寡黙の魔女
僕は、魔女に拾われた。
拾ってくれた魔女は喋らない。それも一度も。
僕には左足が無い。魔女の作った義足が今では僕の左足だ。
左足は、親に切られた。親は、ストレスを幼い自分に当てて来た。ある日逃げようとしたら、それが親にバレて左足を切断された。そうして、治療もしてくれず森の中の小屋に放置された。そこで反省でもしてろと。その時は僕は死ぬかと思った。
意識が朦朧としている中、何か音が鳴った。力を振りしぼり音のなる方を見ると、大きい帽子を深く被った人が小屋の戸を開け自分の近くに立っていた。服は真っ黒で、怖かった。もう死ぬんだと思ったら体が宙に浮いた。そこからは意識が飛んだので覚えていない。
目が覚めればベットの上ににいた。そして、足の痛みはなかった。その代わりに、無くなった足の所に鉄でつくられた足みたいなのが装着していた。最初は不気味で怖かったけど、慣れていけば、足がないよりもずっと楽だった。
それが、僕が魔女に拾われた経緯。その義足は魔女が作ってくれて、魔女は僕を家から追い出そうとはしなかった。でも、親のところには帰りたいとも一度も思わなかった。僕は義足のおかげで動けるようになり、料理やできる範囲で魔女の手伝いをするようになった。
魔女は一言もしゃべらなかった。だけど何年か経てば喋らなくてもなんとなく、魔女の言いたいことが伝わるようになった。魔女は恥ずかしい時には後ろへ向き、照れた顔などを隠す癖があった。それが、とても可愛くて僕は魔女と死ぬまで一緒にずっと暮らしていたいと思った。
でも、人間の流れる時間は早かった。
自分の手がしわしわになってベットから動けなくなっても、魔女の容姿は全く変わらなかった。自分と魔女の流れる時間が違うことは昔からわかっていたのに、やはりどうしても悔しかった。ベットから動けなくなっても、魔女はいつも通り喋らず、それでも世話をしてくれた。昔、義足に慣れていなかった自分に手を差し伸べてくれたように。
「ありがとう」
って言っても言葉は帰って来ないし
「ごめんね」
って言っても言葉は帰ってこなかった。
最後ぐらい声が聞きたかったな。きっと素敵な声だろう。あぁ、眠たくなってきた。
目覚めたら若返ったなんて……そんな展開ないのは分かっている。そろそろお別れなんだね。気がつけば、魔女は僕の手を握って泣いていた。
魔女の泣いた顔なんて初めてだ。でも、そんな顔じゃなくて笑顔が良かったな。魔女の笑顔はとても可愛いんだ。
「笑顔のほうが泣いている顔よりも素敵だよ。また会おう。」
最後に魔女に挨拶をして、僕は目を閉じた。なぜか、不思議とまた会えるような気がした。そして意識が沈んでいた途中
「次はきっと、貴方を嫌いになって……こんな気持ちにはさようなら…してやるわ…」
そんな声が、聞こえたような気がした。こんな気持ちか……僕と同じ気持ちだといいな………。
~~~~~~
山に魔女が住んでいた。
その魔女には呪いにかかっていた。
「好きな者は自分よりも先に死ぬ」
「好きなものは生まれ変わりまた会えるがまた自分よりも先に死ぬ」
その長い人生の魔女は目の前で命の灯火が消えていく彼を何度も見るのはとても辛かった。
嫌われてやろうと色々したが、結局拾ってしまうし、結局嫌われなかった。一切喋らなくても、彼は魔法が使えないただの人間なのに、まるで魔法が使えるかのように自分の意思を読み取ってしまう。そして自分もまた、彼のことを好きになってしまったのだ。
ある、霧が深い日。魔女の家の戸を叩く者がいた。
「すいません、迷ってしまって。」
魔女は帽子を深く被り、戸へと向かった…。