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積年の恨み

 敵の待ち伏せ覚悟で縦一列で行軍するソドム一行。


先頭から、君主タジム・犬のリードを握るソドム王と犬・戦士シュラ・忍者の茂助・侍のタクヤと続いた。


 崖からの狙撃は当然警戒するが、道沿いの茂みも油断ならないので注視しながら前進した。

 

 ソドムが若き頃、山道にて至近距離の茂みから熊が突如現れたことあったが、半径1メートルということもあり戦うどころか対峙すらせず、猛ダッシュで逃げたトラウマがある。


 いくら、対策を知っていても突然大型の生物が横にいたら、本能で逃げてしまうものだ。(逃げながら確認したら、カモシカであったが)

 いざという時、背を高くみせることや、刺激せず持ち物を落としながら逃げる・死んだふりなどの知識より、体が走り出し逃げてしまうで、よほど訓練しないかぎり盾を構えて迎撃などということはできない。やはり、奇襲や先手必勝は有効と認めざるえない。

 ゆえに、訓練された軍馬や騎士はコストがかかり、すぐ逃げだす民兵や駆け出し傭兵は、給金が安いのだ。

 しばらくして、待ち伏せの場所が近いことを茂助が小声で伝えた。


 ちょうど日が沈みかけ足早に先を目指したくなり、つい警戒を(おこた)ってしまいそうな地点であった。


 

 ただ、警戒するあまり崖ばかり見ると不自然なので、眼前を見据えたふりをして、狙撃された直後に盾を構えてダッシュして狙撃二射目には危険地帯から離脱するつもりでいた。街にさえ滑り込めば、刺客とてあきらめるだろう。



 いち早く殺気に気づき、行動したのは茂助ではなくタジムだった。


 弓を引き絞る音と、放たれた音の数から盾程度では防ぎきれないと一瞬で判断し、


 

 ソドム王を突き飛ばした。



 タジムの判断は的中していた。ソドムがいた場所の地面には、十本程の矢が突き刺さっていた。恐るべき正確さといえる。


 これほどの正確さでは、走って逃げても二射目で射抜かれてしまうかもしれない。実戦経験豊富なタジムとシュラは、そう感じた。



 突き飛ばされたソドムは、タジムの怪力と、うっかり使われた金剛聖拳の打撃により、上半身の鎧は破壊され5メートル吹き飛ばされた挙げ句、岩壁に激突していた。岩も衝撃で少し崩れる。


 物理耐性(プロテクト)があっても、かなりのダメージを負ったソドム。


 なによりも、金剛聖拳が効いた。


 暗黒魔法である物理耐性をまるで無視して、鎧まで壊されボロ雑巾のように岩に叩きつけられ、逆さまの体制になった。


 脳裏に「ワザとではないのか?」と浮かばなくもない。普通の人間なら、暗殺前に死んでる所だ。



 ソドムは、なんとか起き上がりながら周りを見わたした。



 タジムは、突き飛ばして救ったことに満足して、崖の弓兵を注視している。


 さすがに護衛のシュラと、犬のレウルーラは心配してソドムに駆け寄った。タクヤは、びびって右往左往している。


 もはや、組織的な行動は望めない。


 矢の狙いにくい死角に避難して、立て直しをはかるのが最善と判断し、崖の真下に一行は身を寄せた。タジムを除いて…。



すると、敵の首領格の痩せ気味の男が、崖の上から声をかけてきた。


「ソドム王、恨みはないけれど命をいただきます。あと、小娘!あなたはギタギタになぶり殺してあげる!」見下ろしながら、高い声で男は言った。

 

 三十半ば赤毛の長髪の男で、他の弓兵とは違い黒色の外套(ローブ)を着ていた。

 服には、何やら紋章が刺繍されているが、少し疑えば邪教徒の服装と誰でも気がつくだろう。

 

 タジムが避難せず、仁王立ちで見据えているのは、そのためだった。もはやタジムの心は、護衛より趣味の討伐モードに切り替わっていた。



「その声!」 シュラが反応して憎しみの目を男に向けた。


そして、右手で顔のタトゥーを触りながら、


「あん時の彫り師ルメスだな!探したわよ!」、右手を片手斧に戻して強く握る。(床上手なんて彫りやがって!頭かち割ってやる!)


