その14
ハッチ脱出していいのかと思ったらハッチの蓋閉められ、ゲート開けていいと思ってゲート開けたらノーワンで殴られ、担がれて吊るされると思ったら出口付近で下されました。dbd楽しいです、ヒルビリーさんその節はお世話になりました。逃してくれてありがとうございます(深々)
拘束された冷たいコンクリートの床は、確実にニュイの体力を奪っていった。けれど、傷の熱を奪ってくれることはありがたかった。
ここに入れられるのも随分と久しいな、と自嘲した。
「痛ってえ……」
口の中に溜まった血を吐き出す。森で殴られた後頭部と鼻柱、先ほどグレーゼに殴られた体の至る箇所が痛む。熱も振り返しているのか、頭がぼんやりとしている。後ろ手で拘束されているせいで鼻血を拭うこともできない。なんとかして拘束だけでも解けないものか、とこの部屋の中で一頻り暴れはしたが、結局それは無駄に体力を消耗させるだけだった。先ほど終わったグレーゼからの折檻も、ニュイの体力を奪う要因の一つだった。
かつてここにいた時は抵抗しなかった。抵抗すればするほど酷くされたからだ。だが、今は抵抗しなければならなかった。しなければ、無駄になってしまうからだ。
「あの変態……」
グレーゼは人を痛めつける際、特に法律違反に値する人間やそれに味方する人間を痛めつける際には悦を含んだ笑顔を見せる。
今回の折檻は一段と力強かった気がしてならない。グレーゼはニュイを痛めつけることを特に好んでいた。曰く「お前を壊すのは気持ちがいい」とのこと。グレーゼは「懐刀」として重宝されている彼への嫉妬や、憎さからくるものではない。グレーゼは単なるサディストだった。折檻は、あくまでグレーゼの心的快感を得るために行われている。だから、余計にタチが悪い。
灰色の床を見つめながら、ニュイは修道院の人間のことを考えた。結局、あそこにいた人間へただ迷惑をかけただけだった。少しだけ顔が見たいと思った。許しを乞うために行くのではない。ただ、彼らの無事を確認したかった。
分厚い鉄の扉が開いた。またあの変態か、と思ったがそうではなかった。
「……ひでえざまだな、ナハト」
口の汚さは相変わらずだった。不潔にならない程度に揃えられた、男にしては長い黒髪と、目の下の深い隈も、何も変わっていない。
「……アールツト」
ニュイは若医者の名前を呼んだ。
アールツト・ベレッタ。帝国の従軍軍医で、ニュイと同郷で旧友の男だ。そして、一年前ニュイの逃亡を手助けした人物だ。フィデーリタースの話を聞く限り、二等軍医生から一等軍医生に昇格したらしい。
アールツトはニュイのそばにかがみ込むと、手の拘束を外し始めた。
「……修道院の人間は全員収容所送りだ。逃亡兵を匿って、あいつらのことを上に報告せず、だしな」
ニュイは黙っているだけだった。アールツトも、拘束を解くまで黙っていた。
「……立てるか?」
「……ああ」
骨が痛んだが、歩けないほどではない。どうせすぐに治るものだ。
折檻部屋から出て、廊下を歩く。窓から差し込んでくる光に、朝を通り越して、昼になっていることに気づいた。一晩も折檻を受けていたのか、とこの時気づいた。
「……お前の処分は追って決めるそうだ。それまでは自室待機だとよ」
「……帝国様は随分優しいんだな。処刑しないのか」
「……てめえに今死なれたら、かなわねえんだろ……馬鹿同士、勝手にやればいいと思わねえか?」
「……相変わらずだな、本当に」
「……お前も相変わらずだよ。俺のこと、売ればよかったのに」
アールツトは悪戯っぽく笑った。それから、二人の会話は弾んだ。といってもアールツトが一方的に話しかけ、ニュイがそれに答えるといったものだった。それがニュイを気遣っているものだということは、わかっていた。
ニュイにはかつての名前と、現在の名前がある。どちらで呼べばいいやら(好きな方で呼べばいいと答えたら、ナハトで呼ばれることになった)、ニュイが出ていった後のグレーゼの奇行をアールツトは話して聞かせた。
医務室で手当てを受けている時に、修道院の人間について話された。
「修道院の人間のことは、ヴォルカニックが動いてるから安心しろ」
「あいつが……? どうして?」
「袖の下はあいつの得意分野だしな。収容所送りは間違いねえが、手は出されねえはずだ。それに、お前に恩を返せるし、借りも作れるからな。絶好の機会なんだろ」
「……あいつらしいな」
安堵が生まれた。収容所へ送られたが命は助かっているという事実が、ニュイには嬉しかったのだ。




