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5.幽霊の子供達と出会う

「てなことがあったんだよね。」


 キュウビさんの部屋からおいとました俺は、骨ヤンとの約束通り食堂に来て飯を食いながらキュウビさんの部屋であったことを向かいに座っている骨ヤンに説明していた。

 周囲に客の姿がまばらで、あまり混雑していないこともあってか骨ヤンは料理を持ってきてそのまま俺の向かいに座ったので、そのまま流れで状況報告をした。


 伝えたのは骨ヤンと仲良くしてやってくれと言われたことと、キュウビと呼んでいいということを言われたという事だけだ。キュウビさんが俺に謝罪したことは伝えることはしなかった。


 ちなみに今日は唐揚げ定食を食べている。今日は何を食べようかと悩んでいると骨ヤンがわざわざ横に来て「今日は俺が唐揚げの下ごしらえしたんだよねー。揚げ物の練習もいっぱいしたんだよねー。」と露骨にアピールしてきたので、唐揚げ定食を注文することにした。ダイエット中だが仕方ない。


 大ぶりの唐揚げが八個も皿の上に乗っている定食は非常にボリュームがあるが、すきっ腹もあって軽く完食できるだろう。皿の上にはキャベツの千切りにトマトとキュウリも乗っている。それとご飯、ワカメの味噌汁、白菜の漬物が付いてきていた。

 これが無料で食べられるというのは感謝しかないので、手を合わせて色々な人に感謝しつついただきますと宣言した。唐揚げは胸肉の物が四つ、腿肉の物が四つと部位の違うものが混ざっていて、味の違いが楽しめる。味変のためかタルタルソースと酢醤油も別添えで付いてきており、二つ組み合わせればチキン南蛮風にもできるという非常に嬉しい定食になっていた。


「はー……婆ちゃんにそんなこと言われたのか。」


 骨ヤンは頬杖を突きながらなんだか感慨深そうにつぶやいた。なんだか少し嬉しそうに見えるのは、俺が自身の保護者のような人に少しは認識されたのを安堵してくれているのかもしれない。

 俺はそんな友人の姿を見ながら、まずはどの唐揚げを口に運ぼうか思案する。作り方の違いなのか胸肉は少し薄い茶色の衣で、腿肉は濃い茶色の衣なので見た目で判別が可能だったので、最初は胸肉の唐揚げにかぶりつく。サクサクとした衣の軽快な音が口中で響き、あっさりとした胸肉だがその肉からは肉汁が口の中に広がっていった。昔、自分で唐揚げを作った時は肉がパサパサになってしまったが、これは柔らかくジューシーに仕上がっており肉のパサつきは一切感じられなかった。

 そして、肉が口の中に残っているうちに白飯をかきこんで咀嚼する。……非常に幸せな気分だ。


「美味いなー、この唐揚げ。」


 付け合わせのキャベツを口に入れつつ、俺は唐揚げの感想を口にした。キャベツには和風のドレッシングかかかっており、唐揚げの口直しにぴったりだった。確か、キャベツって油物の胃もたれも防いでくれるんだっけ?だからトンカツとかにもキャベツが付いてるとか昔聞いた覚えが……。


「美味い?! ほんと?! 良かったー!!」


 俺の感想を聞いた骨ヤンが、両手をテーブルに叩きつけながら勢いよく立ち上がる。骨が叩きつけられた鈍い音と椅子が倒れる音が同時に響いた後で、俺は目を丸くしてそちらに視線を送る。罰が悪そうに骨ヤンは椅子を元に戻して周囲に騒がしくしたことを謝罪していた。

 席を戻して座り直すと、一つ咳払いをして仕切り直した。……そう言えば下ごしらえをしたと言っていたけど、この喜びようから察するに唐揚げを揚げるのも骨ヤンが自分でやったのかな?


「うん、美味いよ。凄いうまく揚がってる。」


「よかったー。謹慎中って暇だからさー、料理の練習を一杯したんだよね。ロクヤンの定食は全部俺が作ったんだぜー。」


 やっぱり自分でやっていたようだった。もしかしなくても、俺より料理うまいなコレ。普通に店に出せるレベルにまでになっていると思う。腿肉の方は衣の色が若干濃い。味もほんの少し異なるようだ。塩唐揚げと醤油唐揚げの違いだろうか。先ほどの胸肉よりも味が濃く、噛むと肉汁と油の甘みが口いっぱいに広がる。

 味付けも良いが、使っている鶏肉の質が普段俺が口にしている物よりもずっと上等なんじゃないだろうか。また特殊な鶏肉なのかな?


