その39
シュティレ×イノセンスはシュティイノ
駄々をこね、泣き疲れたイノセンスを寝かしつけてから、シュティレはようやく体の力を抜いた。
ナハトを医務室に連れてから部屋に戻ると、案の定イノセンスが癇癪を起こし、フィデーリタースを困らせていた。不安と恐怖に、信用していた相手に投げ出されたことへの絶望に不満。
なだめるのは本当に大変だった。泣き叫びながら不満をシュティレにぶつけるのはまさに子供そのもの。理屈では通らないそれを相手するのは本当に大変だ。
「……すまなかった」
ナハトの声がしたが、あえてそちらは向かない。
「何に対して謝ってんの?」
「……イノセンスを傷つけて、お前の手間もかけさせた」
先ほどよりは冷静になったのか、声に興奮は見られない。
シュティレはナハトの方を向くと、フィデーリタースにも謝っておけという意味も込めて、指で額を弾いた。
「お前、貸し一ね」
あのときつけた分も合わせて、随分と貸しができた。何で返してもらおうか、そう考えながら椅子に腰掛ける。ナハトは床に座り込んだ。イノセンスがベッドを使い、シュティレが椅子を使っているが、この部屋にはベッドと椅子が二つあるのだから座ればいいのに、とシュティレはそう言いかけたが口をつぐんだ。
フィデーリタースは相変わらず部屋の隅に立っている。先ほどの焦っていた表情が嘘かのように、今の顔には表情がない。
シュティレ自身、人のことを言える立場ではないが、フィデーリタースはもっと表情を表に出すべきだと思っている。抑圧がナハトを傷つけていることを、どうして理解しないのか。だが、生まれてきてからずっと感情を抑えて生きてきた男に今更感情を表に出せというのは、無理な話かもしれない。
その点に関してはこいつ便利だよな、とシュティレはイノセンスの寝顔を見つめる。表情や感情を表に出すようになったのはここ最近だが、何をしたいかや何を求めているかなどがわかるようにはなってきた。
ストリクトからも、なるべく早く返事を貰わなければ。このままだと、おそらく大変な時代が来る前にナハトが壊れてしまう。恩を仇で返すような真似だけは、絶対にしたくない。
そう考えて、シュティレは一人恥ずかしくなった。いつからこんなことを思うような人間になってしまったのだろうか。お節介を焼くのはベレッタの役目だ。
「フィデーリタース、ちょっと」
シュティレが指を動かせば、部屋の隅で立っていたフィデーリタースがこちらへと来る。仮面のように無表情を貼り付け、感情が読み取れない。
「……ほんと、なんでお前なんだろうね」
「……なんのことでしょうか?」
「こっちの話」
シュティレはため息を吐くと、窓の外を眺めた。




