市街地の騒動
騒ぎの大元となっている場所にたどり着いた。
そこは人が最も集まる中央広場の市場だった。
そこで騒ぎを起こしていたのは、
かなりの数の魔物だった。
魔物と言っても野生動物に近く、
人を襲うことはめったにないはず……
第一、魔物が人里に近づくことさえないのに、
こんな町中に入り込むなんて……
「おかしいよこれ、この魔物…… 瘴気に侵されてない?」
主に野生動物と魔物の線引きは、
人に対して圧倒的に殺傷能力があるかどうかである。
しかし、基本的には大人しい動物なようなものなので、
襲ってくることはない、
だけど、瘴気に侵された魔物や動物は、
人を襲う習性がある。
『アルス、これ使って!』
市場で売られているお鍋のフタと解体用のナイフを拝借してアルスに手渡し、
そして私はチャーム化したアトランティスを元の大きさに戻した。
私達の持ち物で私が一番絵面的にエグイ……
なんていったって、大鎌だからね……
『私が攻撃魔法で攻撃するから、
アルス、ちょっときついかもだけど、
前に出て私達で敵を挟むように立って、
敵を挑発し続けて注意を引き付けて!』
「ああ、わかった。やってみる!」
『シナモンは回復魔法使えたよね?
アルスの体力が無くならないようにヒールかけてて、
オーバーヒールすると敵のヘイト稼ぐから注意して!』
「OK」
ちゃんと伝わったかな?
『ごー!』
私の攻撃魔法はただ単純に撃てばいいというわけではなく、
射線、効果範囲を考えながら詠唱しなくてはいけない。
普通のゲームならば効果範囲に味方がいても何ともないんだけど、
この世界では効果範囲内にいれば、
術者も味方も普通に巻き込まれるらしい。
ん? そういえば私、
攫われた時にすごい爆発起こした気がするけど……
なんで無事なんだろう?
「おい、カナタ! 攻撃早くしてくれ!」
『ごめんごめん!』
考え事にふけってしまって出遅れた……
私が今使えるのは基本の四つ、
ラルフおじさんは呪文を一回しか教えてくれなかったけど、
うん…… ちゃんと覚えてる。
アルスはしっかりと立ち位置を考えて行動してくれる、
おかげで私は射線を気にすることなく魔法が撃てる。
そしてシナモンもバランスのいいヒールロールをこなす。
これなら確実に数を減らせる。
「それにしてもおかしいね……」
『そうだね…… 衛兵がこない……』
市街地でこれだけ大騒ぎになっているのに衛兵が一人も来ない……
それでもこの魔物達は食い止めなくちゃ……
それにしてもさっきからそれなりに倒してるはずなのに、
数が減る気配がない……
「おい、カナタ! 向こうに変な壺があるぞ!」
確かに魔物の真ん中に異様なオーラを放つ毒々しい色の壺が置いてある。
そして、その壺から次々と魔物が飛び出してくる。
『なにあれ……』
こういう場合は潰すのがセオリーなんだけど、
あれは入ってるものが出てきているように見える……
ということは……?
「カナタ、どうする? 壊すか?」
『壊すの待った! これはたぶん、壊すと中の魔物が一気に出てくるタイプ!』
「じゃぁ、どうする?」
『街の外に持っていければそれがベストなんだけど、
今の現状じゃちょっと無理……
どうしたもんかなぁ……』
打ち止めまで戦う? たぶん、体力的に無理……
私はまだ大丈夫だけど、アルスやシナモンの息が荒くなってきてる……
「カナタ、そろそろマジできつくなってきた……」
『ごめん、もうちょっと我慢して……
なにかいい案が……』
私の視界にワインが入る。
『あれだ!』
目的のワインは私から見るとアルスを超えてさらに向こう側、
魔物の中を突っ切っていかなくちゃいけない……
やるしかないか……
『解決方法みつけた! もうちょっと頑張って!』
「わかった! なんとか頑張る!」
私は大鎌を構えて走り出す。
武器の大鎌の扱いなんて習ったことないけど、
ていうか、武器さえ持たせてもらえなかったけど、
記憶にあるイメージで武器を振り回す。
見よう見まねではなく完全な想像しかないのだけど、
思いのほか魔物をサックリ斬れている。
しかし、私が前に出たことで、
私に数匹の魔物が寄ってくる。
そして魔物の攻撃が当たるとこれが地味に痛い……
前衛できるかも? と思ったけどこれではちょっと無理……
攻撃に耐えながら周りの魔物を片づけ、
なんとかワインのボトルに手をかけると、
コルクスクリューを使ってコルクを抜……
『けない……』
硬くてびくともしない……
周りに大人の人…… いない!
どうする?
『ごめんなさい!』
私は高そうなワインの口を石で殴った。
取れたコルクにはまっているワインボトルの口のガラスを、
もう一度石で砕いてコルクだけにした。
『アルス! これで栓をして!』
私はコルクを投げてよこした。
アルスはコルクを受け取り、
壺に向かって走り出した。
私は壺の周りに群がっている魔物に向けて魔法を放ち、
できる限り数を減らすことにした。
アルスが壺に手をかけコルクでふたをする、
その間も射線に気を付けながら周りの魔物を片づけていき、
壺にコルクで栓をしたことで魔物の追加召喚がとまり、
残りの魔物を一気に畳みかけた。