喫茶店の1日section3
初瀬は注文の品を男性に渡す。その男性の顔は変わらず初瀬を睨み付けていた。
しかし、注文の品であるコーヒーを飲んだ途端に表情が変わる。美味しかったのだろうか、男性は笑顔を浮かべスマホを取り出す。そして、何かをスマホに打ち込んでいる。
帰り際には、笑顔で美味しかったといって代金を払って扉を出ていった。
その様子に、初瀬は笑顔を浮かべる。
基本的に、この喫茶店ではこの様な風景が日常である。つまりは、危険か分からない存在が来ては杞憂だったという事態のことである。
ただし忘れてはいけないのが『公共機関』に所属する四人の存在だった。
事件が終わった後、その打ち上げや反省会がこの喫茶店で行われる。閉店後に許可を得ず行われるこの集会は別に外部の者に露呈されている訳ではない。
だがこの喫茶店は有名になってしまっており、一人で店の経営をしているため休憩時間が初瀬にはない。やっとできたゆっくりできる時間をこのメンバーのせいで奪われていくストレスは大きい。
だからこの事態はいつか起こり得ることであった。
そのときは、ある意味いつも通りの光景だった。
「騒いでるそいつは置いておけばいいんじゃないのか?」
「いや、流石に白夜をそのまま放置というのは邪魔になりませんかね」
「初瀬さん、大丈夫ですか? いつもごめんなさい。止めようとはしてるのですが」
「ふふっ。ねえ、何かお酒ない?」
メンバー四人揃ったときの混沌具合もまたいつも通りの集会の風景である。
だが、初瀬にとっては溜まりに溜まったストレスを解放する場所としては最適だろう。
自分の命を軽く見ている者ばかりが揃った集会だから。
突如、初瀬は無言のままに拳銃を白夜の後頭部に突きつける。
「何かな? 本日二回目何だけども」
「流石に客に八つ当たりをするのは悪いでしょう? 白夜にならやってもいいと思ってるの」
白夜は両手を上に上げているが、余裕な表情をしている。
周りにいた人物はそれぞれ傍観しているだけであったため、助けることはしないようだ。
「あれは久しぶりに見ましたね」
「あの、何言っているのか私は分かりませんが止めないんですか?」
「止めないな。ただの八つ当たりを止めるのは面倒」
この場所には薄情なメンバーしかいないというのがよくわかる発言である。
白夜は表情を変えずに他の三人の言葉を聞いているが、適当なタイミングで初瀬に声をかけた。
「初瀬ちゃん。弾は入っていないようだけど、普通に危ないからね?」
「……」
その声を境に店内が静寂に包まれる。
暫くそのままの状態で何も変わらずにいたが、徐に初瀬は拳銃を下ろす。そして、呆れを含んだ溜息をつく。
「馬鹿馬鹿しい、こんなことをしても不毛ね。悪かったわ、変な空気にしてしまって」
その言葉を聞いて、昼のときに出現した少女は笑いながら否定する。
「ふっ。いや、初瀬が悪い訳ではないですよ」
「悪いのは便乗している俺達にもあるからな」
「分かっているのならもう少し控えてくれないかしらね」
基本的にこの世界は先に宣言した方が勝ちます。
宣言していても、矛盾とかがあった場合はそれをつかれると負けます。
根本的に覚悟を決める、何かを代償にして行動する、という場合が一番戦況を変えます。
人から外れた者程この根本的な性質を忘れて負けます。
強い者が負ける要因として、世界の法則に刻まれたものです。
ご都合主義の言い訳とも言います。