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9.魔物達のステータス鑑定

 先日、オーグさんの見事な筋肉を見せられたこともあり、なんだかあの筋肉が羨ましくなってしまった俺はジム内で筋トレを主にするようになっていた。我ながら単純だと思うし、一朝一夕であの筋肉が肉体に備わるわけがないというのも良くわかっているのだが、筋トレをした次の日の筋肉痛に「これで少しはあの筋肉に近づいたな」と勝手に結論付けていた。


 軽く調べたら、実は筋肉痛と筋肉の発達は無関係であるという情報も見たのだが、それはあまり気にしないことにした。

 そして俺は今日もジムに来て筋トレを行う。特に腹筋系は、下腹が年齢と共に段々と自己主張を強めてきているため重点的にやろうとしていたのだが……。


「この腹筋用のマシン……アブドミナルクランチだっけ?やってると腹筋じゃなくて太腿の方が痛くなってくるんだよね……。なんでなんだろうか。」


「それ、やり方が間違ってるんだよ。足とか腕の力でやってない?腹筋だけでやらないと。重量が重すぎるんじゃないのかな。腹だけでできるように軽くしたら?」


 確かに、重い方が筋肉がつきやすいと聞いたので動ける限界の重量でやっていたのだが、指摘されたように腹筋でと言うより足に力を入れて、腕の力も使ってやっていた気がする。

 今の俺よりもはるかに重い重量で、難なく腹筋をやっている骨ヤンの隣でやっていたから無意識に対抗してしまっていたのかもしれない。……骸骨なのに腹筋運動やって意味があるのかと言う疑問はあるが。本人が楽しそうだからいいか。


 とりあえずアドバイス通りに軽くしてやってみるかなと、俺はマシンの重量を先ほどの半分ほどに軽くする。その時にちらっと骨ヤンの方の重量を見ると、重量が三桁を超えていた。骨だけで筋肉が無いのにどうやってあんな重量を支えているんだろうか。

 しかしあれだな、初めて骨ヤンから筋トレのアドバイスを受けたけど、結構そう言うの詳しいのかな?今も腹筋用のマシンを綺麗な姿勢でやっているし。今度から悩んだら相談してみようかな。


 相談と言えば、あれから特に骨ヤンから相談事的なものは受けていないな。まぁ、あんなことがちょくちょくあっても困るけどな。召喚された勇者君の件って、不思議な力で無かったことになるとか、うまい具合に辻褄合わせとかされてるのかと思いきや、実はこっちで行方不明事件になってたみたいだし……。なんかフォローでもされてたのかわからないけど、そこまでの騒ぎにはなってなかったみたいだけど。


 まぁ、平和が一番と言う事で……。こっちからは特に突っ込まないでおこう。


 横目で見ると骨ヤンは速くもなく遅くもない速度で……腹筋を倒す時よりもむしろ起こすときの方が遅いくらいの速度で実行していた。自分はどっちかと言うと起こすときを早くしてしまっているので、そう言うのもコツなのだろうか?真似してみるかな。

 骨ヤンのフォームを真似して上体を少し軽く曲げて、足と手には力をそこまで入れずに腹筋を使って身体を倒そうとすると……どうしても少しは手と足に力を入れてしまうのだが、先ほどの重量が重かった時よりも腹筋に負荷がかかっている気がする。こう、腹がつるような感覚と言うか、足に来ていた痛みが腹に来ている。半信半疑だったけど、これが正しい姿勢なのかな。


 何回かそのまま腹筋運動をやるのだが、50回ほどやったところで身体を倒すのが辛くなる。骨ヤンは50回など余裕で超えているだろうが、辛さ等は一切感じさせずに常に一定の速度で腹筋運動をしていた。

 骨だけなのにどこにあんな力があるのだろうか……


「そういえばさぁ、骨ヤンのところってステータス的なものってあるの?相手を魔法で鑑定して数値化とかそう言うの。」


 ふと気になったので、相手が腹筋運動をしている最中ではあるが聞いてみた。


「数値化したステータスー?あるよー。そういうの。でも魔法での鑑定とかは今は無いかなー。」


 実は腹筋運動をしながら喋るというのは思ったよりもきついのだが、あっさりと骨ヤンは答えてくれた。特に動きによどみも無く、速度にぶれも無いその様子は本当に凄いと思う。


 でも、ステータスはあるのに魔法での鑑定は無いってのはどういう事だろうか。鑑定が無い系の世界ってことかと思ったけど、それならステータスも無いんじゃないのか?


