翼竜の最後の別れ
幼馴染みのミスルタは、元気がなさそうだった。
不安だろうか、と。
いつまた、戦いが始まるかは、わからない。
彼女は、僕にパンを作ってくれたみたいだ。
パンを取りに行こうと後ろを向いた時、
わかった。
ミスルタの背中、白い衣服に滲んだ、血。
ミスルタ…
鞭で打たれた様に見える。
僕は、この時、自分の全身の血が一瞬で、熱を失ったかの様に、とても冷たく感じた。
誰だ。
誰が、やった。
ミスルタは、教えてくれない。
気にしないで、欲しい、と。
僕の、せいだ。
貴方のせいじゃない、と言われても。
真実は変わらない。
気づいて、いるんだよ。
竜の信仰する国に、僕の様なあだ名を持った者は、不要なんだ。
そんな事くらいは、
僕だって、わかっている。
ウイプル王国を、守っても、きっと。
僕が、ミスルタと会わなければ、これ以上、傷つく事がないだろう。
僕が去ろうとした時、ミスルタが背後から抱きしめた。
貴方は、立派な…
ドラゴンバスターなんだ、って。
君も、その言葉を使うんだね。
本当の事だから、
仕方がない。
それでも、
涙が流れた。
ジスエルの10日
自分の部屋にて
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アルハープ平原に呼ばれた気がしたのは、気のせいじゃなかった。
久し振り。
力強い翼は、今も健在なんだね。
淋しそうな目をしているのは。
わかっているよ。
さよならを言いに来たんだね。
ありがとう。
君は、優しいね。
赤い翼竜、ベルベッタが会いに来てくれた。
僕とは、仲が良かった。
ベルベッタは頭を垂れて、僕に頭を触らせた。
僕を。
まだ、
信用してくれるんだね。
ドラゴンバスターと呼ばれた、
この僕を。
ありがとう。
遥か遠い竜の国で、幸せに。
ベルベッタ、さようなら。
ジスエルの11日
アルハープ平原にて
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ドメイル教信仰国の聖バハール王国が、マッドク王国に侵攻している。
聖戦。
王城で、騎士長アーマンと副騎士長ハルガルドが、国王と話をしている。
隣国のコーリオ王国とは、不可侵条約を結んでいる位だから、仲は悪くない。
コーリオと手を組み、ドメイル教信仰国に対抗できる様にする、という話は、何回かしているらしい。
今回も、それだろうか。
僕が、日記を書けているのは、お母様のおかげだ。
幼い頃から、文字の勉強は多かったな。
日記を書く様にと、言われて、嫌々書いてきたけど。
心の重さを、日記と分かち合う。
そんな気がしている。
僕と同じ年の人でも、書けない人の方が多い。
でも、ミスルタも書けるみたいだ。
船舶の商人モリアンテ家の娘だから、当たり前か。
両親が普段からいないけど、淋しそうにはしていないな。
日記を書いているからか。
ジスエルの12日
自分の部屋にて
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