その30
思ったんですけど、心緒ってBL要素薄くなって来てる?
「お前なに動きまわってんだ、この馬鹿!」
駐屯地に戻って、ニュイとシュティレを迎えたのはアールツトの罵声だった。涙の跡が残っていたが、そこには触れられなかった。
「ナハトはなんで動いた! ヴォルガニックはなんで俺に言わない!」
口は悪いが、患部に触る手つきは乱暴ではなかった。
「あんたに言ったらうるさそうだから」
「うるさくもなるっつーの!」
シュティレは小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。アールツトの次の言葉を待っているようだ。
「ともかく、二人ともさっさと体休めろよ。睡眠不足で倒れたって知らねえぞ」
「倒れたら助けるくせに?」
「黙ってろヴォルガニック」
「おお、こわいこわい」
こわいと言っているが、怖がっている様子はない。素直なアールツトの反応が楽しいようで、おちょくるように口を開いている。
「どっかのバカと一緒で、あんたも素直じゃないね」
「そんなこと言ったら、お前だって馬鹿で素直じゃねえじゃねえか」
「なんで?」
「あの人参が大切なんだろ?」
イノセンスのことだ。人参っていうな、とニュイが注意すれば、バツの悪そうな顔をして、目を逸らした。
「……別に、大切なんかじゃないし。あいつはバカだし俺がいないと生きてけないだろうから、面倒みてやってるだけだし。あんたの妹と対して変わんないでしょ」
先ほどまでの威勢はどこへ行ったのか、シュティレは口を閉じてアールツトから目を逸らす。顔を隠しながら、捲し立てるように、早く話を切り上げたいというのが目に見えている。
本当イノセンスのこと大好きだな、こいつ。アールツトは盛大に笑い、ニュイは痛む腹を抑えながら弱々しく笑った。ニュイの笑いには、自分には笑う価値すらないのに、と自重も含めた物が見えた。
「わ、笑うな!」
冷静なシュティレと口で勝つのは、おそらく不可能に近い。アールツトもそのことはわかっている。
「恥ずかしがんなって、大切ならそう言ってやれよ」
「大切じゃないって!」
バッカじゃないの、と吐き捨てるように言うと、奥へと引っ込んでいった。自分のペースが崩れてしまったことが恥ずかしかったのだろう。
ニュイは長く息を吐いた。明日はどうか死んでいますように、と心の中で呟きながら。