 運動を邪魔するのもあれなんで、続きは終わってから話すとするかな。俺も見習って腹筋運動を続けるかな。その後、俺も数十回腹筋運動を続けたのだが、骨ヤンよりも圧倒的に少ない回数でギブアップしてしまった。


 それから、俺はいつまでもマシンを独占するのも何なのでマシンから離れていったん休憩する。他のマシンを使うことも考えたのだが、骨ヤンが終わるタイミングと重なると話の続きもできないし、それに下手に力を入れると腹筋がつりそうな感じになっていたので壁際に設置されているソファに座って終わるのを待つことにした。それから十分ほどの間、骨ヤンは腹筋運動を継続していた。


「お待たせー。んで、何の話だっけ。」


 首から下げたタオルで汗を拭く仕草をしながら、骨ヤンがソファのところまできて俺の隣に腰かけた。別に汗をかいてるようには見えないのだが、気分の問題なのかもしれない。


「いや、こないださ。オーグさんが凄い筋肉してたし、骨ヤンも腹筋とか俺なんかよりよっぽどできてたからさ、魔法とかあるんだしステータスとかそういう数値化した情報とかあるんじゃないかなと思って。」


「あー、前に見せてもらった小説みたいに、ステータスとかあるのかって話だっけ?あるにはあるよ。」


 あるというのは先ほども聞いたのだが、どうにも歯切れが悪いというか、腕を組んで少し何かを考え込むようにしている。あるにはあるという言い方も気になるのだがそれから、組んだ腕を解くと片手の人差し指をトントンと頭に軽く叩きつけながら話始める。骨のぶつかる軽い音が周囲に響く。


「うーん……だいぶ昔の話なんだけどね、他人の能力値を数値化しようって魔法の研究が流行ったんだよね。他に人も乗っかって、もう一大ブームって言うか、一部は国を挙げての研究みたいになったのさ。色んな研究者がそりゃもう色んな鑑定魔法を作り上げたんだよね。他人の強さが数値化できれば目安になるから画期的だって。」


「なんだ、魔法あるんじゃん。さっき無いって言ってたのに。」


「いや、そりゃ魔法自体はあるよ。でもね、結局はその魔法って失敗に終わったんだよねー。使える人はいると思うけど、今はもうほとんど使われないんじゃないかな。」


 失敗? 魔法が作られてステータスがあるんならそれは成功しているんじゃないだろうか。やけにもったいぶった言い方をしているが、首を傾げながら頭をトントンと指でたたいているので、もしかしたら思い出しながら喋っているのかもしれない。それくらい古い話と言う事だろうか。


「何があったのさ。」


「いやね、国同士で好き勝手に鑑定の魔法を作ったから何と言うか……ある国では対象の筋力を数値として表示して、ある国では筋力ではなく武器を持った時の攻撃力を数値として表示してとか……とにかく規格も統一されなかったんだよね。そもそも、数値の1の基準をどこに設けるのって言うのすら、国ごとにバラバラでさ……。」


「おぉう……それは何と言うか……」


「力の話になったから続けると、力の数値を一つとっても、その数値は重い物を持てるという事の数値化なのかとか、じゃあ林檎を1個握りつぶせるくらいの握力を持った人間の力と、重い物を長時間支えられる人間の力はどっちが上なんだとか……。とにかく、それぞれの国の研究者が作った魔法ごとにバラバラと言うか、作った人間の好みで表示内容とかも違っててさ……。んで、うちの鑑定方法こそが正しい、いや違ううちの国の方が正しいとか言うので揉めたんだよねー。」


「なんか、どこも一緒なんだなそう言う話って。」


 自分達で規格を作って、それが世界標準になるまでと言うのはある意味で研究者や開発者の夢じゃないだろうか。夢と言うと言いすぎかもしれないが、自分が携わったものが世界中の人間に認められたものだということに気分を悪くする人はいないだろう。料理に例えると、最初の開発者の名前が付いたり、元祖と言われている人は後々まで語り継がれるような人がいっぱいいる。


 そういうチャンスを逃すまいとする人は多いだろう。新しい事となるとなおさらだ。


「戦争寸前まで行く国まで出てきたからねぇ。」


「そんな大事になったの?!」


「そ。だからね、当時の国同士のトップや神様やらが集まって話し合ったんだよね。」


 そんなに揉めたということは……話し合ったところでステータス自体がそもそも無くなりそうだけど。むしろそんなことになったら禁止されそうな気がするけど、結局は無くなっていないんだよな。どうやって解決までこぎつけたんだろうか。

