絶体絶命の山道
シュラは、茶色のショートヘア、目鼻立ちハッキリとした美人よりも可愛いという印象を与える20才。
ギオン公国では当たり前のミニスカートは、他国では魅力的かつ奇異にもみられるけもしれない。 (普通、女性のスカートの丈は膝下10センチくらい。)
⭐好きな食べ物:
♡焼肉の牛バラ肉を白ご飯と一緒に食べること。
⭐好きな人(尊敬する人):
♡リュウオウ様(人外だが)
気は利くし優しい反面、争いを好み、勝利にこだわる戦闘狂。マナーや常識などは、一通り習ったはずだが、結局身に付かなかったと養父は嘆く。
両親とは先の大戦で死別し、近くの村に疎開した妹は行方不明。現ギオン公国の場所にあった村を帝国が蹂躙し多数の犠牲者がでたが、大陸中部の竜王の縄張りにまで帝国軍が侵入したために、竜王が激怒。点在した帝国軍を撃破しながら、連邦軍と対峙中だった帝国主力部隊に苛烈な攻撃をして敗走せしめた。
結果的に身内を殺された土地の住人の仇をとってくれた形だった。住人たちは感謝と畏怖を覚え、竜王の機嫌をとるために、生贄を差しだそうとした。
当時の滅びた村の村長は、身寄りのないシュラに目をつけて、言いくるめることにした。両親を亡くして気力が衰えていたこともあり、子供だったシュラは大人達の圧力に抵抗することすらできず、流れに身をゆだねるしかなかった。
その旨を村長が竜王の縄張りにわけ入り伝えたところ、断られ・代わりに毎年・牛1頭分の干し肉を納めるように言われたそうな。
一連の話を小耳にはさんだシュラは、竜王への感謝と憧れを強く抱き、同時に無力な自分に怒りを覚え、人より強くなって自分への決定権は自分以外に委ねないと心に決めた。
以来、竜王loveと負けず嫌いになった。
現在は、武者修行より戻りギオン公国ソドム王の護衛として、ギオン城三階のソドム王の部屋に住み込みで任務に従事している。
寝室に住み込んでまで護衛しなくてもいいとソドムは抗議したが、
「子供の頃から慣れてるから気にしないわ。」という、ぶっきらぼうな一言で同居が決定した。
(シュラとしては、アパートでの面倒な自炊・家事全般もしなくていいし、通う必要もなくなり、なにより家賃食費が浮く!!ソドムのイビキが気になるときは、みぞおちに一撃見舞えばおさまるから、問題はない。)
ソドムは、落胆したらしい。
若い娘が一緒の部屋というのも悪くはない、ソドムのことを置物か何かと思っているらしく、目の前で平気に着替えるのは役得だ。
が、犬のレウルーラとシュラがいたのでは、ご婦人を連れ込むわけにもいかないではないか!
なぜか、この二人はソドムが女性に手をだそうとすると邪魔をする。部屋に連れ込もうものなら八つ裂きにされるかもしれない。
シュラは竜王のように強く慈悲深いのが好み(そんな人間いるかはわからない)で、一般人には興味をもたないはずなのに、なんとなく盗られると負けた感じがするから邪魔するのだろうか、いずれにせよソドムにとっては迷惑以外何物でもない。
着替えシーンは捨てがたい…。だが、女性を連れ込めないし、シュラがいるとストレスのせいかはわからないが、寝起きに みぞおちのあたりが痛んだり、睡眠の質が低下する気がしないでもない。複雑な心境であるという。
崖の上にいる弓兵達から一斉射撃される直前、ソドム王は背後から両腕を捕まえられ絶体絶命の窮地に追い込まれた。
射撃の瞬間に避けるつもりが、味方によって後ろから羽交い締めされてしまうとは。それも、信用しきっていたシュラから。
10年も一緒に暮らした娘同然のシュラが裏切るなど、さすがに想定外なことだった。しかも、女戦士で格闘術も得意としているだけあって、振りほどくことなどできなかった。
ルメスが上で笑いながら言う。
「あらあら、仲間割れ?今さら王を売っても許さないわよ。」
「さあ、二人まとめて地獄に落ちなさい!」
それでもシュラは離さない。それどころか噛みついてきた。
ソドムの耳たぶへの甘噛み攻撃だった。
例えるに難しい感覚に襲われたソドムは、膝の力がわずかに抜けた。シュラは、それを見逃さず柔術で引き倒し、馬乗りになった。
これにより、ソドムの位置が大幅にズレたため、弓矢で蜂の巣にならずにはすんだ。今までいた場所に矢が殺到して突き刺さる。
