その37
マンメミッ
「言ってもいいよ、俺のこと」
少しからからかってやろうと、あえて挑発してみた。
「兄貴の罰もきっと軽くなるしね。それに地位も上がるし。言ってもいいよ」
ベレッタは、あの戦場での素行が原因で謹慎処分を受けている。降格処分すら検討されている状態だ。
フリューリングは黙り込んでしまった。このあとどんな反応をするだろうか、とシュティレは反応を待つ。お前は人が悪い、とナハトからはよく言われる。こればかりは性分なので、仕方がない。直そうと思っても直らないのだから。
フリューリングが何かを言う。けれど、それは小声でシュティレの耳には届かなかった。なんて言ったの、と聞き返せば、フリューリングは真っ直ぐと、シュティレを見つめた。
「あたし、言いません! 兄ちゃんの友達を、売るなんて酷いこと、あたし絶対にしません!」
「……いや、冗談。からかっただけだよ、ごめん」
少し間を開けてから、シュティレはそう答えた。怒っているのか、拗ねているのか、告げ口してもいいと言われたことにシュックを受けているのか、フリューリングの目には涙が溜まっている。
「え、いや、なんで泣くの?」
「……泣いてませんもん」
いや、泣いてるじゃん。
フリューリングの目から涙が流れた。もしこのことがベレッタに知られたら、シュティレはきっと殴り飛ばされるだろう。
なんて言って慰めようか、と頭を巡らせる。
今後、子供をからかうのはやめよう。泣かれたら面倒だし、改めてわかった。子供が泣く姿を見るのは残されたわずかな良心が痛む。
「……悪かったよ、揶揄いすぎた。泣かないで」
イノセンスや大人の女は勝手がわかるが、他人の妹で、しかも年頃の少女の扱いはわからない。下手を打てば本当に面倒なことになる。
「……ヴォルカニックさん」
「……何?」
フリューリングは目元を拭う。
「あたしと兄ちゃんのこと、いつになったら信用してくれますか?」
まだ少女ではあるが、女というのは、どうしてこうも聡いのか。
シュティレはため息を吐く。その質問には答えてやれそうになかった。
「……妹、そろそろ帰らないとベレッタ心配するよ」
もう空が暗くなってきた。そろそろ帰らないと、抜け出したことが知られてしまうし、イノセンスが駄々を捏ね始める。
「ほら、帰るよ」
シュティレは歩き出す。フリューリングも、その後に続いた。