「これ、肉も美味いね。普通の鶏肉なの?」


「あー、それね。騒音鳥って言う鳥の肉ね。別名、眠害鳥。おばちゃんが狩ってきた肉ね。」


 またアラネアさんが狩ってきた肉か。名前からしても普通の鳥じゃ無いなそれは。俺が唐揚げを食べ続けていると骨ヤンは得意気にその鳥についての説明を始めてくれた。なんだか得意気だが、狩ったのはアラネアさんだろうに。いやまぁ、それくらいはこいつもできるんだろうけど。


「皆が寝静まった真夜中に大絶叫するのが好きな鳥でね、寝ている人を起こすと興奮して更に大絶叫するんだよ。首が三つあってそれぞれの首から異なる不快な音を出してとにかく何としても人を起こそうとして……街中に出没したら倒せる実力を持った人が居ないとその日は徹夜決定になるんだよね。寝ずの番をしなきゃいけない時とかは重宝される鳥なんだけどね。」


「嫌な鳥だな……。」


 前に聞いた豚と同じく、こいつもはた迷惑な鳥だった。安眠妨害が大好きな鳥って、夜型の人には良いかもしれないけど、そうじゃない人は殺意が湧くだろうな……。

 今回の鳥は、何とアラネアさんが住んでいる家の周囲に出没したそうだ。そして、就寝中にたたき起こされたアラネアさんは怒り狂い、その鳥を即座に倒して食堂で提供することを決めたという。

 そんなはた迷惑な鳥も、料理すれば美味な鳥料理に早変わりと言う事だから驚きだ。

 まだ二種類しか味わっていないが、もしかして骨ヤンの世界では迷惑な動物ほど美味なのだろうか?豚、鳥と来たから次は牛肉を食べてみたいものだ。


 そんな感じで雑談しながら食事を続けていたのだが、一向に骨ヤンは厨房の方に戻る気配は無かった。こんだけ長い間サボってても良いのだろうかと思いながらも、一人で食べるのもなんだか味気ないのでその事には特に突っ込まずにいた。

 そして定食を全て食べ終わり、食後にお茶を飲んでホッと一息ついたときに俺はそれを見つける。それは、骨ヤンの背後から徐々に徐々にこちらに近づいてくる黒い煙のような塊だった。その塊が三つ、白い何かをぶら下げながらこちらへと近づいてくるのが見えた。なんだろうかあれは。

 一瞬、目の錯覚かまたは目の中に見えるゴミなのかと思い目を擦ったり軽く押したりするが、目の錯覚ではなく確かに存在するその黒い煙の塊は、左右にふらつきながらも徐々にこちらに向かって来ていた。


「……?」


 俺が視線を後方に向けるが、骨ヤンは俺の視線にも後方の塊にも気づかずにペラペラと喋っている。内容は主に今日の料理についてのポイントとか、明日作る予定の料理の話だ。どうもここ数日ですっかり料理にはまっているらしい。

 そのうち、その塊は骨ヤンの真上にまで到着し、自然と俺の視線はその塊を見上げる形となる。そこまでするとさすがに気がついたのか、骨ヤンもそのまま顔を上げて自身の真上を見た。


「なんか……あぶっ?!」


 上を見た骨ヤンの顔面に、その黒い三つの塊はぶら下げていた白い塊を投下した。重力に逆らわずに真っ逆さまに落下したそれは骨ヤンの顔面に落ちるとそのまま少しがさがさと音を立てて見事に顔面に鎮座する。

 絶妙なバランスで顔面に乗ったままのそれを、骨ヤンは落とさない様にゆっくりと持ち上げてテーブルの上へと移動する。それはよく見ると何の変哲もない普通のビニール袋だった。