ルメスの弓兵が優秀でなかったら、広範囲に攻撃がばらけて逆に命中していたかもしれない。このあたりが、刺青職人から傭兵に転身したばかりで戦慣れしていない部分だった。
動く相手や、動く可能性がある相手には、移動予測地点へ射つのが玄人というものであろう。百発百中はよろしいが、放たれた後に軌道修正できない以上、兵の何割かには的からズラすように指示しなくてはならないが、ルメスは気がついていない。
いかに不利な状態に追い込まれても、会話が成立する相手ならば、何とか交渉してみるのが、ソドムの流儀である。ダメ元で、シュラに語りかけてみる。
「シュラ、俺を差し出して何を得るのだ!?」、少し寂しげな表情でソドムは問う。
馬乗りになり、シュラは手でソドムをまさぐりながら返答した。
「違うの!体が勝手に動くのよ!」、顔を赤らめながら叫んだ。
そして、自らの鎧を外し、上着を脱ぎ始めた。
呆れて見ていたタクヤが、状況を理解した。
「ドム!タトゥーだ。ルメスの魔法効果範囲が広がって、[床上手]が発動したに違いない!」
タクヤは、このまま見物してみたい気もしないでもないが、それでは全滅してしまうので、一応ソドムに見解を伝えたのだった。
「そうか、魔法か!裏切りではなかったんだな」、少し安堵してソドムはシュラの体に視線を戻した。(どこまでやるのか見届けたいものだ。魔法のせいでしかたなく、そのようになったという言い訳はたつわけだし。)
「見るな!バカー!後で殺すぞ」、とシュラは暴言を吐きながら上着を脱ぎ捨て、意志に反して下着を脱ぎにかかった。
命を狙われながら、このような展開になることは古今あるまい。
タトゥーの影響に気がついたルメスは、狙撃を停止させた。
「面白い余興ね。昔の私の作品にも効果が及ぶとは」
「どのようなテクニックかを勉強させてもらってから射殺すとしましょうか」、ルメスは弓兵達とともに床上手っぷりを見学することにし、その場に座りこんだ。
「魔法を解除しろー!斧投げんぞ、コノヤロー!」、涙目でシュラは叫ぶ。だが、斧を握らず、下着に手をかけてしまっている。
言ってることと、やってることのギャップに、弓兵は爆笑した。
(しめた!時間を稼げる。茂助がルメスの息の根を止めるまで、シュラと戯れていれば、我々の勝利となるだろう。となれば、せいぜい楽しませてもらおうか)
「茂助がルメスに接近して暗殺するまで、時間を稼いでくれ。今は辛抱だ」と、ソドムは小声で馬乗りになってるシュラに語りかけた。少し心苦しい表情を作ってみせながら。
言葉を聞く余裕は、シュラにはなかった。
「わかった!見逃してあげるから、魔法を解除してちょうだい!」、崖の上のルメスを見上げてシュラは懇願した。
※普通に考えて、今までやりたい放題やってきて、命乞いや懇願するほど無様なものはない。
「えっ?なんか言った?ていうか、この状況で見逃してもらう必要なんてないし。それにメインターゲットはソドム王なのよ。あなたは、ついで」
「それに、私の上級傭兵の証【殺戮三昧】が皆さんを地獄へ招待せずにはいられないのよね。」、ルメスは自らの右目の下に彫られてるタトゥーを指差しながら薄ら笑いをした。
弓兵達も共に笑う。いや、笑っていたはずだった。
だが、笑いはじめに彼らの命は消し飛んでいた。
ソドムとタクヤは、数秒前に異変には気づき、見ていたが…。
伝説武具である両手剣を下に構えてブツブツ呟いていたタジムの額の前に眩い雷が発現して、それは見る見る大きくなっていった。
タジムの目は閉じられていたが、詠唱が終わり雷が最高出力に到ったと同時に目を開きターゲットであるルメス一党をにらみつけた。
これが、魔法の発動の一連だが、わざわざ名称を叫んだ。
「くらえ!大雷!!」
額にあった雷は、解き放たれたように放射状に広がり対象に襲い掛かった。音は轟音というより、静電気の音を激しくしたようなもので、聞き慣れない音が一瞬しただけだった。
その威力たるや、破壊の光が直径5mの円筒状になって一直線に崖向かい、崖そのものをくり抜いたように消し飛ばした。当然、敵は全て死んだであろう。
とんでもない威力に、ソドムとシュラとタクヤは、圧倒された。
シュラは、魔法影響下から解放され、ソドムの顔面に蹴りをいれながら上着を着て思った。
(こんな凄い魔法あるなら、早く使ってよね!)
