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モルペウスの手記  作者: プロ大学生
第一章 泰国編
3/5

1.「左回りはヤバすぎる」

皆は眠るときどうやって眠る?

自分は目を閉じて、瞼の内側を見るんだ。

外側の黒いのが内側に波打つのを見るとだんだん内側に景色が開けてくる。

そう、どこかの青い猫がタイムスリップするのと同じ感じ。


眠りにつく前はやけに周りが騒がしかった神裔がどうのこうのっていってたが..なんだったのか。

とりあえず眠ってしまった後は手術で気道に直接管をつなぎ、そこから栄養を補給するそうで、病気にならなければ寿命いっぱい生きれるらしい。

俗にいう植物人間的な感じなのだろう。


 夢の彼方

 貴方は契りを交わした

 金色の空で再会すると

 何度生まれ変わっても

 誰が為より貴方が為

 印し続ける約束の日まで


朧気だったが悲しいその歌を確かに聞いた。


水底に沈んでいるような感覚がいつの間にか暖かい陽射しを顔に感じ、目覚めた。


鬱陶しいほどの青空が目の前にひらけ、辺りを見回すと右手には鬱蒼とした竹林が広がっており、左手には絵に描いたような畦道が広がっている。


遠くでカラカラという音が聞こえたので、「なんだ?」と思って耳を澄ましているといきなり腕を引っ張られ、頭を地面に押さえつけられた。

抵抗しようと頭を上げると抑えつけられた。


「あんた殺されたいのかい。」


手の主は年増の女で、眉間に多く皺を寄せて剣幕に怒られた。

カラカラという音はもうそこまで近づいており、ちらと見ると金と朱に彩られた馬車だった。


「お姉さん、あの馬車は?」


女はこちらを一瞥すると、呆れ顔でこう答えた。


「あれは皇族の馬車だ。知らないのかい?」


知らないと答えると、隣国から逃げてきた者かと問われた

隣国の王が皇子を全員殺し、民が反旗を翻し内乱が進んでいるためにこの国へ亡命に来るものが多いのだという。


ここは夢の中の世界ですと言っても頭が可笑しいと言われるのがツキだ、そうだ隣国の者だと告げると、


「帝都に行きな。ここから道なりに12里も歩けばつくさ。

帝都に行ったら隣国の者が入るための列に並んで、職を頂けるよう王宮の門へ行って懇願するんだ。」

※注釈)ここでは1里=500mとする。


女に軽く会釈をすると、とりあえず帝都へとこの踏み均された畦道を進んだ。


帝都ということはおそらく皇帝が支配している国。


さらにこの風景ともなると恐らく中国、韓国、朝鮮...その辺りと考えるのが妥当そうだ。


長く傾斜の緩い坂道をずっと登り続けていた。

照りつける陽射しが薄い皮膚じりじりと刺激するのを感じなら、もう体中が汗だくになっていた。

こんなに汗だくになるのは高校の体育祭以来なんじゃなかろうか。


どこを見ても農村ばかりでいい加減嫌になってきたところに大層な高楼を2つ据えた、赤い門が視界をふさいだ。

施された金細工には龍のようなものがあり、上品さを感じた。

これらは恐らく関所だと思う。


やっと登りつめたのだろうととりあえず一息ついた。

馬を連れた行商のような恰好をした人や、広つば帽を被った金持ち風の男、かと思えば幼い娘も..様々な人が関所に並んでいた。

すかさず自分もそこに並んだ。


女が言った通り2,3質問をされ、城門を通された。

右回りというのがこの国が認可した通行手形を持つものを通す入り口で、


左回りというのがよそ者が通る入り口だと説明され、なんのこっちゃと最初が思ったのだが、すぐに理解した。

この町は一つの大きな王宮を取りかこむように形成され、王宮の城壁に張り巡らされた階段のことを左回り右回りというらしい。


「よぉ、アンタ賽国から亡命してきたんだってな?賽の奴らは内乱に巻き込まれて皆死んだと噂されてるのに運がいいんだな。」


後ろから身体に見合わない大きな風呂敷を抱えた背の低くて子犬みたいな顔した少年が話しかけてきた。

あまり根掘り葉掘り聞かれても答えられずに面倒だと思ったので曖昧に答える。


「この泰国って右回りを通ると商店やら妓楼やらが多くてそれはそれは栄えてるらしいんだが、左回りはなにもなくて、一度てっぺんの王宮の前を

通らないと右回りに入れないらしいぜ。抜け道も何もないんだと。上手くできてるよなぁ。」

「そうだね。君はこの国にはなにをしに?」

「俺か?俺は自分の国の金細工を売りに出稼ぎにな。みりゃわかると思うが芭者でな。芭国の工芸品は天下一品だから高く売れるのさ。」


聞けば芭国というのは資源が豊富で職人の多い国だが、如何せん商業が発達せず、他の国に出稼ぎに来ている者は少なくないという。

この少年は鳶職が着るニッカポッカのような衣服を着ているが、芭国の装束なのだろうか。


「あとどのぐらいで王宮の頂上までつくんだろうか」


道のりで坂道を散々あるいてこの左回りの道もとなればかなりの労力、歩き続けるのに嫌気が差してそう聞いた。


「3日ぐらいじゃないか?」


何当たり前のことを言っているのかという顔をした少年を見て唖然とした。

現代人の引きこもり度を舐めるなよ...そんなに歩いたら死んでしまうだろう!


「3日!?四半刻ぐらいかと思ったのに...。」


少年はため息をついて無知な奴だといわんばかりに、


「そんなわけないだろ、この泰国の王都は世界で一番広いんだからな。あ、でも右回りだと余裕で5日以上はかかるらしいぜ。」


だらだらと歩きながら話していると、たまに馬でここを駆け上がる者があり、それを事実だと知った。

もう日も落ちて半刻はたったころ、小さな灯りのついたところが見えた。


「あれが左回り名物の宿、終焉亭か...話には聞いていたが本当にボロなんだなぁ。」


縁起の悪い名前だ...しかも名前に違わず風が吹いたら崩れるんじゃないかというほど脆い宿だった。

しかし足も限界が来ており、ここで休むしかなかった。


出てきた質素の粥を食み、やっとのことで床に就けると思えば雑魚寝だった。


目を閉じながら考えていた。

思えば、夢の中で寝るという感覚は不思議だったし、疲労を感じるのも、陽射しの暖かさを感じるのもどうも不自然だ。

時間の流れだってまるで現実と同じような気がする。

何なんだこの違和感は...。



そこで意識は途切れた。

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