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サンキューユニバース ~異世界の救世主(メサイア)様は推しに愛されたいだけなのです!~  作者: 空泉でにむぶるー
第一章「迷える人生にさよならを」
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第三話 「繋がる運命」




「ぬわぁぁああああー!ちょっ、痛いって!」



 大樹の生い茂る葉は小さいもので手のひらサイズ。そして成人の身長並みの巨大な葉はトランポリンのように佳音を弾き地面へと導く。そのおかげで擦り傷は数か所できてしまっているが太い枝との追突を避けることはできている。

 ついに枝葉の群れから抜け出し、草原が見えた途端一直線に落下しスピードが増す。

 “神”の言う通り大樹に向かって落ちたもののさすがにただの人間である佳音は重力に逆らうことができない。

 どうすることもできないまま大の字の体勢で落下し続ける佳音はここにきて迫りくる死を意識する。



「無理っ・・・ぶつかる!」



 地面との感覚が数メートルとなったところで顔面を両手で覆いやってきたばかりの世界を閉ざす。


 衝撃はやってこない。


 佳音はゆっくりと目を開け自分の指の隙間から世界を覗くと目の前で雑草がこちらをつついてくる。

 すると身体はゆりかごに乗せられているかのように大きく揺れ上半身に締め付けられる感触。見ると腹部には焦げ茶色の蔓が巻き付いている。蔓をたどるとそれは天空から、ではなく大樹から伸びていた。

 無事であるのを確認する巻き付いている蔓は緩みと大樹と目が合う佳音を地面へ投げる。



「そんな雑な扱いしなくても・・・いや、きっとこれは助けてくれたってことなのかな。とりあえずありがとうございます、と。・・・にしてもこの樹、太すぎじゃない?小学校のグラウンドぐらいか?」



 元の世界で何者かに突き落とされてから今までどのくらいの時間が経過したのか感覚が鈍り、眠りから覚めるようにふらつきながら立ち上がる。見上げた先にはてっぺんが見えない程に巨大な大樹いるに向け佳音は手のひらを合わせ合掌をする。

 佳音は神々しい存在感を放つ大樹を見入っていたが「でも」と自然に口が開く。



「・・・なーんか見覚えあるんだよなぁ。このでっかい樹」



 護ろうとしているのかその周りは深い森林や草原が大樹を囲い一つの世界がここに完成している。外部からの音は一切遮断され耳の中を渦巻くのは草木を撫でる風の音のみ。元の世界でもなかなかお目にかかることはない。


 それでも佳音はこの景色を知っている。

 記憶を辿るがこの心当たりの原点に佳音はたどり着けずにいた。



――そういえば、神様も私がこの世界のことを『多少は知っている』って言ってたな・・・。なんで私は、知ってるんだ?



 思い出されていく“神”の会話や言葉。佳音の頭の中に潜む『多少は知っている』という身に覚えのない記憶が道の無い森に向かって脚を動かした。



 木立が密生し日差しはやってこない。聞いたことのない生物の鳴き声が深緑色の森を一層不気味に演出する。佳音は一つ一つの物音におろおろしながらも木々をかき分け早足で森から抜け出す。

 再び浴びる日差しに気持ちが和らぐ。前方には首都と呼べるくらいの巨大な街らしき集合された地域と水平線の先まで続く河川。そしてそれより手前には河川沿いにも塀に囲まれた街があった。



「やっと着いた。思っていたより遠かったな・・・」



 地上に近かった太陽も今では真上に位置している。

 森から見た時は低く見えていた塀も間近ではとても高い。


 この世界の情報源の頼りが一つ見つけることができ森を離れたばかりの時は期待感で速足になっていたのが疲労で脚がもつれてしまい佳音は街の入り口である門の横で座り込んでしまう。



 街の入り口へ目を向けると開場されている門を出入りする人々の半数が刀を持ち、甲冑のような鎧を身にまとった兵士と思われる者。それに一般人らしき者たちはハイカラな色合いの和服や洋服を組み合わせた服装をしていて元の世界の住人である佳音からすれば異様な光景だ。

 この世界では馬も存在するようで荷物を運ぶためか馬車も出入りしている。



――本当は、何かのドッキリでエスカレーターから落ちたあの時に気絶しちゃって実は神様との会話は夢で日本のどこかに置き去りにされちゃってましたー。っていうのをこっそり願ってたんだけど・・・。



「さすがにこんな街、日本にはないか・・・」



 佳音は石造りの門を潜ると塀の中は赤や茶といった暖色と白が組み合わさったレンガの建物が並ぶ。


 来たからにはとまずは少しでもこの世界についてを知るための情報を収集しようと佳音は人通りの多い通りをひたすら歩き続ける。

 そこでまず得た情報。



「絶対日本語ではないんだろうけど、言葉は理解できる。・・・ぽいね。小さい時見てたロボットアニメの道具みたいだな。あれ夢だったわー」



 佳音は言葉が理解できている原理を理解せずただ関心を抱くが容赦なく更なる問題は直面してくる。



「まじか・・・文字・・・読めないんだけど」



 目的地もなく歩き続けていると可憐に咲く花々に囲まれた円形の広場にたどり着くと立て札看板が目につく。そこに張られている紙をまじまじと見て佳音は顔を蒼ざめた。

 人間の口から発せられる言葉や会話は理解できても文字は理解できない。



「もしかしたら、もっとよく見れば文字も自然と理解できたりするんじゃ!」



 佳音は逃げもしない看板を両手で押さえつけ張り紙に顔を近づけながら一文字一文字を凝視する。



「ねぇお母さん。看板の所に変な女の人がいるよ!」


「こらっ、あんまり見ちゃダメよ。こっちに来なさい!・・・それにしてもあの人、なんで兵士の募集要項をあんな真剣に見ているのかしら。男性しか募集していないのに」


「・・・・・・・・・」



 結局、張り紙の内容を親子の会話で答え合わせできたものの自分の行動に下がり切っていた顔の体温は一気に上昇し佳音は真っ赤になった顔を隠そうと下を向きながらそっと看板から離れた。


