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心緒  作者: 宮田カヨ
19/62

その19

椅子に座るよう促せば、のところ書き忘れてたので書き足しました(2020/05/08)

イノセンスが目を覚ました、以降区切りがあまりに悪かったので付け足しました(2020/05/15)


「ウィンチェスターだ。ジェニングスに話がある」

 フィデーリタースはニュイの方を見た。入れても良いか、口には出さないが目がそう言っている。その問いかけに、ニュイは頷いた。静かに戸を開け、訪問者を部屋に招き入れる。

 軍服を纏った、ブロンドの髪をした壮年の男性。アーデル・ウィンチェスターはフィデーリタースに礼を述べると、ニュイのもとへと足を運ぶ。

「三日後、戦地へ行く。準備をしておけ」

 そう告げたアーデルはため息をついた。どこか疲れた顔で、何か言いたげにしている。アーデルは側近をつけていない。なぜ側近をつけないのか。ニュイは一度そう聞いたことがある。

「私は、あの悪趣味なシステムが嫌いなんだ」

 側近を迎えることも、側近になることも拒んでいたという点においては、ニュイと同じだった。そのせいなのか、アーデルはよくニュイのことを気にかけていた。アールツトたちを除くと頼れる人間がいなかったからだろう。

 フィデーリタースを拾った時も、お前らしい、と笑って受け入れてくれた。人種や性別で差別しない人柄に、ニュイは好感を持っていた。

「……ウィンチェスター大佐。俺、あんたが今からナハトに話すことに関しては覚えないから。話したきゃ話せば?」

「……すまない、ヴォルカニック」

 シュティレは再び紙を取ると、ページをめくり始めた。アーデルは部屋の戸が閉められているのを確認すると、ニュイの方を向く。

「……ジェニングス、お前を戦場に送るのは本意ではないんだ」

 アーデルは目頭を押さえた。空いている椅子を引いて、座るよう促せば、小さく礼を呟いた。

「お前がいなくなったことで、この国は衰退した。戦争だってもうすぐ終わりそうだった。できることなら、お前にはあのまま暮らしていてほしかった」

「……俺だって、好き好んで」

「わかっている……お前には戦わなくてはならない理由ができてしまった」

 修道院の人間達を人質に取られ、彼らの命と引き換えにニュイは戦場へ行かなければならなくなってしまった。いくら金銭で買収されていても、いつ掌を返すかわからない。

 アーデルはひとつため息をつくと、決意のこもった声でこう呟いた。

「……だが、お前のおかげで、私たちも覚悟が決まった」

 ニュイは不思議そうに、シュティレは何か勘付いたようにアーデルの顔を見た。覚悟とは一体何なのか、ニュイがそう尋ねようとした時、唸りながらイノセンスが目を覚ました。

「……話すぎたな。起こして悪かった」

 イノセンスに向かってそう言うと、アーデルは立ち上がった。

「ともかく、三日後のために準備をしておけ」

 アーデルは部屋を出ていった。アーデルが完全に部屋を出るまで、誰も口を開かなかった。

「……覚悟って、何のことだろうな」

 アーデルの気配が消えてから、ニュイは口を開いた。

「……さあ、何のこと? 俺、何にも聞いてないし覚えてないよ」

 目を覚ましたイノセンスの相手をしながら、シュティレは興味なさげに言った。

「……聞いていたのにか?」

「俺は何も覚えてないし、聞いてないの……まあ、お前は知らなくて良いことだと思うよ」

 それに俺、あの人のことは嫌いじゃないし。シュティレはそれだけ言うと、イノセンスの相手をし始めた。

 シュティレのその言葉が何を指し、どういう意味で言ったのか、ニュイにはわからなかった。

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