マッドク王国
マッドク王国からの使者が、僕らの国へやって来た。
ウイプル兵の誰もが、険しい表情をしていた。
当然だ。
先の遠征で、かつてウイプル王国領だったセケメント地域の奪還作戦を行い、半ば成功している状況。
ただ、今のセケメント地域を領土としているのは、マッドクだ。
マッドク王国は、セケメント地域に対して、現地組織のアルタイ岩頭院に統治を任せ、その組織をマッドクが管理するという、間接的なやり方をしている。
マッドク国王の耳に入るのに、時間がかかっただろう。
リガード竜騎士団のハルガルド副騎士長が、僕の目を見て、そして逸らしていた。
不安だろうか。
そうだろうな。
残念だが、竜は死んだ。
この騎士団についた竜という名は、飾りに成り果てたのだから。
サビィエルの8日
ウイプル王城にて
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幼馴染のミスルタが、この間一緒に食べた物は何か知っているかと、訊いてきた。
木の実。
いや、あれは僕が見つけて、1人で食べたのか。
渋くて、まずかったな。
一緒に食べたのは、パンか。
いや、パンじゃないな。
思い出そうとしたけど。
わからない。
コメコロだと、言った彼女。
ふっくら柔らかくて何かほんのり甘い、口の中で溶けてなくなる様な食べ物。
コメコロっていうのか。
そうか、と。
また、食べたいな。
サビィエルの9日
サイダルの集会場にて
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マッドク王国からの使者が、またやって来た。
この間は3人、
今回は、10人。
その内、軽装兵が7人。
リガード竜騎士団の副騎士長と僕が、彼らの後から続いて、国王謁見の間へ入った。
謁見の間にいる国王の横には、リガード竜騎士団騎士長アーマンが備えている。
僕と副騎士長は、使者等の少し離れた後方で、控えた。
領土奪還へ動いたウイプルに対して、2度目の来訪。
先日にウイプル国王が使者に返した言葉に対しての、マッドク国王の何らかの回答を持ってきているのは、疑いようもなかった。
マッドク国王回答は、意外なものだった。
ウイプルへのセケメント地域の領土を返還、その条件として、このアルガレット地域全て放棄せよ、というものだった。
ウイプル民族発祥のこの地を、明け渡す訳がない。
これは、ウイプルにとって、屈辱的な発言だった。
馬鹿な事を。
マッドク王国は、小国のくせにと、見くびってきたのだ。
本当は、セケメント地域も、重要じゃないだろうに。
態度が、気に入らないんだろう。
マイクリーハ国王は、僕の名前を呼んだ。
こんな事。
卑怯だと思うだろう。
恨むなら、マッドクの国王を恨め。
僕は、使者等に背後から近づいた。
そして、腰にある長剣を鞘から引き抜く。
使者等の軽装兵に、剣を構える暇は与えなかった。
1人は背後から斬りつけ、2人目は、振り返ったところを、胸に突き刺した。3人目は、正面から十字斬りにした。
マッドクへの返答が、これだ。
国王は、僕の事を、伝えた。
そうだ。
そうだよ。
僕だよ。
サビィエルの10日
王城見張り台にて
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残りの使者は、逃げる様にマッドクへ帰っていった。
これでまた、戦が始まる。
これで、いいのだろう。
少なくとも、僕にとって。
外の訓練場でウイプル兵が、僕に期待していると言った。
そして、付け加えて僕の事を、、、そう呼んだ。
そう。
悪気はないだろうな。
だけど、苛立ちを抑えられず、僕はその兵を殴り飛ばした。
同じ騎士達に止められたが。
そうだよ。
僕が、やったんだ。
竜は、
僕が殺した。
サビィエルの11日
王城見張り台にて
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今日は、満月だ。
いつもより、月の明かりが多く、部屋に入り込んでいる。
僕が幼い頃、明かりが多く入ったおかげか、満月の時は、少し長めに話をしてくれた。
お母様。
日記は、書き続けているよ。
毎日ではないかも知れないけど。
そう言えば。
お父様に、生まれてから一度も会った事がないけれど。
あまり、話してはくれなかったね。
僕が幼かったから、気を使ったのかな。
今は、どうだろう。
今なら、話してくれたかな。
ねぇ、お母様。
やっぱり、
一人じゃ淋しいよ。
サビィエルの12日
自分の部屋にて
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