その17
あれから数日が経った。ニュイに下された処分内容は、降格と外出禁止命令だった。
「……戦場以外は外に出るなって、やること姑息だよね。しかも、俺は監視役って……時間外手当て出せって思わない? 無給なんだよ、これ」
そう呟いたのは、かつての同僚であり、側近を守ってくれた恩人でもあるシュティレ・ヴォルカニックだった。どこか疲れた顔で処分を伝えられた時、こいつには一生足を向けて眠れないな、と心底思った。
「アールツトは? どうしたんだ?」
昨日を含め、暇さえあったら部屋に来ていたのに、今日は姿を見かけていない。大方予想はついていたが、一応聞いておいた。
「謹慎処分。殴り合いの喧嘩起こしたから」
部屋の中で文句ずっとたれてたよ、とシュティレは面倒臭そうに呟いた。やっぱり、とニュイの予想は的中した。
降格と外出禁止とは逃亡兵に与えられる罰則としては随分と生温い、普通ならそう考えるだろう。普通なら銃殺刑に値する行為を、ニュイは行った。
きっと、この先ずっと帝国に縛られるだろう。「懐刀」として戦わされ、自由を許されるのは戦争が終わった時だ。自由、聞こえはいいがニュイに与えられる自由はおそらく死だ。帝国に対する忠誠を持っていない、逃亡した「懐刀」の異名を持つ軍人を野放しにしておくほど、帝国の人間も馬鹿ではない。
「……なあ、シュティレ」
そんなことを考える前に言うことがある。ニュイは渦巻いている考えを頭の隅に追いやった。
「何?」
「……色々と、ありがとう」
フィデーリタースや修道院の人間、全て救ってもらった。ニュイがそう言えば、シュティレは顔を背けた。
「……別に。あいつは役に立つと思ったから、イノセンスはバカだし。それに、お前に恩売っとけば得だから。それ以外に意味なんてないし」
「……そうか」
シュティレが饒舌になるのは、大概羞恥を感じているか話題を変えたい時だ。
「つーか、礼いう暇あるならあれ書いてよ。イノセンスが読みたいってうるさいんだから」
そう言って、シュティレはニュイのベッドに目を向けた。燃えるような赤毛をした青年が、ベッドに横たわり、間抜けな寝顔を見せている。シュティレの側近であるイノセンスだ。定位置である部屋の隅で、おとなしく控えているフィデーリタースとは違い、幼さを醸し出している。この側近のおかげで、シュティレも幾分か丸くなった。
「この馬鹿、お前が書いた話が読みたいって言って聞かなかったんだから。金はいらないからちゃんと書いてよね。この前なんて、夜通しで酒飲まされるし賄賂のせいで金は減るし……大変だったんだから。お前も大変な思いして」




