竜の信仰
ウイプル王国軍の北の遠征。
帰ってきたよ。
僕はこの遠征で、多くの兵を斬り倒し、そして生き残った。
しかし、この国はまだまだ小さい。
もう少し、領土を広げ、国も民も、もっと豊かにする必要がある。
でも。
それは、どうでもいいか。
15歳になって、戦闘に遅れを取る事も少なくなった。
この日記を書く事も下らないけど、まあいい。
お母様のくれた命だ。
望む様に。
サビィエルの3日
サンマータ王城見張り台にて
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国王マイクリーハが、王城の後ろにそびえるザンギント山の洞窟にある竜の祭壇にて、祈りを捧げている。
3年ほど前に、翼竜が死んだ場所だ。
その翼竜の魂がその身に宿り、戦で無敵の力を発揮する様にと訪れるという事だ。
都合の良い捉え方をしている。
ここに連れて来られると、耐え難い苛立ちと吐き気に見舞われる。
だけど、護衛の一人の僕が、この場を離れる事を許してはくれないだろうな。
それに、これは僕にとって、
罰なのだから。
サビィエルの4日
竜の祭壇近くの岩場にて
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石造りの家々を抜けると、草原が広がる。
幼馴染のミスルタが、薬草を取りに行きたいという事だったから、一緒に来てはみたけど。
暇だ。
僕は、町の番兵ではないのに。
幼馴染とは、便利なものを見つけたな。
でも、安らぐ時もあるから。
悪くはないのか。
そう。
悪くはないのか。
サビィエルの5日
フィルン草原にて
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僕の瞳の色は、緑だ。
皆と違う色と訊くと、何故僕が不機嫌になるのと訊かれるけど、不機嫌になるのが分かっているのなら、訊くなという事だ。
お前は、何故茶色の瞳をしているのか。
ウイプル人だから?
では、違う瞳の色をする者は、ウイプル人じゃないと言いたいのか。
だとしたら、何故僕は、ウイプルの騎士団として戦っている?
ウイプル人ではない、そう言いたいのならば。
それでもいい。
ウイプルなど、滅んでしまえばいい。
滅ぼしてしまおうか。
サビィエルの6日
バリエル岩場の家にて
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この大陸には、多様な宗教が栄えているが、ドメイル教を崇拝する国々は、聖戦という名を盾に、無益な戦争を繰り返す。
邪教国さ。
火の粉が降り懸からぬ内に、先手を打つべきだと、国王は思っている様だけど。
この様な小国が、今どうこうできる訳がない。
滅ぼされるだけだ。
この国ウイプルが、信仰しているのは、竜神だ。
明確な名前など、知らないだろう。
竜を信じているのさ。
本当は。
信じていないのさ。
サビィエルの7日
バリエル岩場の家にて