その29
三角様のお尻ナーフ反対!
「……なにを、血迷っているんだ?」
やっとの思いで開いた口から出てきたのは、震えた声だった。
「……血迷ってなんかない、本心だ」
「自ら死を望むなんて、血迷っている奴以外しない行動だ!」
敵に情なんて向けない方がいいのに。命取りになる行為だ、もしこの涙が嘘だったらどうするつもりなのだろう。正味優しい男なのだろう。
プラヴァスは声を振り絞る。
「自ら死にたいなんて、思う奴はいない! 思い直せ!」
敵の、しかも戦いにおいて重宝されている男が死を願っているのに、それを好機となぜ思わないのだろう。普通ならこの場で息の根を止めるだろうに。
「ともかく、それ以外なら」
プラヴァスが急に押し黙った。視線の先を見ると、シュティレが手を上げていた。口元に人差し指を当て、闇を見つめている。
プラヴァスを指差すと、指を闇の方へ向けた。姿を消せ、そう示している。誰かが来たということだ。プラヴァスは、また来る、と小さく告げるとその場を後にした。
誰に話を聞かれたのだろうか。もしグレーゼあたりに聞かれでもしたら、弱みを握ったと嬉々としてニュイを痛めつけるだろう。告げ口だってするに違いない、しかも湾曲した最悪の形で。
「……二人とも、なにをしている」
建物の影から出てきたのはアーデルだった。ブロンドの髪は、暗くてもよく目立った。
「……ジェニングス、ヴォルガニック。早く戻れ、身を休めろ」
上官としての態度を崩さないアーデル。話を聞いたのではないのか、ニュイの顔にはそう書いてある。
「……言っておくが、私はお前たちがなにを話していたかは聞いていない」
アーデルは踵を返すと、闇の中へ消えていった。
「……絶対聞いただろうね、あの人」
完全に気配が消えてから、シュティレが口を開く。ニュイは腹を抑えながら、荒く息を吐いた。
「……聞いただろうな。間違いなく」
「どこから聞いたかはわかんないけど……あのレミルトンとかいう男、声大きいから全部聞かれてたりして」
「……それ、やばくないか?」
他の者にも聞かれたら都合が悪いことだ。けれど、シュティレは笑みを浮かべている。
「やばくなったら逃げる、詐欺師の鉄則だよ」
「……自分で自分のこと詐欺師っていうか?」
「いいでしょ、実際そうだし。まあ、『元』だけど」
腹を抑えたニュイに、シュティレは手を差し出した。
「痛いでしょ? 支えてあげるよ」
「……別途料金かかるけど、だろ?」
「よくわかってんじゃん」
涙を拭いて、手を取る。止めようと意識すればするほど涙は溢れたが、シュティレは気にしていないようだった。




