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1.「旅立ち」

1.「卒業」


----2XX3年

「ただいま。」


静まり返った家に向かって挨拶するのも日課となってしまった。

午後8時にバイトから帰ってきて、洗濯をして、ご飯を食べる。


最近の楽しみといえば映画ぐらいか、最近スマートフォンのアプリでエンタメを身体に入れている。

映画をみるのは凄く受動的な思考になるということは分かっているが、空き時間つぶすには、いや、孤独を紛らわすには丁度いい。

集中しているとあっという間に寝るのは深夜2時以降になってしまう。


他の大学生はやれサークルだ、やれ飲み会だと毎日祭りかのように騒いでいるが、自分にはあまりそういうのは向いてないらしい。

かと言って人と全く関わらないわけじゃない。

高校時代から気の置けない友達も少なからずいる。

ただ親友も自分もあまり多くを語らないタイプなので連絡をマメにする必要はない。

そんなやわな絆じゃないと一応は信じている。

それだけのことなのだ。


もう6年もただ漫然とそんな日々を過ごしている。


高校一年生の春、母が居なくなった。

うちは母子家庭の一人っ子で、母には割と懐いていたつもりだった。

しかし、高校にも行かせてもらっておきながら、大学に通いたいという自分の傲慢さに嫌気が差してしまったのかもしれない。

母は蒸発した。

足取りは分からない。

見つかると期待もしていないし、望んでもいない。


だから一人で生きてきた。


自分の人生、そんなもんだ。


悲観もしていないし、悲劇のヒロイン気取りになる気もさらさらない。


「(さて、今日はなんの映画をみるかな。)」


そう思っていると微かに玄関先の郵便受けにトスッという郵便物の入れられた音がした。

何が来たのかと見てみると案の定水道代の請求書だった。

まぁ、これは自分には関係ないものだ。


長らく開けてなかったので郵便物が少し溜まっていたらしく、ドサリとそれらが出てきた。

それを一つ一つ確認している途中、A4サイズの可笑しな赤い封筒が入っていた。

ただ背面にアパートの宛名が書いてあるだけで、他は何も書いていない。

怪しい以外の何物でもない、だがこういうのには少し好奇心が沸くものだ。


早速封を切ると、中身は悪い夢だと思いたくなるものだった。


書類が5枚入っており、奨学金の打ち切りの知らせと、大学の退学届けと、この寮からの退去命令がそのうちの3枚。

そして残りの2枚にはこれらの書類についての説明をするために市役所まで来いという内容と、手紙が入っていた。

こんな紙切れで今まで一人で生きてきた努力を棒に振れるものかという憤りと、何故こんなことになってしまったのかという疑問と、なにかやらかしたのかという焦りや不安が同時に沸き上がり、情動性の涙が流れた。恐怖だった。

そうも言ってられないので書類を読み込むと期限は2XX3年12月29日までで、今日は2XX3年12月26日、期限はすぐそこまで迫っていた。

手紙の封も、もう切った。

そこには...


現実世界からの卒業おめでとうございます。

貴方は3年に一度の選別式により、"日本FullTank協会 第68236号 職員"として選ばれました。

日本のために一生涯のお勤めをしていただきます。

詳しくは簑京市 市役所へお越しください。


と書かれていた。

日本Full Tank協会という耳馴染みのない名前に検索をかけてみると、一つだけホームページが出てきた。

クリックするとIDとPasswordを要求された。

どこかに記されていないかと書類をくまなく探すと手紙の裏にあった。


-Successful Login-


生まれるときにコンバーターを脳内にはめ込むのは今や常識的なことだが、夢を見ないものにはコンバーターは意味がない。

夢を見るとコンバーターが夢をエネルギーに変えて国に贈られる。

その恩恵として人々は、ガス、電気、通信、交通、水道...生活インフラの料金を安くされている。世界中どこでもそんな感じだ。

しかし、自分は稀な人間なのか、毎日夢を見るためにインフラの料金はほぼ無料なのだ。

短い居眠りやうたた寝でさえ夢を見るのだから当たり前といえば当たり前だ。


そのホームページの最初にはFullTankについての説明が書かれていた。

FullTankとは人間的な機能をすべて眠ることに当て、一生眠り続け、夢を見るために消費される人間ということだった。

世界の取り決めによって3年に一度国内の人口の0.003%までをFullTankにすることになっているらしい。

ということは世界中でFullTankになっている人間は35万人ほどだ。

なぜこれほどのことがニュースにならないのか不思議だったが、世界のFullTankを統制する協会がこの情報について斡旋しており、

普通の人間は知りえないことだそうだ。


しかし、あっさりとはいそうですかということはできない、そのために3年間の猶予があったらしい。

だが先ほど言ったように自分はかなり久しぶりに郵便受けを開いたため...。

もう言わなくても分かるだろう。


早朝、市役所に行くと、これについては断ることができない、1月5日から一斉に眠りに入ることを事務的に説明され、寮のような施設に案内された。

聞けば、FullTankを拒否することは犯罪にあたり、無期限で肉体労働を強いられるらしかった。


残酷だ、本当に。


まだ見たい映画もあったし、友達と行きたいことも話したいこともあった。

母さんにももちろん会いたかった。


その日は高校の友人を誘って、夜中まで飲んだし、泣きもした。

その翌日には大学の友達とも朝まで遊んだ。

一週間見たい映画も見まくった。

悔いがないなんてことはできないだろうが、思いつく限りやりたいことはできた。


そして___

  1月5日、その日、現実世界から卒業した。

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