 ビニール袋がテーブルの上に置かれると、今度は三つの黒い塊が骨ヤンに纏わりつきながら降りてきて、ビニール袋の周りを旋回しながら浮いていた。

 ……なんだろう、新手の虫だろうか?俺がそう考えていると、黒い煙のような塊は、周囲に煙を漂わせながら徐々に形を小さな子供のような姿に変化させていった。


『ライカさまー。これたべていーい?』


『これおかしだよねー?』


『おかしーたべたいー。』


 変化した姿はワンピースを着た小さな子供のような姿だったが、その全身は真っ黒であり、服に見える部分も手も足もまるで影の様に黒く、顔に当たる部分には目も鼻も口も無く、その頭部からは表情は何も読み取ることができなかった。

 全て共通の色と形をしている塊だが、髪型と思われる頭部の造形だけは異なっており、それが三つの塊を判別可能とする記号なのかと思った。それぞれ、ポニーテール、三つ編みおさげ、ボブカットとなっている。


「あー、お前ら―。俺のお菓子勝手に持ってきたのかよー。」


『ライカさま、サボってるからたべていーいってアラネアさまがー。』


『でも、かってにたべたらライカさましょんぼりするかとおもってー。』


『だからきいてからたべようとおもってもってきたー。』


 黒い子供達はぷかぷかと浮かぶと、白いビニール袋をたどたどしい仕草で開けて中身を広げる。中身は、先ほど会長さんの部屋から骨ヤンが持っていったお菓子だった。骨ヤンは開けられた袋を自分の手元に寄せると、隠すように抱え込む。抱え込んだ瞬間に黒い子供達は抗議するように骨ヤンに対して纏わりつく。

 頭部のハート形の穴の中に入ったり、肩に乗ったり、服を引っ張ったりとそれぞれが思い思いの抗議活動をしているようだが、骨ヤンは微動だにせず動じた様子も全くなかった。大人げない……。


「だめー。これはあのお兄さんが俺にくれた物なの。ほしかったらあのお兄さんからもらいなさい。」


 袋を守るように抱えたままで、骨ヤンが俺を指差した。別に俺があげたわけじゃなくて、キュウビさんの部屋から適当に持ってきただろうがお前……。俺に矛先変えてきやがったな……。

 黒い子供達はそのままふよふよと俺の方へと移動してきて、今度は俺に纏わりつく。触れた部分に少しひんやりとした感触が伝わってくる。なんとも言えない感触……冷たい霧に触れた時に近いだろうか?触れた場所が濡れたように感じるが、それは温度が奪われたことによる錯覚のようで、特に水滴などは付いていなかった。


『おにーちゃん、わたしたちにもちょーだい。』


『おかしたべたいー。』


『おかしー。』


 俺に纏わりついてきた黒い子供達は丸くなったり人型になったりと俺の周囲をせわしなく回っている。時折、身体にぶつかったり頬に当たったりしてきたのだが特に衝撃らしい衝撃は無く、ただひんやりとした感触が押し当てられるだけだった。

 なんか小動物がじゃれついてきているみたいで少し可愛いとも思うのだが、表情も何もない人型の黒い塊と言う点が少し怖くもある。


「骨ヤン、この子達ってなんなの?」


「その子たち?幽鬼族の子供達だよ。幽霊の子供だよ。」


 俺の周囲に纏わりつくのはどうやら子供の幽霊の様だ。喋り方もどこか舌ったらずだし、幼い印象も受けていたので予想通りと言えば予想通りだが、そうか……子供の幽霊か……。

 俺は三人の子供達をじっと見る。子供達は俺に見られるのが不思議なのか、三人揃って首を傾げていた。

何だろうな……こっちの世界でも子供が亡くなったニュースとか見て痛ましい気持ちになるけど、こういう風に子供が幽霊になっているのを目の当たりにしちゃうとなんかこう……涙腺に来るものがある。


 この子達は甘い物なんて碌に食べる間もなく死んじゃったんだろうか。だから今回、お菓子を見つけてねだっているんじゃないだろうか。そう考えると骨ヤンはなんて冷たいんだ。食べたいと言っているんだから少しくらいは分けてあげればいいのに。