 いや、そもそも……話し合いに神様まで出てきたって……。


「今なんか、サラッと言ったけど神様っているの?」


「いるよ普通に。色んな国に色んな神様が住んでて、普段は人生をエンジョイしてるよ。」


「神様なのに人生って言うの?」


「じゃあ、神生って言えばいいのかな? 音の響きは一緒だけど。まぁ、呼び方はどうでもいいよね。」


 うん、まぁ、確かにどうでもいいと言えばどうでもいいけど。どうやら神様は普通にいる世界観の様だ。魔王さんの国にもいるんだろうか、神様。興味はあるけど……俺なんかがあったらすぐに消し炭にされるというか、あまりに恐れ多くてストレスで胃に穴が開きそうだな。

 まぁその辺は、そのうち聞いてみよう。縁があったら会うこともあるだろうし……常識人だと良いなぁ神様……。


「ちなみに、神様は結構な変人が多いから、ジム内で会ったら気を付けてね。」


 ……どうやらジムにも神様は来るらしい。しかも、常識人だと良いなとか思っていたら先手を打たれて変な人だと言われてしまった。骨ヤンより変な奴じゃないと良いけど。良い奴だし友達だけど、絶対こいつは変な奴の部類だと思う。

 まぁ、でも会う機会なんて早々ないだろう……と、こう考えるのはなんか逆にフラグっぽいな。


「んで、話を戻すけど。トップで話し合いをした結果、鑑定魔法は各々の好きにやって作ってもいいけど、国際的な基準とか公的な手段は国の連合と神様達で作ることになったんだよね。もちろん、今までやってきたことが無駄になるって、文句も色々と出てきたけどさ、そこは長い時間をかけて浸透させていって、今ではそっちがちゃんと基準になってるよ。」


 なるほど、確かに上の方で基準を作ってしまうのであれば、後はそれを浸透させるだけか……。でもすり合わせとか揉めそうだなぁそれ。確かに一度浸透してしまえば、それを覆すのも困難だし、よっぽどの意思が無ければそれを覆そうとも思わないだろうけど……。当初は色々と諍いや問題はあったんだろうな。それについては、今はもう想像するしかないんだろけど。

 あれ? でもそうなると、やっぱり鑑定魔法って言うのはあるってことになるんじゃないか?


「じゃあ結局さ、さっき失敗したって言ってたけど魔法としては成功したんじゃないの?」


 個人で作った魔法、国で作った魔法は失敗したのだが、神様が創った魔法が浸透したというのであればそれはもう立派に成功だろう。使える人間はいるとも言っていたし、それなら立派に成功だろう。


「いや、結局は魔法としては失敗だったんだよ。なんせ神様達が創ったのは魔法じゃなくてステータスを鑑定するための道具とかだからね。魔法を期待していた人達はがっかりしたけど、作った神様達曰く「勝手に他人に自分の情報みられるって気持ち悪くない?」って言う事で、特殊な道具って形に落ち着いたんだよね。」


 なるほど、魔法ではなく道具か。そこはでも魔法として浸透させても良かったような気がするが、結局、トップの好き嫌いでどうするのかが決められてしまったのだろう……。確かにプライバシー的には気持ち悪いという気持ちはわからないでもない。

 そういう意味なら魔法としては失敗したんだろうな。しかし、骨ヤンはずいぶん内部事情に詳しいな。結構有名な話なのだろうか。それとも……まさか当事者として参加してたのかな?


「ずいぶん詳しいね。」


「婆ちゃんがその集まりに参加してたらしくてさ、話を聞いたことあるのよ。」


 なるほど、骨ヤンが参加してたわけでは無く参加していた人から聞いてたから詳しいのか。しかも、キュウビさんのことだから骨ヤンには滅茶苦茶詳しく話してそうだ。めっちゃ可愛がってるから言っちゃいけないことまで言ってそうだ。……キュウビさんは結構長生きみたいだし、色々と話が聞けたら面白そうだな。色んな経験しているだろうし。話してくれるかはわかんないけど。


「ちなみに、どんな道具を使ってステータスの鑑定をするのさ。」


「えっとね……身長と体重と、それから筋量とか体脂肪とかを魔法で測る道具でしょ。後は力の測定とか、視力や聴力の計測……それに血液から身体的な病気の有無を見極めたりとか、将来の病気の予防とかを判定する道具とかもあったかな。後は骨密度を量ったりとか、内臓に腫瘍ができてないか魔力で調査するための道具とかもあるね。鑑定の結果はステータス表として後日に専門の鑑定士から送られてくるんだよね。伸ばした方がいい部分のアドバイスとかも載ってて面白いよ。今度、俺のステータス表持ってこようか?」