 シュラ、怒り心頭で阿修羅の如き形相となる。



 首領のルメスは、火に油を注ぐかのように言葉を続ける。



「元はといえば、あなたの傲慢な態度が悪いの!なのに私が逃げ惑う日々になるなんておかしい!」ルメスの声はさらに高くなる。

「同業者は、あなたを恐れて私を遠ざけた。私は、仲間に見捨てられ、小娘(あなた)に命を狙われ続けて絶望したわ。」悲しみと怒りの混在する表情でシュラに語りかけた。


⭐中立的に言えば、態度が悪いシュラと、大人げなく嫌がらせタトゥーを彫ったルメス、どちらもアウトなのだが、当事者からすると相手が悪いという理論になるようだ。



「あーそうかい!そんな日々も今日で終わりにしてやるよ!まさか、そっちからノコノコ来てくれるなんてね!」、残忍な笑みでシュラが応じた。



 だが、ルメスも負けてない。


「そうね。絶望の中、闇の神に授かった力を見せてあげる!」

激昂がおさまり、首領ルメスは石を拾い上げ、軽く落としてきた。  

 その石が落ちている間に、弓兵の矢が石を弾き、弾かれた先でも他の弓兵が放った矢が石を弾いた。それを弓兵全員がやってのけた。


 これほど正確に当てる様を誰もみたことはない。


 すぐさま二射目を打たないのも、取り逃がさない自信があるからと、今の曲芸まがいの技で理解せざるを得ない。



「私はね、神に授かった魔法で、刺青(アート)した対象(かた)に刻んだ言葉通りの力を発揮させることが出来るのよ!」と不敵に笑った。

「ちなみに、彼らの右手には[百発百中]と刻んであるの」

「更に魔力を解放すれば、右肩の[一撃必殺]も有効になって潜在的な力を引きだして、威力が倍になるわ」、ルメスは揺るぎない勝ちに酔いしれている。


「ソドム王暗殺の依頼がきたときは、嬉しかったわ。新興の傭兵団だけど、これで有名になれるからね。それに報酬だけじゃなく、ついでに小娘(あなた)を殺せるんだから」ルメスにとっては一石二鳥どころか三鳥のようだった。



 ソドム達は飛び道具もないため、どうにもならない。


 崖を登るにも、今より危険が増す。


 死角にいるとはいえ、絶対狙えない角度でもなく、このままではジリ貧が目に見えていた。



 ソドムは、邪教徒ならば交渉の余地があると思ったが、タジムの手前 友好的にするわけにもいかない。

 地味な個人魔法(オリジナルスペル)だが地理的条件次第で、かなり手強い。味方に欲しいくらいだとも思った。


 さて、どうしたものかと自分に回復魔法をかけながら考えた。



 ふと気づくと、縄跳茂助の姿が見当たらない。共に崖下に避難したはずなのだが。



 が、すぐにソドムは察した。


 敵の強力な弓兵は、首領である邪教徒ルメスがいてこそ正確かつ強力な矢を放つ訳で、首領を始末すれば脅威ではなくなる。もしかしたら、戦う意義も無くなるかもしれない。


 縄跳茂助、おそらく首領ルメスに忍び寄り、斬るつもりなのだろう。


 そうと決まれば、茂助が崖に登り敵の背後をとるまで、どうにかして話を長引かせることが、今できる援護だろう。

 


 挑発するにしても、シュラでは逆に挑発されるかもしれないので、タクヤに煽るように頼んでみた。

 

 タクヤ、さすがに今はゴネない。了承して、弓の射程に入り刀を抜いた。 


 

「あーあ、そっちは十人もいて姑息に飛び道具で決着かよ」


「え?情けねーな。腕に覚えのある強者はいねーのか!?」、素振りをしながらタクヤは言った。腰がひけていて、重心が後ろすぎる素人のソレだった。



 ルメスにとっては、効果抜群の挑発だったようで、ごうの者をそちらによこすと言い始めた。



「弓で射殺すつもりだったけど、やめたわ」、チラリと後ろを振り返り


法一坊(ほういちぼう)さん、いらっしゃい」と、二メートルはある破戒僧(はかいそう)を呼び出した。


 大和帝国の僧侶の服を着込み、手には巨大な金棒をもった食人鬼(オーガ)のような大男が、のっそり現れて、崖を転げ落ちるようにして下り、同じく大男の君主タジムの前に立ちはだかった。


 邪悪を憎み、好敵手を歓迎するタジムは、兜の内でニヤリと笑う。


 そして、喜びのあまり雄叫びを上げる。


 まるで、護衛任務を忘れている、間違いなく。

 


 ルメスは暗黒魔法を唱え、味方の能力強化と効果範囲を広げた。


 破戒僧は戦闘体制になり、弓兵たちはソドムに狙いを定めた。



「法一坊さんは、私の最新作よ。あらゆる所に刺青(アート)があって、超人的な力を発揮するわ!初めての獲物だから、加減できないかもね。」、そして首領は更に詠唱した。

 


「望む所だ!悪は許さん!」、タジムが構えて叫ぶ。



 魔法の影響で、破戒僧の全身に刻まれた様々な刺青が紫色に光り出す。



「一撃必殺」、「百発百中」、「乾坤一擲」、「先手必勝」、「一騎当千」「羊頭狗肉」、「身体堅固」、「一攫千金」、「興味津々」、「支離滅裂」、「酒池肉林」、etc.と、とにかく光った。


 もはや、戦闘に関係ない文面もあり、無茶な要求の数々に体が耐えられず、


「グオオォー!」という断末魔を最後に、破戒僧は倒れ、痙攣しながら死亡した。



 タジム、対戦相手の突然死に肩透かしをくらい、怒りのやり場を失う。大剣を地に降ろしブツブツ呟く。



「あら?失敗作みたいね」 と、ルメスは溜息まじりで言って、つまらないのでサッサと終わらせるために、弓兵に撃つように合図した。



 ソドムは、姿勢を低くして避けるタイミングを計っていた。


 最初の奇襲違って、撃つのがわかっていれば、一回くらいなら飛び退って、避けることはできるはずであった。



 が、意外にも後ろから両腕を押さえつけられた。



 そして、振り返れる範囲で視界にはいった者の名を、うめくような低い声で言った。




     「シュラ、おまえもか!!」



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