ソドムは、魔法の威力に感心しつつ、立ち上がって一つ思い出した。
「茂助ぇ~!」、ルメス暗殺のため背後に回った茂助も、まとめて溶けたかもしれない!(なんてこった、個人プレーの弊害か!)
「ははっ、これに」、とソドム背後に茂助が現れた。
のけ反るソドム。
「崖を登って、暗殺しにいったんじゃないのか?」
「いえ、戦いが苦手ですので隠れてました」
「・・、そうか」、ソドム気にしてないふりを演じる。(おいおい、本当に戦い苦手なのかよ)
「今のルメスとやらで気になる点がありました」
「うむ?」
「殺戮三昧という漢字が、【殺戮三味】味という間違った残念タトゥーでした」、真顔で茂助は報告した。
「・・・そうか。よくぞ、教えてくれた」、ソドムは一応褒めた。
(人の価値観はそれぞれだ。他から馬鹿にしか見えなくても、本人にとっては信念ある行動かもしれないから、合わせるのも人心を掴む秘けつだ。)うなずきながら、崖を見上げる。
(相変わらず、どうでもいい報告でも喜んでくださる変な王様でいらっしゃる)、茂助は、そう心でぼやいた。
ソドム、もう一つ思い出す、
「あっ、また皆殺しにしやがったから、暗殺首謀者がわからないままではないか!」、今さら仕方ないが、いいかげん首謀者を明らかにしないと、次々刺客が襲ってきて、つど撃退するも、いつかは不覚をとるかもしれない。
いや、そもそもタジムの大雷があれば、帝国軍の魔術師に勝てるんじゃないのか?
となると、今回の旅は無駄足ではなかろうか。
だが、レウルーラの呪い解除する手段がわかった以上、早めに助ける必要はあった。犬の10才は人間では80才くらいの状態と聞く、寿命で死なれたらかなわない。やはり来た意味はあったか、などとソドムが思いながらタジムに目を向けた。
タジムは精神力体力を使い果たし、膝から崩れるように倒れた。気を失いながらも、その表情は満足げだった。
「て、おい!聞いてはいたけど、切り札の魔法使うと本当に戦闘不能になるのかよ!」ソドムはタジムに走り寄り、ほほを叩いて起こそうとした。(凄まじい魔法だが、初見殺しというヤツだな。詠唱の長さと、直線的効果範囲とわかっていれば脅威ではない。
それにしても、中距離では卓越した剣技、至近距離では金剛聖拳、遠距離では大雷とまるで隙が無い最強の人間だな。
他のメンバーも集まり、タジムに話しかけるも反応はなかった。
王都は一時間も歩けば着くはずなのだが、2mの気絶した大男を運びながらでは、かなりの時間がかかり、刺客がまた来襲したら、全滅もありうる。これからどうするか協議したが、名案もなく、時間だけが過ぎていく。
「よし、置いて行こう!」、シュラがサラリと言ってのけた。