデル以外に自身の出生は絶対に他人に話すなと約束させた。それがイノセンスを守るために必要だからだ。

「……いい子」

 頭を撫でてやると、イノセンスはシュティレの足に顔を押し付ける。

「……あの人たちが、俺のこと嫌ってたのって、グレーゼさんがフィーを嫌うのと同じなの? あの人たち、今でも俺に言うの……お前はクズだって、ねだんも付けられないから役立たずって」

 話していて思い出したのか、グレーゼがナハトを拐いに来たときに思い出したのか。

 泣き出したイノセンスを起こし、その体を抱きしめてやる。イノセンスも腕を回し、シュティレに縋る。

 首や手首に見える傷跡。それは、今でもイノセンスを傷つけていた。

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