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心緒  作者: 宮田カヨ
18/62

その18

タイバニ新シリーズ発表されましたね。嬉しいです。

 ニュイの考えていることが分かっているのか、シュティレは話題を変えるのに必死だった。素直じゃないのはお前の専売特許だな、なんて無駄なことを言うべきではない。言えばヘソを曲げてしまうのは目に見えている。そう判断してニュイは話に乗ることにした。

「あれって……どれだ?」

「なんだっけ……なんか、女の子が主人公の話」

「……もしかして、フリューリングが読んでたやつか? それなら、昨日アールツトに渡したが……」

 気の沈んでいたニュイに、アールツトは一年前に放置したままの、途中で終わっている物語の続きを書くように言ってきた。気を遣われていることはわかった。いろいろなことがニュイを襲った。そのことを考えさせないよう、気を紛らわすために言ったのだろう。

 最初は何も書けなかった。自責に自己嫌悪が頭の中を支配して、話を読み返しても何も思いつかなかった。無理やり手と頭を動かし、なんとか書き終えたものだったが、フリューリングは喜んで読んでくれていた。

「まじ? あとで貰わないと……」

 シュティレはベッドに腰掛け、机の上に置かれた書き途中の物語を手にとった。適当に文章を読んでは、すぐにページをめくっている。

「フリューリングは? 部屋にいなかったのか?」

「ベレッタの代わりに働いてた。バカな兄貴のためにね」

 いない人間のもん勝手に取れないし、と面倒臭そうに言った。金は騙し取ったりするくせに、物盗りだけはしないんだな。ニュイはそう思った。

 シュティレの金銭に対する執着は折り紙付きだ。金銭を増やすためなら手段を選ばず、ここへ来る前は詐欺を働いていたらしい。詐欺で集めた金は、全てため込んでいたらしいく、時折賄賂などに使っていたらしい。軍へ来たのも、金銭を集めることが目的らしい。金銭を多く求めるならどうして工場主にならないんだ、とニュイは聞いたことがある。わかっていないな、と言わんばかりにため息をつかれた後、シュティレはこう言った。

「お偉いさんたちに取り入って、情報もらって、それを売るんだよ。俺の商売相手はここにいる人間だけじゃない」

 この男が持つ器用さが、何度羨ましいと思ったことか。

 詐欺を働いていたことで培った舌先三寸と懐に取り入る巧さに、自身の身を守るための狡猾さ。下手したら鼠以上に鼠らしいのではないか、帝国への忠誠心の無さはもしかしたら自分以上なのではないか、とニュイは考えている。

 紙を机の上に置くと、シュティレはイノセンスの頬を伸ばしたり押しつぶしたりして遊び始めた。起きるからやめたらどうだ、ニュイがそう言ったが、シュティレはやめなかった。

「いい加減起こさないと。このまま寝られたら、夜眠れないってうるさくなるし」

「起こし方なら他にもあるだろ」

「別にいいじゃん、こいつ嫌がってないし」

 側近というよりは、どちらかというと兄弟みたいだな。ニュイは一度だけそう言ったことがある。深い意味は特になかった。ただ二人の仲が良いということを言いたかっただけだ。その意図をわかっていながら、シュティレはそれを怒涛の勢いでそれを否定した。シュティレには素直ではない部分がある。単に恥ずかしかっただけなのだろう。しかし、それが原因でしばらくの間、イノセンスへの接し方がぎこちないものとなってしまった。年齢よりも非常に幼く、人よりも足りない部分があるイノセンスは、なぜシュティレが普段通りに接してくれないのかがわからず、ニュイのところへ泣きついてきた。

 イノセンスの体が動いた。まだ眠たいのか目を擦り、寝返りを打っている。シュティレは呆れた様子でため息をつく。

「……ねえ、ナハト。このバカの面倒見る気ない? つーか交換しようよ」

 そうは言っているが、イノセンスから手を離していない。交換したら寂しくなるくせに、というその言葉は飲み込んだ。

「……遠慮しておく。イノセンスはお前が一番だしな」

 そう言えば、シュティレは罰が悪そうに目を逸らした。その顔には嬉しさと気恥ずかしさが隠れていたのを、ニュイは見逃さなかった。

 誰かが戸を叩いた。二人は口を閉ざし、戸に視線を移す。ニュイの部屋を訪れるのは限られた人間だけだ。ノックをする人間はそれよりも限られている、というよりもノックをする人間は一人しかいない。

「……どちら様でしょうか」

 フィデーリタースが静かに言った。訪問者が誰かはわかっているが、形式上そう尋ねた。

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