その22
人を呼ぶべきだろうか、以降の部分が抜けていたので付け足しました(2020/05/17)
明日のために、帝国の軍人達は代わり番で睡眠を取っていた。ニュイはそこから少し離れた場所にいた。損壊された民家の壁に寄りかかりながら、夜空を見つめていた。雨はとっくに止んでいる。
「ナート、寝ないの?」
声がしたほうを向いた。赤毛を靡かせて、無垢な笑顔を見せている青年は、戦地に似つかわしくない。
「イノセンス……どうしたんだ?」
「どうしたもクソもないよ、さっさと寝てくんない? 俺が寝れないの」
イノセンスの後ろからシュティレの声が聞こえた。だるそうな声に、すまない、と謝ればシュティレは面倒臭そうにため息をつき、ニュイの隣に座った。
「……あいつなら、ベレッタが面倒見てるよ」
頭冷やすのにはちょうどいいんじゃない、シュティレは面倒臭そうな態度を崩すことなく言った。
「……そうか」
「何も言わずに出てかないでよ、こいつもう少しで寝つきそうだったのに」
シュティレの隣で、イノセンスは機嫌良さげに体を揺らしている。
「ねえシューレ、今日は星が見えるね」
「雨降ったからね、明日は晴れるよ。そうすりゃ、星なんかいくらでも見れる」
「じゃあ、明日はもっと綺麗に見える? 俺、星見たい」
「星見たかったらナハトに頼みな。こいつ詳しいから」
何勝手に決めているんだ、そう言おうとする前にシュティレの方が早く口を開いた。
「いいでしょ? どうせ夜は暇なんだし。それに、もうこいつ見る気だよ」
イノセンスが期待を込めた顔でこちらを見つめている。わかった、そう言わないと駄々をこねるのは目に見えているし、イノセンスの機嫌を損ねれば後々面倒なことになる。
わかった、と言おうとした瞬間、誰かの気配を感じた。服の下に手を伸ばし、銃を取り出しながら気配がした方を向く。それはシュティレも同じで、服の下に忍ばせていた銃を取り出した。
気配を感じたら銃を握る。軍人としての悪癖が、ニュイを動かす。
「……誰だ」
ニュイの問いかけに、気配はしばらく動きを見せなかった。人を呼ぶべきだろうか、そう悩んだ。
「……敵対の意思はない。話がしたいだけだ」
所々発音がおかしいが、帝国の言葉を流暢に操っている。男の声だった。闇の中から出てきたのは、フィデーリタースとそう歳が変わらない若い男だった。背が高く、戦いに向いた体つきをしているのは暗闇でもわかった。それよりも目を引いたのは、男の着ている軍服だった。あの軍服は、帝国が敵対視する連合国の大元のものだ。
「おじさん、誰?」
イノセンスの声に、男が目を剥く。
「こんな幼子まで……帝国は戦地に駆り出すというのか……!」
「幼子? 誰のこと言ってるの?」
シュティレが聞いた。男は憤慨した様子で、声を上げる。
「そこの子どものことだ! 年端も行かぬ子供を、なぜ戦地に連れてきた!」
男はイノセンスのことを言っているようだ。当のイノセンスは小首を傾げている。
「……もしかして、こいつの事言ってるの? こいつ、俺より年上だよ」
シュティレが呆れたように言った。警戒も解かず銃は構えたままだが、撃つ気はないようだ。ニュイも同じで、男を撃つ気はなかった。銃はあくまで警戒の意思を示すために使っているだけだ。