 佳音は恥ずかしい気持ちを堪えながら子供の笑い声のする方へ顔を向ける。


 広場は装飾品や食料を出品している出店もあれば子供たちが遊んでいたりその母親や老人たちが談笑していてとても賑わっている。



――私・・・本当に元の世界に帰れるのかな。



 佳音は自然と足を止めその賑やかな広場をただ見つめている。佳音の脳裏に蘇る日本でいつしか見た光景がこの別世界で佳音が見ている光景に覆いかぶさっていた。

 佳音の胸を締め付ける元の世界への恋しさと寂寥感。喉元まで込み上がってくる不安をぐっと飲み込もうとした時だった。



「みんなー!“彼ら”が帰還したぞ!」



 数人の男たちが声を張りながら走り寄り集まりだした住人達に何かを話している。すると広場にいた者たちは一斉にどこかに向かって走り去った。



「何かあったのか?ここにいてもエモくなっちゃうだけだしとりあえず行ってみるか。だいじょうぶだ私!」



 彼らの喜びに満ちた表情が気になった佳音は、自分の頬を叩くと走って行った住人を追い広場を後にする。


 だがその姿を建物の薄暗い影から目で追いかけている者がいた。

 その人物は人気が無くなった広場へ足を踏み入れると、人混みに消えた佳音を見つめながら口元をそっと緩ませた。



「やっと・・・見つけたわ。ついに救世主(メサイア)様がこの世界に――」



 女性の()()()口調で雫のようにぽろりと呟く安らぎの声。

 その人物――()も群衆に向かって歩みだす。背中に流した美しい白銀の長い髪は零れ落ちる砂のようであった。




・・・

・・・・・・




「まるでパレードだな。さっきの人たちが言ってた“彼ら”っていうのが気になるのに・・・ぜんっぜん見えない!人多すぎなんですけど。そんなにすごい人たちなの?」



 佳音が住人たちの後を追った場所は街の中央にある大通り。道幅の広い通りを住人たちがこぞって囲んでおり誰を歓迎しているのかすら分からない。

 佳音は何度も飛び続け大通りの様子を伺うと数十人もの馬に乗る兵士が列をなして行進をしているのが分かる。

 街の入り口から沸き上がる歓声が段々とこちらまで近づくと、彼らを呼ぶ歓声に佳音は耳を疑った。



「「繁華の焔菊(フルブルームアスター)騎士団、万歳!地の国、リ・フォークに希望の光を!」」



――・・・ッ!リ・フォークにフルブルーム・・・って、まさか・・・?!



「本当に、よくぞ戻ってきてくれた!」


「おい、隊長が通るぞ!我らの英雄である――」



 歓声飛び交う言葉が電磁波となって佳音の記憶に送られる。佳音はその言葉(ワード)をよく知っていた。それは元の世界での最後の瞬間まで恋焦がれていた者に関わる言葉であったから。

 希求と同時に走る恐怖心。心臓の音が亢進し飛び跳ねていた体勢が力んでしまう。

 それでも佳音はひざを折りこれまで以上の力で跳ね上がると先頭で進行する『隊長』と呼ばれる人物が通っているところだった。


 ユニコーンのような角の刃が着いた鎧兜をつける黒い馬に乗る男の髪は夜を染める海のような深い藍色をしゆらゆらと鎖骨の辺りを揺れている。

 そしてただ前だけを見続ける太陽を拒む深紅の瞳。

 その時、大勢の人々の隙間からひょっこり現れた佳音と男の視線が合った。

 佳音にとってその一瞬は時が止まっていたようだった。

 これが確信に繋がる。



――えっ・・・。ど、どうしてあの人がここに・・・?なんでっ?こんなこと、あっちゃっていいの?



「だ、だってあの人って私の推し・・・咲霊(サライ)・・・だよねぇ?!」



 咲霊(サライ)は歓声にすら動じない。それどころか佳音と視線が合ったこともまるでなかったかのように表情一つ変えないまま視線をまた前方へ戻してしまった。



「やばい。私の推しが動いてる。瞬きもしてたっ!ていうか目ぇ合っちゃったんだけど!・・・じゃなくて!ま、待って。追いかけないとっ」



 興奮の熱は高まり沸騰する呼吸を佳音は必死に落ち着かせる。

 その間に咲霊たち一行は大通りの終わりにあるいくつか並ぶ高い建物。その建物を囲う柵の門をくぐりそのまま姿が見えなくなってしまった。

 興奮から目が覚めると咲霊たちを追いかけ話を聞いてもらおうと佳音は走り出す。

 もしかしたら自分の推しがゲームの中だけではなく、本当にこの異世界で助けてくれるのではと信じて。


 妄想・・・ではなく、期待が膨らみ佳音の頬や口元は次第に釣り上がるがその表情はなぜか下品になっている。しかし人混みをかき分けながら走るが思うように進まない。



「ぜんぜん前に進まん!ちょ、すみませんっ。・・・ぐっ?!」



 その時、建物同士の間から腕を強く握られ佳音は細い路地裏へ引きずり込まれそのまま転倒してしまう。


 なぜ自分を。そんな疑問よりも咲霊との距離を奪われたことに佳音は怒り腕を握ってきた人物に文句を言ってやろうと勢いよく顔をむけ睨みつける。そのつもりだった。



「いきなりなんスか?!私、今急いでるんですけど」


「ごめんなさいね。ワタシも急用があったから。・・・救世主(メサイア)様である、アナタに。ね?」





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