 楽しそうに話してくれる骨ヤンだが、なんだかその説明の内容にはひどい既視感を覚える。具体的には会社で年に一回やるアレを連想する。ステータス表はちょっと気になるので今度見せてもらうとするが、絶対これ、アレだよね。


「……それ、似たようなのこっちにもあるんだけど。」


「そうなの?でも魔力量を量ったりとか、後は魔力の質や衰えが無いかとかそう言うのを量る道具は無いでしょ?俺なんかいっつもこの魔力の測定が苦手でさー。特殊な薬を飲んで全体の魔力を常時身体に廻らせなきゃいけないんだよね。俺、魔法使えないからさー。」


「お前が魔法使えないって言うのもビックリだけど……その測定って、どれくらいの頻度でやるの?」


「年に二回かな。夏と冬に一回ずつ。希望者はちょっとお金かかるけど全身の精密な測定もできるよ。所属している団体が補助金出す場合もあるし、高齢者ほどやってるかな。俺は普通の測定で十分だからやってないけど。生まれてこの方、風邪ひいたことないし。」


 そりゃまぁ、骸骨のこいつが風邪ひくことなんてそもそもあるんだろうかと言う疑問になるだろう。いや、そんな事よりも、やってる測定って……。


「……それは所謂、健康診断と言うのではないだろうか?」


 なんだろう、このがっかり感は。ステータス鑑定とか聞いてたのに、非常に身近なものが出てきてしまった。もうちょっとこう、わくわくする話なのかと思ってたのに勝手に裏切られた気分になってしまう。


「俺達はステータス測定って言ってるけど……健康診断って言われると確かにその通りだね。健康を診断するってのは良いね。今度そう言う呼び方してみるかな。姉御に言ってみようかな。」


 俺の一言で名前だけでもファンタジー感があったものが、一気に現実感と言うか、俺の身近にあるものになってしまいそうだった。せめて名前だけはファンタジー感を保っていてほしかったのに……余計な事を言ったとちょっと後悔する。

 ……しかしそうか、骨ヤンの世界ではステータス鑑定は健康診断なのか……。魔力とか言ってるからこちらの世界とは違う力で測定しているし、内容とかもある程度は違うんだろうけど、それでもなんだか夢が崩れた気分になってしまうなぁ。我ながら勝手だとは思うけど。


「なんだー……てっきりステータスカードとかあって強すぎるよ人は異常な数値になるとか測定不能とでるとか、何と言うかロマンあふれる表記とかされると思ってたのに。」


「いや、ステータス表はあるから今度持ってくるって。それに、測定不能なんて数値出たら即入院で精密検査だよ。重大な病気が隠れている可能性があるんだから。」


 俺が言ってるのはそう言う事じゃないのだが、いまいちニュアンスが伝わらない……と言うか、ますます健康診断だなそれ。確かに異常な数値が出たら精密検査だけど……俺もこないだ肝臓の数値で二次検査受けたし……。

 あからさまに消沈した俺がため息をついていると、慰めるように骨ヤンは俺の頭をポンポンと軽くたたいてくる。あやされているみたいで少し恥ずかしいので、俺はその手を乱暴に振り払う。


「何を期待してたのか知らないけど、そんながっかりしないでよ。ほら、ロクヤンの世界だって同じようなのがあるなら、それはもうステータス測定じゃない。つまり、ロクヤンの世界にもステータスはあるってことじゃない。こんどロクヤンのステータス表も持ってきてよ。俺も持ってくるからさ。」


「……えー……俺の健康診断の結果を見たいの?あんま良くないんだよね結果……。」


「いいじゃん、次のステータス測定までに良くなるように頑張れば。その辺はきっと、どこの世界も一緒だよ。」


 健康診断結果をステータス表と言われると、二次検査を受けた俺のステータスは非常に悪いということになるのであんまり見せたくないなぁ……。いや、二次検査受けたってことは常にステータス異常が続いているってことなんだろうか。

 でも、言われてみると学校の成績や健康診断がステータス、各種資格がスキルだと考えると、結構こっちの世界にもステータスってのは溢れてるのかもな……。そう考えると、我ながら単純かつ子供っぽいと思うが少し楽しくなってきた。


 差し当たって、次の健康診断までにステータスが良好になるように頑張ろうか。

久しぶりのこっちの更新です。

最近、病気した時に色々思いつきました。

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