 いかん、ちょっと涙目になってきた。年取ると涙腺がもろくなっていかんな……。


『おにーちゃん、どうしたのー?』


『ないてるのー?』


『なかないでー。』


 三人は涙目になりながらも涙をこらえていた俺に近づいてきて、そのちっちゃな手を俺の頭に乗せて慰めてきてくれた。そんな事をされると逆効果で、俺の涙腺は一気に決壊してしまう。自分達も辛かっただろうにこうやって他者を思いやれるなんて、なんていい子たちなんだ。


「え……ロクヤン……なんで泣いてるの……?」


 逆に骨ヤンは俺が泣いていることに対して引いている。子供達はこんなに優しくしてくれているというのに……。我が友人ながら情けない。よし……お菓子を子供達にも分けてやろう。

 俺は骨ヤンが大事に抱えている袋をゆっくりとした手で引き抜く。俺のその行動の意味がわからないのか、骨ヤンは首を傾げながら俺の方を黙ってみていた。そして俺は自分の手元に来た袋を開けると、子供達に微笑みながらお菓子を差し出す。


「さぁ、好きなだけお食べ。」


「ロクヤン?!」


 抗議の声を無視して俺は子供達にお菓子を差し出すと、子供達は最初はおっかなびっくりと言う風に手を伸ばしてはひっこめるを繰り返す。今回はチョコレート系が多かったので、俺は一つ封を開けて丸い形のチョコを一つポニーテールの子供の手に乗せてあげると、その子は恐る恐ると言った体でチョコを顔の口に当たるであろう部分に押し当てた。

……真黒いからよくわかんないけど、たぶんあそこが口なんだろうな。位置的にも普通の人間と同じだし……。チョコを食べたであろうポニーテールの子の尻尾の部分がぶんぶんと揺れているのでたぶん喜んでいるんだろう。俺はそれに続いておさげの子とボブカットの子にもチョコを渡してあげると、二人とも喜んでそれを食べていた。

 一つ食べて緊張がほぐれたのか、子供達は色々なお菓子を次々に口に運んでいく。三人で争うような姿勢は見せず、自分が食べた者が美味しければ他の二人にも勧めるという実に優しい子たちだ。


「生前に食べれなかったんだ、せめて今はたんと食べると良い……。」


 おそらく嬉しそうに、美味しそうに食べている子供達を見て俺は一人涙を流しながら何回も頷く。そんな俺を見て、骨ヤンはため息を一つついた。そちらに視線を送ると、頬杖を突きながら俺を見ている……なんだか呆れているように見えるのは気のせいだろうか。


「ロクヤン……誤解しているようだから言うけどこの子達は「子供の幽霊」じゃなくて「幽霊の子供」だからね……生前とか言ってるけど幽霊の種族の子供達だから、生前なんてないからね。普通にこの子達、両親居るし。」


 ……なんだ、死んじゃった子供はいなかったのか。良かった良かった。


 じっとこちらを見てくる骨ヤンの方は見ない様にして、俺は心の中だけで安堵する。どうやら大きな早とちりをしていたようなのだが、骨ヤンが大人げなく子供達にお菓子を分けてあげなかったりしたのだから、良い事をしたのだと俺は自己弁護を自分の中でする。


「俺のお菓子……。」


 流石にこの状態で子供達からお菓子を取り上げることはしないようで、恨めしそうに人差し指を口元にやって骨ヤンは俺を見てきている。声も沈んでおり俺の罪悪感に強く訴えてくる。

 うん……まぁ、俺も悪かったか。元は俺が買ったものとはいえ勝手に全部あげちゃって……。ここは素直に謝罪しておこう。


「……ごめん、また買ってくるから。」


「……タルト付けてくれたら許す。」


 ちゃっかりと追加報酬を要求してきたが、今回はそれを飲むしかないだろう。俺は黙って静かに頷くと、骨ヤンは満足そうに親指を一本立ててサムズアップしてきた。泣いた烏がもう笑いやがった……。

 はぁ……余計な出費が出るが仕方がないか……。

今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。

活動報告を初めて記載してみました。今回は、三作品同時更新をしております。

良ければ私の他の作品も読んでいただけましたら幸いです。


もしもお気に召したり、続きが気になるという方がいましたら、評価等いただけますと非常に励みとなります。私のモチベーションも上がりますので、良ければよろしくお願いします。


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