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心緒  作者: 宮田カヨ
33/62

その33

「何?」

「ナートはここが嫌いなの?」

 子供は遠慮を知らない。知りたいと思ったことは口に出し、大人に回答を求める。

 シュティレはため息を吐いた。子供というのは、下手な政治家や煩悩に塗れている大人よりも扱いが難しい。

「……なんでそう思うの?」

「だって、ナートは帰りたくないって言ったんでしょ? グレーゼさんが友達と話してるの聞いたの」

 いらないことばかり持って帰ってきやがって、とシュティレは心の中で悪態を吐く。しかし、親の心子知らず。シュティレの考えていることなんて露知らず、イノセンスは言葉を続けた。

「どうして嫌いなのかな? ここにいたら外に出られるし、ご飯だってちゃんと食べられるのに。それに、やることだってあるんだよ? 叩く人もいないし、言うこと聞いてたらみんな優しいし」

「……それ、ナハトが起きてる時言うなよ」

「どうして?」

「どうしても。ナハトが泣いてるところ、みたい?」

「……見たくない」

 イノセンスは首を横に振った。こういうところは素直で助かる。

 こいつくらい素直だったらいいのに、と部屋の隅に立っているナハトの側近に目をやる。決して馬鹿ではないのだが、フィデーリタースは自分のことを理解しなさすぎている。自分を理解していない人間というのは、子供とまではいかないが、多少扱いが面倒だ。理解させるのにかなりの時間を要するからだ。

 シュティレは立ち上がると、フィデーリタースに声を掛ける。

「フィデーリタース、悪いけど留守番してて。少し出る」

「……かしこまりました」

 イノセンスが立ち上がった。

「どこかいくの? 俺もいく」

「お前は留守番してな。ナハトのこと見ておいて」

 イノセンスは首を横に振る。

「やだ、俺もいく」

 シュティレはため息をついた。

「……じゃあ、これ持ってて」

 シュティレは机の上に置いていた、金の入った袋をイノセンスに渡した。

「俺が帰ってくるまでこれ、預かってて。できる?」

「……フィーにやってもらったらいいじゃん」

「だめ、知ってるでしょ? 俺が他の人に金触らせたくないって」

「そうだけど……」

 あともう一押しだ。シュティレは膝をついて、イノセンスの目を見た。ナハトとベレッタが言っていたことを思い出したのだ。子供と話す時は、必ず目線を合わせろ、子供は上から見下ろされるのを嫌うからな。

 普段はそのことを忘れて、つい見下ろして話してしまう。

「お願い。できる?」

「……わかった」

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